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先月のマーケットの振り返り(2024年9月)

2024年10月2日

1.概観


株式

9月の主要国の株式市場は、概ね上昇しました。米国株式市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)が4年半ぶりの利下げを行ったことを受けて上昇しました。FRBが今後も利下げを続け、米景気がソフトランディング(軟着陸)できるとの見方が強まり、NYダウは最高値を更新しました。欧州の株式市場は、米国株や中国株の上昇を受けて、底堅く推移しました。一方、日本株式市場は、円高が重石となったほか、月末に自民党総裁選で石破氏が勝利したことを嫌気して急落し、前月比で下落しました。中国株式市場は、中国当局による追加の金融緩和策や株式・不動産市場の支援策を好感して、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに月末にかけて急上昇しました。

債券

米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBが9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の大幅利下げを実施したことを受けて低下しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)が9月の理事会で0.25%の追加利下げを決めたことを受けて低下しました。日本の長期金利も、米国の長期金利が低下したことや、日銀総裁の発言を受けて追加利上げ観測が後退したことから低下しました。

為替

円の対米ドルレートは、FRBが大幅な利下げが実施したことなどから上昇しました。中旬に140円割れまで上昇しましたが、月末は143円台半ばで終了しました。

商品

原油価格は、中国景気の先行き不透明感が強いなか、石油輸出国機構(OPEC)が2024年の石油需要見通しを引き下げたことなどから下落しました。

 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

2.景気動向

<現状>

●米国の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.0%となり、前期の同+1.6%から加速しました。個人消費や設備投資が堅調でした。

●欧州(ユーロ圏)の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.8%と、インフレの落ち着きを背景に低水準ながらプラス成長が続いています。

●日本の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.9%と、2四半期ぶりにプラス成長となりました。個人消費が5四半期ぶりのプラスとなりました。

●中国の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.7%と、前期の同+5.3%から減速しました。需要不足により内需が停滞しました。

●豪州の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.0%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.2%でした。

<見通し>

●米国は、これまでの利上げに伴う景気抑制効果に加え、コロナショック後の消費増加の一巡、財政刺激効果の鈍化などから、景気が緩やかに減速すると想定しています。個人消費が底堅いことや企業収益が好調なことから、景気の急減速は避けられ、ソフトランディングに至るとみています。

●欧州は、景気が持ち直しているものの、生産の減少などから低成長が続くとみられます。ただし、インフレの鈍化による購買力の回復、労働力不足に伴う雇用増、利下げによる貯蓄率の低下、EU復興基金などの財政支援が景気を支えるため、腰折れはしないとみています。 

●日本は、インフレ圧力の継続により個人消費が力強さを欠くものの、賃金の上昇、経済対策(定額減税・給付金)、設備投資の回復、インバウンド消費の増加、底堅い米景気を背景に持ち直し、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。

●中国は、不動産市場の低迷に加え、海外企業の投資減少や若年層の雇用悪化などから個人消費も力強さを欠き需要不足が続くことから、景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、金融緩和や政府の住宅対策、拡張財政により急激な減速は避けられる見通しです。

●豪州は、中国景気の減速やこれまでの利上げの累積効果、粘着質なインフレにより個人消費の回復が緩慢となるものの、拡張的な財政政策の下支えや先行きのインフレの鈍化により徐々に持ち直し、回復傾向を強めるとみられます。

3.金融政策

<現状>

●FRBは9月のFOMCで、政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を0.5%引き下げ、4.75~5.00%としました。FOMC参加者による金融政策の見通しは、年内2回の会合でさらに0.25%で2回分の利下げを行い、26年にかけて緩やかなペースで利下げを継続する内容となりました。

●ECBは9月の理事会で、政策金利(預金ファシリティ金利など)を0.25%引き下げることを決めました。ラガルド総裁は記者会見で、先行きの利下げについては「データ次第」としてガイダンスを示しませんでした。

●日銀は9月の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コール翌日物レート)を0.25%で据え置くことを決めました。植田和男総裁は記者会見で、政策判断に「時間的な余裕がある」と述べました。

 <見通し>

●FRBは、インフレが鈍化していることや米景気に減速の兆しがみられることから、11月、12月の会合でそれぞれ0.25%の利下げを実施すると予想します。その後は概ね四半期に一度のペースで0.25%ずつ引き下げると想定しています。

●ECBは、インフレが低下していることや欧州経済が低成長を続けていることから、10月、12月の会合でそれぞれ0.25%の利下げを実施すると予想します。その後も賃金、インフレのデータを確認しながら、0.25%の利下げを続けると想定しています。

●日銀は、景気が力強さを欠いているため当面政策金利を据え置くものの、先行きは金融政策の正常化に向けて追加利上げを実施するとみています。政策金利は、24年12月に0.50%、25年7月に0.75%への引き上げを想定しています。

4.債券

<現状>

米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBが9月のFOMCで0.5%の大幅利下げを実施したことを受けて低下しました。金融政策の影響を受けやすい2年債の利回りがより大きく低下し、10年債利回りが2年債利回りを下回る「逆イールド」は約2年ぶりに解消しました。

