先月のマーケットの振り返り(2015年7月)【マンスリー】
2015年8月3日
1.概観
トピックス |
中国株式市場は景気減速懸念が強まり、大きく下落しました。豪ドルなどの資源国通貨も対円で連れ安となりました。 ユーロは、ギリシャ情勢が一旦落ち着き、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和が意識されたことから対米ドル、対円で下落しました。 |
---|---|
株式 | 米国市場は、ギリシャ情勢が一旦落ち着いたことや総じて好調な企業決算などがプラス要因でしたが、原油の大幅下落などのマイナス要因が重なり、小幅の上昇にとどまりました。日本市場は、ギリシャ情勢が一旦落ち着いたことや堅調な企業決算などから、上昇しました。 |
債券 | ドイツ国債の利回りは量的緩和の継続などから小幅に低下しました。米国債は、ドイツ国債に連動し、利回りは低下しました。 |
為替 | 米ドルは、ギリシャ情勢が一旦落ち着いたことや年内の米国の利上げが意識され、対円、対ユーロで上昇しました。 |
商品 | 原油価格は、イラン情勢などを背景に石油輸出国機構(OPEC)の供給増加懸念から、下落しました。 |
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
2.トピックス
(1)中国株式市場は景気減速懸念が強まり、大きく下落しました。豪ドルなどの資源国通貨も対円で連れ安となりました。
<現状>
7月の上海総合指数は、前月比▲14.3%下落し、6月とあわせて、2カ月で2割超の下落となりました。景気減速懸念の強まりから株価が下げ足を速め、政府・当局は相次いで株価対策を講じました。一旦は下げ止まったものの、売買停止の解除や株価対策の縮小懸念により投資家の不安心理はなかなか解消されず、7月の企業景況感などの低調な経済指標の公表も下落に拍車をかけました。中国の景気減速懸念と株価下落などから、原油や資源価格は下落し、豪ドルは対円で月間▲4.1%下落しました。日経平均株価は中国市場の影響を受けましたが、4-6月期の決算が好調なことを下支えに、月間で上昇しました。
<見通し>
中国の株式市場は国内の個人投資家が主体で、投資家の不安心理が落ち着くにはまだ時間がかかりそうです。一方、生産や小売などの経済指標の一部は下げ止まりの兆しも見られます。追加の景気・株価対策が期待され、景気が底堅さを見せるに連れ、株価も下値不安が和らぐと見込まれます。豪ドルなどの一部の資源国通貨も、中国の景気減速懸念が弱まるに連れ、次第に底堅い展開となることが予想されます。
(2)ユーロは、ギリシャ情勢が一旦落ち着き、ECBの量的緩和が意識されたことから対米ドル、対円で下落しました。
<現状>
7月5日のギリシャの国民投票で、欧州連合(EU)の財政緊縮案に約6割の国民が「No」の判断を下し、不透明感が高まりました。しかし、12日~13日のユーロ圏首脳会合でチプラス首相は一転してユーロ圏残留のため財政緊縮法案の法制化を受け入れたことから、ギリシャは20日にEUから約71億ユーロのつなぎ融資を受け、最大860億ユーロのギリシャ第3次支援交渉がスタートしました。市場は一旦落ち着き、為替市場では欧州中央銀行(ECB)の量的緩和が意識され、ユーロは対米ドルで前月末比▲1.5%、対円で同▲0.4%下落しました。また、株式市場では、DAX指数が月間で+3.3%上昇しました。
<見通し>
ギリシャはEUから改革案を次々と法制化することを求められています。ギリシャの与党内にはこれ以上の改革に消極的なグループがあることや、債務削減を巡って支援側のEUと国際通貨基金(IMF)との意見の対立もあり、スムーズに第3次支援交渉が合意されるか不透明です。しかし、ギリシャがEUなどの支援を得てユーロ圏に残留する方向性は明確となり、また、欧州では欧州安定メカニズム(ESM)や単一監督メカニズム(SSM)などの金融危機回避の仕組みが整備されていることから、2012年のように金融危機がユーロ圏加盟国に伝播する可能性は限定的と見られます。
