先月のマーケットの振り返り(2025年8月)
2025年9月2日
1.概観
株式 |
8月の主要な株式市場では、米国、日本、中国市場の上昇が目立ちました。米国では、これまで相場をけん引したAI関連銘柄が利益確定売りに押されましたが、出遅れ銘柄が反騰し、指数の上昇をけん引しました。日本では、鉄鋼・非鉄、不動産、銀行セクターなど株主還元を強化しているセクターが上昇を先導する展開が続いています。米国との外交交渉が難航するインド市場は軟調でしたが、通商摩擦が緩和した中国市場は上昇しました。政府による景気刺激策への期待から株式市場に資金が流入しました。本土への資金還流で香港市場はほぼ横ばいでした。欧州市場は、政治的混乱が影響し、もみ合い状態となりました。 |
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債券 |
米国の10年国債利回り(長期金利)は低下しました。 雇用統計の軟化を受け、政策金利引き下げ期待が膨らみ、月初に長期金利は低下しました。インフレ指標を見て、後半、長期金利はもみ合い状態となりました。ドイツでは、政策金利は据え置かれ、今後財政赤字が拡大するとの懸念から、長期金利は上昇しました。日本では、日銀が経済・物価見通しの確度が高まったと評価していることから、政策金利引き上げ期待が高まり、長期金利は上昇基調をたどりました。 |
為替 |
米国雇用統計の軟化で、米国の政策金利の引き下げ期待が高まり、円高となりました。欧州で政策金利引き下げ一巡感が出る一方で、米国で利下げ期待が高まったため、ユーロに対してもドル安となりました。米国連邦準備制度理事会(FRB)への介入問題にもかかわらず、米ドルへの信認は保たれています。 |
商品 |
主要産油国による増産で需給が緩和するとの観測から原油価格は下落しました。アジアの指標のドバイ原油価格がWTIを上回る状態が続いています。 |
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
2.景気動向
<現状>
●米国の4-6月期の実質GDP改定値の成長率は前期比年率+3.3%でした。改定前の成長率+3.0%から上方修正されました。
●欧州(ユーロ圏)の4‐6月期の実質GDP速報値の成長率は前期比年率+0.5%でした。 1‐3月期の成長率は+2.3%でした。
●日本の4‐6月期の実質GDP1次速報値の成長率は前期比年率+1.0%となりました。 1‐3月期の成長率も+0.6%に上方修正されました。
●中国の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.2%でした。1‐3月期の成長率は+5.4%でした。
●豪州の1-3月期の実質GDP速報値の成長率は前年同期比+1.3%でした。前期の同+1.3%と同水準でした。
<見通し>
●米国の25年の実質GDP成長率見通しを+1.7%、26年見通しを1.6%に上方修正しました。AI関連など設備投資が底堅く伸びていることが要因です。ただし、関税引き上げの影響によりインフレ率が上振れ、年後半に経済成長は鈍化する見方は維持します。雇用者数の伸びが鈍化しているため、FRBの利下げ予想を前倒しし、25年内3回に修正しました。26年には減税等の効果も現れ、米国景気は持ち直すと予想します。
●欧州では、25年+1.2%、26年+1.2%の実質GDP成長率見通しを維持しました。雇用や貸し出しなど内需関連指標は安定しています。米国の関税引き上げによる輸出下振れが見込まれますが、財政支出の拡大により、大きな落ち込みは避けられる見通しです。欧州中央銀行(ECB)の利下げの累積効果、域内防衛費の拡大、EUの財政支出拡大、などにより26年には成長率は回復に転じると予想します。
●日本の実質GDP成長率見通しは、25年度+0.6%、26年度+0.7%に修正しました。①4‐6月期のGDPが想定を上振れ、②日米関税協議の決着、③ガソリン暫定税率の廃止が見込まれる、などが要因です。米関税引き上げは日本の実質GDPを0.4%ポイント程度押し下げると試算されますが、26年度には、海外経済の回復や減税など景気刺激策により内需も回復に転じ、日本経済は成長軌道に復すると予想します。
