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日本企業の競争力 ~ 厳しいグローバル環境下でも底堅い競争力

2026年1月7日

●日本の財部門の貿易特化係数を見ると、自動車・鉄鋼・機械類などで比較優位があり、日本の製造業の国際競争力は引き続き底堅い。

●自動車の電動化やヒューマノイドロボット分野では技術革新が加速し、中国企業が競争力を高めるなど、グローバル競争は厳しさを増しているが、日本企業もビジネスモデルの転換による巻き返しの余地はある。

●サービス部門の貿易特化係数では、旅行の比較優位が際立ち、インバウンド消費が日本の稼ぐ力を押し上げている。デジタルは比較劣位の度合いが大きいが、海外テクノロジーを活用しつつ、コンテンツ産業など強みのある領域で付加価値と収益化を高めることが重要となる。

●日本企業の海外展開は収益面で成果が表れており、直接投資収益率は主要国対比で高水準にある。国内のビジネス環境も好転しており、日本企業がポテンシャルを活かす機会は広がっている。

新しい年を迎え、2026年の日本経済、日本株を展望する上で、日本企業の国際競争力について、マクロ・セミマクロの視点から改めて考察した。


筆者は、日本の国際競争力を測る上で、貿易特化係数(TSI: Trade Specialization Index)を定点観測している。TSIとは、各セクターや品目の輸出額と輸入額を用い、(輸出-輸入)を(輸出+輸入)で割って算出する指標で、+1に近いほど比較優位、▲1に近いほど比較劣位にあることを示す。主要地域における主要貿易品のTSIを時系列で比較することで、国際的な競争環境の変化の一面を把握することができる。


日本は自動車や鉄鋼などが比較優位

国際比較が可能なOECDのデータ(HS2分類)に基づき、日本の主要な財セクターの2025年(1~10月)のTSIを高い順に見ると、自動車が+0.71、鉄鋼が+0.56、貴金属が+0.31、機械類が+0.22、プラスチック及び製品が+0.21、光学・精密機器が+0.11となっており、日本は自動車や鉄鋼などが比較優位にあることが確認できる(図表1~4)。ただし、貴金属を除くと、いずれのセクターでもTSIは低下傾向にあり、日本の製造業の比較優位は徐々に弱まっている。グローバルの製造業の競争環境が厳しくなっているためで、中国のTSIを2004年と2025年で比較すると、自動車が▲0.05から+0.66、機械類が+0.13から+0.41となるなど、高付加価値セクターでの比較優位を強めている。とはいえ、それでも日本の自動車、鉄鋼、機械類などのTSIは相応のプラスで、日本の製造業は依然として高い比較優位を保っていると言えるだろう。

図表1:米国の貿易特化係数(貿易額上位10品目) 図表2:日本の貿易特化係数(貿易額上位10品目)
図表3:ドイツの貿易特化係数(貿易額上位10品目) 図表4:中国の貿易特化係数(貿易額上位10品目)

ロボティクス分野での巻き返しに期待

自動車に関しては、グローバルのEV化の流れに日本企業が乗り遅れ、比較優位が失われるリスクが懸念されていたが、足元でEV需要は地域で濃淡が生じており、日本企業の得意とするHVが勢いを取り戻しつつある。EVに関しても、中国企業の急速な台頭で、特に中国において日本企業の苦戦が伝えられたが、一部の日本企業は現地調達を積極化させることなどで現地のニーズに迅速に対応できるようビジネスモデルを転換し、巻き返しを図っている。自動車以外の分野でも、ロボティクスの分野の中でヒューマノイドロボットに注目が集まり、AIとの組み合わせ技術に長けた米国や中国企業の先行が伝えられている。ただ、ロボティクスはもともと日本企業が高い技術力を有する分野であり、今後の巻き返しに期待したい。

サービス部門では旅行が比較優位、デジタルが比較劣位

次に、日本の主要なサービスのTSIを見ていく。サービスについては、サービス貿易を「輸送等」、「知財等」、「旅行」、「デジタル」、「金融」、「その他」の6つに分類し(注)、TSIを作成した(図表5~8)。日本のサービスの2025年(1~10月)のTSIは、旅行が+0.47、知財等が+0.06、その他が+0.05、輸送等が▲0.21、金融が▲0.30、デジタルが▲0.42となっている(図表6)。訪日観光客の増加もあり、旅行が大幅なプラスとなっている一方で、巷間指摘されている通り、デジタルが大幅なマイナスで、比較劣位の度合いが大きい。デジタル以外でも、輸送等、金融のTSIがマイナスだが、輸送等に関しては、日本の海運企業が海外子会社を活用し、そこへの支払いがサービス輸入として計上される一方、海外子会社の収益は第一次所得収支に計上されるという統計上のテクニカルな要因も小さくないようである。金融については、海外の再保険会社への支払いが影響している模様である。


