先月のマーケットの振り返り(2015年6月)【マンスリー】
2015年7月1日
1.概観
トピックス |
ギリシャとEUとの交渉は合意に至らず、投資家のリスク回避の動きが強まり、世界の株式市場は下落しました。 日経平均株価は、6月24日に終値で20,868.03円をつけ、ITバブル期の高値を約15年ぶりに上回りました。 |
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株式 |
米国市場は、堅調な経済指標を受けた年内利上げ観測やギリシャ情勢の不透明感から下落しました。 日本市場は、堅調な企業決算などから上昇する局面もありましたが、ギリシャ問題が重石となり、下落しました。 |
債券 | 米国債利回りは年内の利上げ観測から上昇し、ドイツ国債の利回りも物価上昇を背景に上昇しました。 |
為替 | 米ドルは、円安けん制と受け止められた日銀総裁発言やギリシャ問題を背景としたリスク回避の動きなどから、対円で下落しました。 |
商品 | 原油価格は、石油輸出国機構(OPEC)総会や米国の原油在庫の増減などを材料に、一進一退の動きとなりました。 |

(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
2.トピックス
(1)ギリシャとEUとの交渉は合意に至らず、投資家のリスク回避の動きが強まり、世界の株式市場は下落しました。
<現状>
ギリシャは、欧州連合(EU)からの金融支援の条件となる改革案の受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に実施することとしました。ギリシャとEUの第2次金融支援プログラムの延長交渉は6月30日の期限までに合意に至らず、ギリシャは同日期限の約15億ユーロのIMFへの債務返済を延滞しました。欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャに対する緊急流動性支援(ELA)を現残高で凍結したことから、ギリシャは銀行の営業を6月29日から7月6日まで停止する資本規制を実施しました。投資家のリスク回避の動きが強まり、世界の株式は下落しました。中国本土市場は、当局の信用規制強化や新規株式公開(IPO)の増加による需給悪化懸念もあり、大きく下落しました。
<見通し>
27日に公表された世論調査では、「ギリシャはEUとの交渉に戻るべき」との意見が57.5%の支持を得ました。国民投票でEU案が賛成された場合は、ギリシャの政権交代が予想され、新政府とEUなどとの金融支援交渉が再開し、不透明感が徐々に和らぐと予想されます。万一、EU案の受け入れが反対されると、ギリシャのユーロ圏離脱の可能性が高まり、不透明感が一層高まることに留意すべきと見込まれます。

(2)日経平均株価は、6月24日に終値で20,868.03円をつけ、ITバブル期の高値を約15年ぶりに上回りました。
<現状>
日経平均株価は、企業収益が過去最高益を更新するなか、ギリシャ問題への楽観的な見方が一時強まったことから、6月24日にはITバブル期の高値を上回りました。米ドル円レートは一時124円台をつけ、円安の動きとなったことも株価を後押ししました。しかしその後、ギリシャのデフォルト懸念の強まりや中国本土の株価が大きく下落したことから投資家のリスク回避の動きが強まり、6月月間では▲1.6%下落しました。
<見通し>
ギリシャ問題は、7月5日の国民投票で欧州連合(EU)案の受け入れが支持され、政権交代、新政府とEUとの交渉開始となれば、不透明感は徐々に後退しそうです。米国では景気が1-3月期の一時的な弱さから回復し、年内の利上げが意識されると見込まれます。従って、日米の金融政策の方向性の違いから、米ドル円レートは円安傾向が意識され、また、円安による企業業績の上方修正も予想されます。株価は、企業業績に沿った底堅い展開が期待されます。