3.景気動向
<現状>
米国は、4-6月期の実質GDP成長率が前期比年率+2.3%となり、1-3月期のマイナス成長からプラス成長へ回復しています。
欧州は、量的緩和によるユーロ安による輸出の回復が生産や消費などに波及し、景気は緩やかに回復しています。
日本は、4-6月期の生産が冴えず、実質GDPの一時的な落ち込みが予想されるものの、回復基調は継続していると見られます。
中国は、4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.0%と1-3月期比横ばいでしたが、生産や小売は下げ止まりの兆しも見られます。
豪州は、住宅価格の上昇による資産効果などから消費が緩やかな回復傾向にあり、輸出にも底入れ感が出ています。
<見通し>
米国は、経済指標の下振れが一巡し、年+3%程度の成長が見込まれます。
欧州は、ECBの金融緩和により、輸出や個人消費の回復が期待され、緩やかな景気回復が持続する見通しです。
日本は、米国景気の回復などから7-9月期以降生産や消費が回復し、景気の再浮揚が見込まれます。
中国は、「新常態」を目指した経済構造改革の進展、追加金融緩和、財政支出などの景気対策などへの期待が高まっています。
豪州は、過去10年の平均成長率(+3%前後)を下回りそうですが、物価が安定し、消費と住宅が景気を下支えすると予想されます。
4.企業業績と株式
<現状>
主要米国企業の4-6月期の増益率は前年同期比+1.1%(トムソン・ロイター調べ、7月31日の約68%の集計時点)と、前四半期の同+2.2%から鈍化しました。日本の主要企業(東証1部、3月期決算、除く金融、 7月29日の約13%の集計時点)の2015年4-6月期は、経常利益が前年同期比約3割増益と、消費税の影響から落ち込んだ前年からは大きく改善しています。
<見通し>
主要米国企業の2015年の予想増益率は前年同期比+1.2%と、年後半に向けて改善し、「エネルギー」セクターの大幅な減益を除けば概ね堅調な業績が見込まれています。日本の主要企業の2015年度の経常利益は、景気の緩やかな改善、円安傾向、米国景気の回復などから、前年度比+2.9%程度が見込まれます。中国などの世界経済の減速懸念は市場の重石と見られ、変動が大きくなる可能性もあります。しかし、ギリシャ情勢が一旦落ち着き、日米欧などの先進国の株式市場は底堅い企業業績を背景に、底堅く推移することが期待されます。
5.金融政策
<現状>
FRB(連邦準備制度理事会)は、雇用や経済指標の改善を確認し、年内の利上げ開始のタイミングを慎重に見極めています。ECB(欧州中央銀行)は月約600億ユーロの国債などを購入する量的金融緩和を継続しています。日銀は、マネタリーベースを年間約80兆円拡大させる強力な金融緩和を続けています。
<見通し>
米国の利上げペースは緩やかと見込まれます。ECBは消費者物価上昇率を2%近くとする物価目標の達成が見通せるまで、現行の国債購入と長期リファイナンスオペ(TLTRO)による金融緩和を継続する見込みです。また、ECBは必要に応じて、国債購入額を増額する方針を示しています。ギリシャ情勢は一旦落ち着き、ユーロ圏の周辺国へ伝播するリスクは限定的と見られます。日銀は現行の強力な金融緩和を当面維持する方針です。米国と日欧での金融政策の方向性の違いが意識される展開が当面続く見込みです。
6.債券
<現状>
ドイツ国債の利回りは、月初はギリシャ情勢の不透明感の高まりを受け、投資家のリスク回避が強まり低下しました。中旬に、ギリシャ支援開始に向けたギリシャと欧州連合(EU)などの歩み寄りが見られたことなどから上昇する局面も見られましたが、月末に向けて欧州中央銀行(ECB)の量的緩和の継続が改めて意識され、利回りは月間で小幅に低下しました。米国債の利回りは、ドイツ国債に連動し、小幅に低下しました。
米国の社債スプレッド(国債との利回り差)は、資源価格の下落などの影響を受け小幅に拡大しました。