(注)サービス貿易の分類については、「輸送等」=貨物輸送+委託加工サービス+維持修繕サービス、「知財等」=産業財産権等使用料+研究開発サービス+技術・貿易関連・その他業務サービス、「旅行」=旅客輸送+旅行、「デジタル」=著作権等使用料+通信サービス+コンピューターサービス+情報サービス+専門・経営コンサルティングサービス、「金融」=保険・年金サービス+金融サービス、「その他」=建設+個人・文化娯楽サービス+公的サービス等、と定義。


図表5:米国のサービス貿易特化係数 図表6:日本のサービス貿易特化係数
図表7:ドイツのサービス貿易特化係数 図表8:中国のサービス貿易特化係数

デジタルにおける比較劣位、いわゆるデジタル赤字に関しては、ウェブ広告の支払い、クラウドサービスの利用料、ソフトウェアのダウンロード代金、音楽・映像配信に伴う各種ライセンス料などが大きく寄与している模様で、米国のプラットフォーマーへの依存が影響していると見られる(図表5)。ただ、デジタル赤字を回避し、米国のプラットフォーマーの利用を控えれば、日本の競争力、国民の効用は低下するだけである。デジタル赤字を過度に問題視せず、プラットフォームを有効に活用し、生産性の向上やイノベーションの発現に努め、新たな競争分野を育てていくことが重要だろう。

コンテンツ産業にポテンシャル

既に多くが指摘しているが、日本の比較優位とされるコンテンツ産業の競争力にさらに磨きをかけることで、日本の稼ぐ力を高める余地はまだあるだろう(図表9、10)。巨大な人口を抱える新興国経済で成長が続き、経済の成熟化とともにサービス化の流れが進むと見られる中、コンテンツ市場のポテンシャルは大きいだろう。AIを活用すれば、コンテンツの多言語化も迅速かつ容易に進めることが可能で、日本のコンテンツ産業のポテンシャルを発揮する機会はまだまだありそうだ。

図表9:日本の輸出規模の相場観(2023年) 図表10:日本のコンテンツの海外市場規模の推移と分野別内訳

日本企業の海外展開力は高い

もう一つ、筆者が注目しているのが、日本企業の海外展開力である(図表11、12)。25年度の経済財政白書を参考に計算すると、日本の直接投資の収益率は、2015~24年の10年間の平均で8.09%と、米国の6.38%、英国の5.62%、ドイツの5.04%と比べて高い(図表11)。日本の直接投資の収益率に関しては、キャピタルロスが考慮されていないため、投資の失敗によるキャピタルロスを考慮するとリターンはそこまで高くないとの指摘がある。また、米国に関しては、大手IT企業が税務目的でアイルランドなどの導管国に展開し、当地での利益が直接投資収益ではなくサービス輸出に計上されることで、直接投資収益が低めに出ている可能性がある。このため、上記の収益率の比較は割り引いて見る必要がある。しかし、それでも日本の直接投資収益率が極端に低いという結論にはならないのではないか。内閣府は、日本の直接投資収益率が高い理由について、海外での収益を現地での投資に回し、うまく機能しているためと前向きに評価している。


図表11:主要国の直接投資収益率 図表12:日本の対外直接投資



筆者の意見も内閣府と同様で、円高に加えて、デフレで国内の事業環境が厳しかった中、製造業を中心に海外に活路を求め、そこで競争力に磨きをかけ、日本の直接投資の収益率が高まったのではないか。日本の2024年の直接投資収益率をセクター別に見ると、鉱業が19.3%、輸送機械器具が12.1%、卸・小売が11.8%、電気機械器具が9.6%と全体の収益率を上回っており、資源関連及び加工組み立て型の製造業の収益率が高い(図表13)。製造業について、地域別の収益率を見ると、タイが16.4%、インドネシアが14.9%、インドが14.6%と、平均を上回る収益率となっており、アジアの高い成長をきちんと取り込んだことが、日本の高い直接投資収益率の背景にあると見られる(図表14)。

図表13:日本の業種別の直接投資収益率(2024年、上位10業種) 図表14:日本の製造業の地域別の直接投資収益率(2024年、上位10地域)

サービス業の海外展開に期待

最近では、非製造業でも、国内のデフレ下で磨いた競争力を生かし、アジアへの展開を強める動きが見られている。価格競争力だけではなく、たとえばユニクロは機能性を充実させることで、価格+αを強化した。筆者は先日、中国に出張し、現地のユニクロやMUJI、スシローなど日系企業の店舗を見学した。短い期間の出張で、見学したのは大都市の数店舗にすぎなかったが、現地の顧客から日本企業の+αの魅力が支持されている印象を受けた。


日本経済はデフレをほぼ脱却し、国内のビジネス環境も好転している。グローバルの競争環境、国際情勢は厳しいが、日本企業がポテンシャルを活かす機会は広がっており、チャンスは十分にあるのではないか。

シニアマクロストラテジスト 
渡邊 誠