●ドイツの長期金利は、ECBが9月の理事会で0.25%の追加利下げを決めたことを受けて低下しました。

●日本の長期金利は、米国の長期金利が低下したことや、日銀総裁の発言を受けて追加利上げ観測が後退したことから低下しました。

●米国の投資適格社債については、米景気のソフトランディング観測を受けて社債スプレッド(国債と社債の利回り差)が前月比縮小しました。

<見通し>

米国の長期金利は、債券市場における利下げの織り込みが進んでいるため、当面もみ合う動きを想定しています。ただし、FRBは今後も中立金利に向けて利下げを緩やかなペースで継続すると見込んでおり、長期金利は徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、ECBが追加利下げを継続すると想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化に向けて舵を切っていることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

5.企業業績と株式

<現状>

米ファクトセット(FactSet)によれば、日米の企業業績は過去最高水準を更新しており、好調を維持しています。9月末の米S&P500種指数の予想1株当たり純利益(EPS)は前年同月比+11.1%、TOPIXの予想EPSは同+23.7%と、いずれも2桁の伸びとなりました。

●米国株式市場は、FRBが0.5%の大幅利下げを行ったことを受けて上昇しました。FRBが今後も利下げを続け、米景気がソフトランディングできるとの見方が強まり、NYダウは最高値を更新しました。NYダウは前月比+1.8%、S&P500種指数は同+2.0%の上昇となりました。

●日本株式市場は、円高が重石となったほか、月末に自民党総裁選で石破氏が勝利したことを嫌気して急落し、前月比で下落しました。日経平均株価は前月比▲1.9%、TOPIXは同▲2.5%となりました。

<見通し>

●米国株式市場は、FRBによる利下げが開始され、米景気のソフトランディング観測が高まっていることから適温相場が続くとみています。米大統領選挙や地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、米景気のソフトランディングに伴う企業業績の拡大が見込まれるため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、円高の進展や石破新政権への不透明感が上値を抑える一方、日本の名目GDPや企業業績の拡大傾向、コーポレート・ガバナンス(企業統治)進展の動きは変わらず、需給面から企業の自社株買いも期待できるため、振れを伴いながらもレンジを切り上げる展開を予想します。市場では、石破新政権の政策や日本の総選挙、米大統領選など政治イベントが注目されそうです。

                                                                                                                                                                                               

6.為替

<現状>

円の対米ドルレートは、FRBが大幅な利下げを実施したことなどから上昇しました。中旬に140円割れまで上昇しましたが、月末は143円台半ばで終了しました。27日には自民党総裁選で高市氏が優勢とみられたことから一時146円台に下落後、石破氏が逆転したため142円台に急反発しました。

●円の対ユーロレートは、160円近辺に上昇しました。ユーロは、米国の大幅利下げを受けて対米ドルで上昇した一方、対円では下落しました。

●円の対豪ドルレートは、小幅に下落しました。豪州中央銀行の利下げが先になるとの見方から、豪ドルが堅調な動きとなりました。

<見通し>

●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると予想します。FRBの利下げ継続と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、ECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、豪州の先行きの利下げや日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

7.リート

<現状>

●グローバルリート市場(米ドルベース)は、FRBによる大幅な利下げが実施され、米景気のソフトランディング観測が高まったことから上昇しました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比+2.8%でした。また、円ベースのリターンは、為替効果がマイナスに寄与し、同+1.0%となりました。

●米国は、FRBによる大幅利下げを受けて投資家のリスク選好姿勢が強まったことから上昇しました。欧州やアジアは、長期金利低下や米国リート上昇を好感して上昇しました。一方、日本は、自民党総裁選で石破氏が勝利したことで先行きの利上げが警戒され、月末に下落しました。

<見通し>

●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国はFRBによる利下げ継続や景気のソフトランディングを背景に上昇基調を予想します。欧州はECBの追加利下げに伴う回復を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に緩やかな上昇を予想します。日本はオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。

8.まとめ


債券

●米国の長期金利は、債券市場における利下げの織り込みが進んでいるため、当面もみ合う動きを想定しています。ただし、FRBは今後も中立金利に向けて利下げを緩やかなペースで継続すると見込んでおり、長期金利は徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、ECBが追加利下げを継続すると想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化に向けて舵を切っていることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

株式

●米国株式市場は、FRBによる利下げが開始され、米景気のソフトランディング観測が高まっていることから適温相場が続くとみています。米大統領選挙や地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、米景気のソフトランディングに伴う企業業績の拡大が見込まれるため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、円高の進展や石破新政権への不透明感が上値を抑える一方、日本の名目GDPや企業業績の拡大傾向、コーポレート・ガバナンス進展の動きは変わらず、需給面から企業の自社株買いも期待できるため、振れを伴いながらもレンジを切り上げる展開を予想します。市場では、石破新政権の政策や日本の総選挙、米大統領選など政治イベントが注目されそうです。

為替

円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると予想します。FRBの利下げ継続と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、ECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、豪州の先行きの利下げや日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

リート

グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国はFRBによる利下げ継続や景気のソフトランディングを背景に上昇基調を予想します。欧州はECBの追加利下げに伴う回復を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に緩やかな上昇を予想します。日本はオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。

                                                                                                                                                        チーフリサーチストラテジスト

                                                                                                                                                           石井康之(いしい やすゆき)