<見通し>
米国債利回りは年内の利上げ開始が意識され緩やかに上昇する展開が見込まれます。しかし、米国の物価見通しの落ち着きから、国債利回りの上昇は緩やかにとどまると予想されます。ドイツ国債の利回りは、投資家の格付けの高い国債への需要が底堅いことや、ECBの国債購入の継続から、低位での落ち着きどころを探る展開が見込まれます。ギリシャ情勢は一旦落ち着き、2012年のように危機がユーロ圏加盟国に伝播する可能性は限定的と見られます。米国など主要国の社債市場では、企業の底堅い業績や慎重な財務運営などを背景に、利回りの上昇は限定的となり、その結果、社債スプレッドは比較的安定的な推移が見込まれます。
7.為替
<現状>
米ドルは、対円で上昇しました。ギリシャ情勢の不透明感の高まりなどを背景に、一時120円台中頃まで米ドルが下落する局面も見られました。しかしその後、ギリシャ支援開始に向けたギリシャと欧州連合(EU)などの歩み寄りが見られたことなどから、リスク回避が後退し、米ドルが上昇しました。米国の年内利上げ観測が意識されたことも米ドルの上昇を後押ししました。ユーロは、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和が意識され、対円、対米ドルで下落しました。
<見通し>
米ドル円相場は、日米の金融政策の方向性の違いが引き続き意識され、円が下落しやすい環境が継続する見込みです。ただし、中国などの世界経済の減速懸念などの高まりや資源価格の下落などにより、リスク回避の動きが強まる場合には、円が上昇する場面も想定されます。ユーロ円相場は、日欧ともに金融緩和の方向にあることから、方向感が出にくいと見込まれます。
8.リート
<現状>
リート市場は上昇しました。主要国の国債利回りが低下したことがプラスに影響しました。しかし、米ドルは円に対して上昇したことから、円ベースのリート指数は現地通貨ベースより上昇率が大きくなりました。
<見通し>
米国の物価見通しが落ち着いていることから、米国の利上げペースは緩やかにとどまり、金利が急上昇するリスクは限定的とみられます。米国景気は4-6月期以降、回復が見込まれます。消費の底堅さから、経済は年後半に年+3%程度の成長に向かうと見られます。不動産市場の回復、資金調達コスト抑制などリート市場にとっての好環境は今後も続くことが期待され、リート市場は底堅い展開が予想されます。
9.まとめ
株式 | 米国は、経済指標の下振れが一巡し、年+3%程度の成長が見込まれます。ギリシャ情勢は一旦落ち着き、日米欧などの先進国の株式市場は底堅い企業業績を背景に、底堅く推移することが期待されます。 |
---|---|
債券 |
米国債利回りは米国の年内の利上げ開始が意識され緩やかに上昇する展開が見込まれます。しかし、米国の物価見通しの落ち着きから、国債利回りの上昇は緩やかにとどまると予想されます。 ドイツ国債の利回りは、投資家の格付けの高い国債への需要が底堅いことや、ECBの国債購入の継続から、低位での落ち着きどころを探る展開が見込まれます。ギリシャ情勢は一旦落ち着き、ユーロ圏の周辺国への波及は限定的と見られます。 |
為替 |
米ドル円相場は、日米の金融政策の方向性の違いが引き続き意識され、円が下落しやすい環境が継続する見込みです。ただし、中国などの世界経済の減速懸念などの高まりや資源価格の下落などにより、リスク回避の動きが強まる場合には、円が上昇する場面も想定されます。 ユーロ円相場は、日欧ともに金融緩和の方向にあることから、方向感が出にくいと見込まれます。 |
リート | 国債利回りが急上昇するリスクは限定的で、リートの資金調達環境もしばらくは良好と見られます。また、世界景気の緩やかな回復を背景に、賃料など不動産市場は堅調に推移すると見られ、リート市場は底堅い展開が見込まれます。 |
|
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。 |