3.景気動向
<現状>
米国は、1-3月期の実質GDP成長率が前期比年率▲0.2%に上方修正されました。雇用の底堅さは持続しています。
欧州は、1-3月期の実質GDP成長率が前期比+0.4%と、景気は緩やかな回復傾向となっています。
日本は、1-3月期の実質GDP成長率が前期比年率+3.9%に上方修正され、企業部門から家計への好循環が広がりつつあります。
中国は、1-3月期の実質GDP成長率が前年同期比+7.0%に鈍化し、追加金融緩和などにより、景気テコ入れを図っています。
豪州は、住宅価格の上昇による資産効果などから消費が回復傾向にあり、輸出にも底入れ感が出ています。
<見通し>
米国は、経済指標の下振れが一巡し、年+3%程度の成長が見込まれます。
欧州は、ECBの金融緩和により、輸出や個人消費の回復が期待され、緩やかな景気回復が持続する見通しです。
日本は、日銀の強力な金融緩和や所得増による消費の回復が期待され、景気は持ち直しが見込まれます。
中国は、「新常態」を目指した経済構造改革の進展、追加金融緩和、財政支出などの景気対策などへの期待が高まっています。
豪州は、過去10年の平均成長率(+3%前後)を下回りそうですが、物価が安定し、消費と住宅が景気を下支えすると予想されます。

4.企業業績と株式
<現状>
主要米国企業の1-3月期の増益率は前年同期比+2.2%(6月30日付けのトムソン・ロイターの集計)と、前四半期の同+7.0%から鈍化しました。日本の主要企業(東証1部、3月期決算、除く金融)の2015年1-3月期は、経常利益が前年度比+2.8%程度の増益でした。
<見通し>
主要米国企業の4-6月期の予想増益率は前年同期比▲3.0%と低調ですが、年後半に向けて改善し、通年では+1.0%程度となっています。「エネルギー」セクターの大幅な減益を除けば概ね堅調な業績が見込まれています。日本の主要企業の2015年度の経常利益は、景気の緩やかな改善、円安傾向、米国景気の回復などから、前年度比+8.6%程度が見込まれます。日米ともに底堅い企業業績を背景に、株価は底堅く推移することが期待されます。ギリシャ問題を巡る不透明感は、引き続き市場の重石と見られ、変動が大きくなる可能性もありますが、 EUによる支援協議が再開されれば、徐々に落ち着くと見られます。

5.金融政策
<現状>
FRBは、雇用や経済指標の改善を確認し、年内の利上げ開始のタイミングを慎重に見極めています。ECBは月約600億ユーロの国債などを購入する量的金融緩和を継続しています。日銀は、マネタリーベースを年間約80兆円拡大させる強力な金融緩和を続けています。
<見通し>
米国の利上げペースは緩やかと見込まれます。ECBは消費者物価上昇率を2%近くとする物価目標の達成が見通せるまで、現行の国債購入と長期リファイナンスオペ(TLTRO)による金融緩和を継続する見込みです。また、ECBはギリシャ情勢などに応じて、流動性供給を拡大すると見られ、金融システムリスクの回避に万全を期し、周辺国への波及は抑制されると見られます。日銀は現行の強力な金融緩和を当面維持する方針です。米国と日欧での金融政策の方向性の違いが意識される展開が当面続く見込みです。

6.債券
<現状>
米国債利回りは、米国の雇用や経済指標の改善を受け上昇しました。ドイツ国債の利回りは、月初にドイツやユーロ圏の物価上昇率が上振れたことから上昇しましたが、中旬以降、ギリシャ問題を巡る不透明感の高まりから、格付けの高いドイツ国債の需要が高まり、利回りは若干低下しました。米国の社債スプレッド(国債との利回り差)は、ギリシャ問題への懸念などから拡大しました。
<見通し>
米国債利回りは年内の利上げ開始が意識され緩やかに上昇する展開が見込まれます。しかし、米国の物価見通しの落ち着きから、国債利回りの上昇は緩やかにとどまると予想されます。ドイツ国債の利回りは、投資家の格付けの高い国債への需要が底堅いことや、ECBの国債購入の継続から、低位での落ち着きどころを探る展開が見込まれます。ギリシャ問題を巡り、市場の変動が大きくなる可能性がありますが、EUによる支援協議が再開されれば、徐々に落ち着くと見られます。米国など主要国の社債市場では、企業の底堅い業績や慎重な財務運営などを背景に、利回りの上昇は限定的となり、その結果、社債スプレッドは比較的安定的な推移が見込まれます。