●中国は、25年+4.8%、26年+4.6%の経済成長見通しを維持します。年前半は、①消費財買い替え促進制度、②輸出の前倒し、③ハイテク関連投資の増加、などが成長率を下支えしましたが、年後半は反動が懸念されます。家計のバランスシート問題が消費需要不足の要因のようです。
●豪州では、インフレ率がオーストラリア準備銀行(RBA)の目標の下限付近に達し、追加利下げが行われました。雇用環境は良好な状態を維持しており、小売売上高は市場予想を上回りました。個人消費を中心に内需は底堅く、米関税の影響など不透明感漂う外需の減速をカバーしそうです。
3.金融政策
<現状>
●22日の講演の前半部分で、パウエルFRB議長は、「見通しとリスクのバランスの変化により、政策スタンスの調整が必要になる可能性がある」と述べました。後半部分では、主に金融政策の枠組みについてコメントしています。全会一致で改定された新しい枠組みでは、「雇用目標とインフレ目標が補完的でない時期のアプローチを明確にする変更」が行われ、「長期的なインフレ率は2%」を目標とすると発言しました。新しい枠組みでは、最大限の雇用は、安定した物価の下で達成できるとされています。物価と雇用が目標に達する時期にはずれがあることもある、との文もあります。
●ECBは7月の理事会で政策金利を2.00%に据え置きました。4-6月期のユーロ圏妥結賃金が4%上昇と1-3月期から加速し、政策委員会メンバーの中には、追加利下げは不要と表明する委員が増えています。
●日銀は、7月の金融政策決定会合において、政策金利を据え置く一方で、経済・物価見通しの確度が高まったと評価しました。
<見通し>
●関税引き上げの影響がインフレ率の上昇や米景気の鈍化を招くまでにもう少し時間がかかるとみられます。弊社は一部のFRBメンバーが主張しているように、インフレ率の低下が起こる前でも、雇用の鈍化が確認されれば、FRBは25年9月、10月、12月に各0.25%の利下げを実施すると予想します。
●ECBは景気下振れのリスクは小さいとみている一方で、物価も抑制されているとコメントしていることから、政策金利は2%に据え置かれる見通しです。米景気が予想以上に悪化し、ユーロ高が進行しない限り、追加利下げは検討されないと予想します。
●日銀総裁は、米国関税の影響を丁寧に見極めているようです。弊社は、次回の利上げ時期を春闘の情勢が確認できる26年1月と予想しています。
4.債券
<現状>
●米国の10年国債利回り(長期金利)は月初の急低下により、月間では低下しました。①軟化した雇用統計の発表、②FRBのクグラー理事の辞任、などにより、長期金利は一時4.2%割れまで低下しました。この最低水準と比べると、予想を上回るインフレ指標などから、月末は上振れています。
●ドイツでは長期金利が上昇しました。月初は、米国長期金利の先高観が後退し、ドイツ長期金利も低下しました。しかし、①来年からドイツ国債の発行額が増えるため、タームプレミアムの見直しが進行、②フランスの政治混乱でユーロが軟化、などにより月末にかけ長期金利は上昇基調をたどりました。
●日本の10年国債利回りは上昇しました。米の値上がりが、外食、加工食品の値上がりに波及し、消費者物価上昇率を引き上げているため、日銀内に利上げを求める意見があるようです。日銀が保有国債の圧縮を続け国債の需給が悪化することも、長期国債利回りが上昇する要因と見られます。
●米国の投資適格社債については、社債利回りが低下し、スプレッド(国債と社債の利回り差)は歴史的にみても低水準な位置にあります。
<見通し>
●米国では、長期金利は若干の低下後、もみ合いの展開を予想します。FRBによる利下げは予防的なもので、26年以降は様子見になる見通しです。
●欧州では、財政政策の恩恵で景気は底堅く、政策金利は据え置かれる見通しです。財政赤字の増加からタームプレミアムは高止まりする見込みです。
●日本の長期金利は、国内景気が26年から回復すると見込まれることや日銀の追加利上げ観測から、先高観が続くと想定しています。
5.企業業績と株式
<現状>
●米ファクトセット(FactSet)によれば、日米の企業業績の見通しは堅調です。8月末の米S&P500種指数の予想1株当たり純利益(EPS)は前年同月比+9.2%、TOPIXの予想EPSは同+5.2%となりました。
●米国株式市場では、相場をけん引していた超大型テクノロジー株やAI関連向け需要が期待される電力株などが利益確定売りに押されました。逆に、年初来の上昇率では下位に位置しているアップル、ユナイテッドヘルス、インテルなどの銘柄が8月の上昇率上位に並んでいます。銘柄のローテーションがうまく進み、NYダウは前月比+3.2%、S&P500種指数は同+1.9%上昇し最高値を更新しました。
●日本株式市場では、①電線株を中心とする鉄鋼・非鉄、②不動産、③銀行、④電力・ガスセクターが、8月、年初来ともに上昇率上位のセクターとなりました。業績の拡大とともに株主還元を拡大していることが評価され、IT株が利益確定売りに押される中でのTOPIX最高値更新に貢献しました。
<見通し>
●米国株式市場では、減税と米ドル安が企業業績を押し上げる見込みです。また、好材料を織り込んでバリュエーションが上昇していますが、政策金利の引き下げが見込まれるため、高水準のバリュエーションも許容されるでしょう。関税の引き上げやドル安により輸入品との競争が和らぐ内需関連株やハイテク関連銘柄には、業績上方修正余地が大きいとみています。
●日本株式市場では、トランプ関税は景気、企業業績に重荷になると見られますが、交渉により高率の相互関税、自動車関税を避けられる見通しで、景気後退リスクは小さくなったと見ます。政府の経済対策、企業のトランプ関税への対応策(特に自動車業界)が示されれば、米欧の景気回復や自社株買いなど株主還元への期待から、株価は上昇すると予想します。リスクは、日銀が利上げをした際の株式市場の反応が挙げられるでしょう。
6.為替
<現状>
●円の対米ドルレートでは、月初は、米国雇用統計の軟化で、米国の政策金利の引き下げ期待が高まり、円高となりました。日米の金利差が大きく一本調子の円高とはなっていませんが、トランプ政権のFRBに対する介入や日米中央銀行の金融政策の観測報道、などに反応する展開が続きました。
●ユーロ・米ドルレートでは、月初は米国の景気失速懸念から、ユーロが買われました。ただ、米金利が下げ止まると、ユーロ買いの新規材料に乏しく、ユーロ高は止まりました。日銀の利上げ観測が後退したことなどから、円に対してはユーロ高となりました。
●円の対豪ドルレートでは、RBAが期待に反し政策金利を据え置いたため、円安となりました。地政学リスクの高まりも豪ドル高要因でした。
<見通し>
●円の対米ドルレートは、もみ合いの展開を予想します。FRBの利下げ観測と日銀の段階的な利上げ観測が米ドル安の要因となるとみています。一方で、①参院選の結果、日本の財政規律の低下が懸念される、②日本人の高水準の対外証券投資の継続、などは円安要因となっています。
●円の対ユーロレートでは、もみ合いの展開を予想します。FRBの利下げ観測が高まる中、ECBの利下げは一巡したとみられ、ユーロは米ドルに対し、高止まる見通しです。円はドルに対しもみ合う見通しで、円に対してもユーロは高値圏でもみ合う展開を予想します。
●円の対豪ドルレートは、豪ドルには米ドルからの資産分散需要や商品市況上昇などの上昇要因がありますが、RBAの利下げが円高要因となりそうです。
7.リート
<現状>
●グローバルリート市場(米ドルベース)では、米国、オーストラリア、日本、シンガポールなどの主要国のリート市場が好調でした。一方、先月好調であった香港は、利益確定売りと中国本土向けへの資金還流で下落しました。木材、ホテルセクターが好調で、データセンターが軟調でした。ドイツ、フランスなど大陸国のリート市場は堅調に推移しましたが、分配利回りと10年国債利回りのスプレッドが小さい英国ではリート市場の調整が続きました。