7.為替
<現状>
米ドルは、対円で下落しました。黒田日銀総裁の国会での答弁が円安けん制と受け止められ、一時122円台まで円高が進みました。その後、堅調な米国経済指標の公表を受け、ドルは若干上昇しました。ユーロは、ユーロ圏の国債利回り上昇の影響を受け、対米ドル、対円で上昇しました。ギリシャの国民投票実施の報道を受けて、ユーロは対ドル、対円で一時下落した局面もありましたが、その後値を戻しました。
<見通し>
米ドル円相場は、日米の金融政策の方向性の違いが引き続き意識され、円が下落しやすい環境が継続する見込みです。ただし、急激な円安への警戒やギリシャ問題などから、円が上昇する場面も想定されます。ユーロ円相場は、日欧ともに金融緩和の方向にあることから、方向感が出にくいと見込まれます。ギリシャ問題の不透明感が高まる場合はユーロ安円高要因となりそうです。

8.リート
<現状>
リート市場は下落しました。主要国の国債利回りが上昇したことが影響しました。しかし、米ドルは円に対して下落したことから、円ベースのリート指数は現地通貨ベースより下落幅が大きくなりました。
<見通し>
米国の物価見通しが落ち着いていることから、米国の利上げペースは緩やかにとどまり金利が急上昇するリスクは限定的とみられます。米国の景気の下振れは一時的と見られ、4-6月期以降は回復が見込まれます。消費の底堅さから、経済は年後半に年+3%程度の成長に向かうと見られます。不動産市場の回復、資金調達コスト抑制などリート市場にとっての好環境は今後も続くことが期待され、リート市場は底堅い展開が予想されます。

9.まとめ
株式 | 米国は、経済指標の下振れが一巡し、年後半に+3%程度の成長に向かうと見られます。各国の企業業績は堅調に推移していること、世界的な低金利環境が続くと見られることなどに支えられ、先進国、新興国ともに、株価は底堅く推移することが期待されます。ギリシャ問題を巡る不透明感は、引き続き市場の重石と見られ、変動が大きくなる可能性がありますが、EUによる支援協議が再開されれば、徐々に落ち着くと見られます。 |
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債券 |
米国債利回りは米国の年内の利上げ開始が意識され緩やかに上昇する展開が見込まれます。しかし、米国の物価見通しの落ち着きから、国債利回りの上昇は緩やかにとどまると予想されます。 ドイツ国債の利回りは、投資家の格付けの高い国債への需要が底堅いことや、ECBの国債購入の継続から、低位での落ち着きどころを探る展開が見込まれます。ECBはギリシャ情勢などに応じて、流動性供給を拡大すると見られ、金融システムリスクの回避に万全を期し、周辺国への波及は抑制されると見られます。ギリシャ問題を巡り、市場の変動が大きくなる可能性がありますが、EUによる支援協議が再開されれば、徐々に落ち着くと見られます。 |
為替 |
米ドル円相場は、日米の金融政策の方向性の違いが引き続き意識され、円が下落しやすい環境が継続する見込みです。急激な円安への警戒やギリシャ問題などから、円が上昇する場面も想定されます。 ユーロ円相場は、日欧ともに金融緩和強化の方向にあることから、方向感が出にくいと見込まれます。また、ギリシャ問題の不透明感が高まる場合はユーロ安円高要因となりそうです。 |
リート |
国債利回りが急上昇するリスクは限定的で、リートの資金調達環境もしばらくは良好と見られます。また、世界景気の緩やかな回復を背景に、賃料など不動産市場は堅調に推移すると見られ、リート市場は底堅い展開が見込まれます。 ※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。 |