●日本では、オフィス賃貸市場のファンダメンタルズ改善を背景にリート指数の上昇が続いています。東証の投資家主体別売買動向によると、7月、海外投資家は売り越しましたが、投資信託が買い越しました。さらに、銀行が7か月ぶりに買い越し、需給面での変化が見られました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比+3.95%となりました。月間の換算用の円ドルレートは円高となり、円ベースのリターンは同+1.41%となりました。
<見通し>
●グローバルリート市場は、米国の関税を含む外交政策や長期金利動向に左右される不安定な展開が想定されます。日本を含むアジアや欧州では、長期金利が上昇したり高止まりした結果、分配金利回りとのスプレッドが縮小しているので、保有不動産の質や分配金の安定性や成長性も重視する必要があります。
●アジア・オセアニアでは、シンガポールで金利低下に伴う業績回復が期待されます。また、豪州では決算において良好な運営状態が確認されるとともに、RBAの利下げが投資の安心感を高めています。日本は引き続き堅調な動きを予想します。主要セクターであるオフィスセクターで、空室率の低下と新規契約賃料の上昇が続いていることが要因です。
8.まとめ
債券 |
●米国では、長期金利は若干の低下後、もみ合いの展開を予想します。FRBによる利下げは予防的なもので、26年以降は様子見になる見通しです。 ●欧州では、財政政策の恩恵で景気は底堅く、政策金利は据え置かれる見通しです。財政赤字の増加からタームプレミアムは高止まりする見込みです。 ●日本の長期金利は、国内景気が26年から回復すると見込まれることや日銀の追加利上げ観測から、先高観が続くと想定しています。 |
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株式 |
●米国株式市場では、減税と米ドル安が企業業績を押し上げる見込みです。また、好材料を織り込んでバリュエーションが上昇していますが、政策金利の引き下げが見込まれるため、高水準のバリュエーションも許容されるでしょう。関税の引き上げやドル安により輸入品との競争が和らぐ内需関連株やハイテク関連銘柄には、業績上方修正余地が大きいとみています。 ●日本株式市場では、トランプ関税は景気、企業業績に重荷になると見られますが、交渉により高率の相互関税、自動車関税を避けられる見通しで、景気後退リスクは小さくなったと見ます。政府の経済対策、企業のトランプ関税への対応策(特に自動車業界)が示されれば、米欧の景気回復や自社株買いなど株主還元への期待から、株価は上昇すると予想します。リスクは、日銀が利上げをした際の株式市場の反応が挙げられるでしょう。 |
為替 |
●円の対米ドルレートは、もみ合いの展開を予想します。FRBの利下げ観測と日銀の段階的な利上げ観測が米ドル安の要因となるとみています。一方で、①参院選の結果、日本の財政規律の低下が懸念される、②日本人の高水準の対外証券投資の継続、などは円安要因となっています。 ●円の対ユーロレートでは、もみ合いの展開を予想します。FRBの利下げ観測が高まる中、ECBの利下げは一巡したとみられ、ユーロは米ドルに対し、高止まる見通しです。円はドルに対しもみ合う見通しで、円に対してもユーロは高値圏でもみ合う展開を予想します。 ●円の対豪ドルレートは、豪ドルには米ドルからの資産分散需要や商品市況上昇などの上昇要因がありますが、RBAの利下げが円高要因となりそうです。 |
リート |
●グローバルリート市場は、米国の関税を含む外交政策や長期金利動向に左右される不安定な展開が想定されます。日本を含むアジアや欧州では、長期金利が上昇したり高止まりした結果、分配金利回りとのスプレッドが縮小しているので、保有不動産の質や分配金の安定性や成長性も重視する必要があります。 ●アジア・オセアニアでは、シンガポールで金利低下に伴う業績回復が期待されます。また、豪州では決算において良好な運営状態が確認されるとともに、RBAの利下げが投資の安心感を高めています。日本は引き続き堅調な動きを予想します。主要セクターであるオフィスセクターで、空室率の低下と新規契約賃料の上昇が続いていることが要因です。 |
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。