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先月のマーケットの振り返り(2024年8月)

2024年9月3日

1.概観


株式

8月の主要国の株式市場は、米景気悪化懸念などから月初に大きく調整したもののその後持ち直し、高安まちまちとなりました。米国株式市場は、月初の急落後、経済指標の改善や米連邦準備制度理事会(FRB)の9月利下げ観測の高まりを受けて買いが優勢となり、NYダウが最高値を更新するなど月間では上昇しました。欧州の株式市場も米国株の持ち直しを受けて買い戻しが入り、ドイツDAX指数が最高値を更新するなどしっかりとした動きとなりました。一方、日本の株式市場は、月初に歴史的な下落幅を記録した後、急速に持ち直しましたが、円高が重石となり小幅安で終了しました。中国株式市場は、中国景気の先行きへの懸念から上海総合指数が続落した一方、香港ハンセン指数は米国株に連れて反発しました。

債券

米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBが9月に利下げを開始するとの見方が改めて強まったことから節目の4%を下回り、一時3.8%を割り込む局面を経て、3.9%に低下しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が追加利下げについて慎重な姿勢を崩していないことから、ほぼ横ばいでした。日本の長期金利は、月初の株価急落に伴い急低下した後、株価の持ち直しで低下幅をやや縮めました。

為替

円の対米ドルレートは、米利下げ観測を受けて日米金利差が縮小するとの見方を主因に大きく上昇し、月末は146円近辺で終了しました。

商品

原油価格は、米景気の減速観測や中国景気の弱さから原油需要が減少するとの見方が強まったことなどから下落しました。

 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

2.景気動向

<現状>

●米国の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.0%となり、前期の同+1.4%から加速しました。個人消費や設備投資が堅調でした。

●欧州(ユーロ圏)の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.2%と、インフレの落ち着きを背景に2四半期連続でプラス成長となりました。

●日本の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.1%と、2四半期ぶりにプラス成長となりました。個人消費が5四半期ぶりのプラスとなりました。

●中国の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.7%と、前期の同+5.3%から減速しました。需要不足により内需が停滞しました。

●豪州の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.1%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.1%でした。

<見通し>

●米国は、大幅な利上げに伴う景気抑制効果に加え、コロナショック後の消費増加の一巡、財政刺激効果の鈍化などから、景気が緩やかに減速すると想定しています。個人消費が底堅いことや企業収益が好調なことから、景気の急減速は避けられ、軟着陸(ソフトランディング)に至るとみています。

●欧州は、景気が持ち直しているものの、当面低成長が続くとみられます。ただし、インフレの鈍化による購買力の回復、労働力不足に伴う雇用増、利下げによる貯蓄率の低下、EU復興基金などの財政支援が景気を支えるため、腰折れはしないとみています。 

●日本は、インフレ圧力の継続により個人消費が力強さを欠くものの、賃金の上昇、経済対策(定額減税・給付金)、インバウンド消費の増加、底堅い米景気や堅調な企業収益を背景に持ち直し、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。

●中国は、不動産市場の低迷に加え、海外企業の投資減少や若年層の雇用悪化などから個人消費も力強さを欠き需要不足が続くことから、景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、政府の住宅対策や拡張財政により急激な減速は避けられる見通しです。

●豪州は、中国景気の減速に加え、利上げの累積効果や、粘着質なインフレにより家計の実質可処分所得が圧迫されることから個人消費の回復が緩慢となるため、当面景気が緩やかに減速するとみられます。ただし、年後半のインフレ鈍化により、25年にかけては徐々に持ち直すとみています。

3.金融政策

<現状>

●FRBは7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(フェデラルファンド(FF)金利5.25~5.50%)を8会合連続で据え置きました。パウエル議長は8月に行われた経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」の講演で、次回9月のFOMCでの利下げを強く示唆しました。

●ECBは7月の理事会で、前回6月会合で引き下げた政策金利(預金ファシリティ金利3.75%など)の据え置きを決めました。ラガルド総裁は記者会見で、今後の利下げペースについては「何も決まっていない」としてガイダンスを示しませんでした。

●日銀は7月末の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コール翌日物レート)を0〜0.1%から0.25%程度に引き上げることを決めました。また、国債買い入れ額を現在の月6兆円程度から26年1〜3月に同3兆円に減らす方針を決めました。

 <見通し>

●FRBは、インフレが鈍化していることや米景気減速の兆しがみられることから、24年9月に利下げを開始するとみています。その後は11月、12月に0.25%の利下げを実施し、年内の利下げ回数は3回になると想定しています。

●ECBは、インフレが落ち着いていることから、9月の理事会で追加利下げを決めると予想します。ECBは賃金、インフレのデータを確認しながら、四半期に1回のペースで0.25%の利下げを行うと想定しています。

●日銀は、景気が力強さを欠いているため当面政策金利を据え置くものの、先行きは金融政策の正常化に向けて追加利上げを実施するとみています。政策金利は、25年1月に0.50%、25年7月に0.75%への引き上げを想定しています。

4.債券

<現状>

●米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBが9月に利下げを開始するとの観測が改めて強まったことから節目の4%を下回り、低下余地を探る展開となりました。一時3.8%割れと約8カ月ぶりの低水準をつけ、8月末は3.9%で終了しました。

●ドイツの長期金利は、ラガルド総裁が追加利下げについて「データ次第」と慎重な姿勢を崩していないことから、ほぼ横ばいでした。

●日本の長期金利は、月初の株価急落に伴い急低下した後、株価の持ち直しで低下幅を縮めました。

●米国の投資適格社債については、社債スプレッド(国債と社債の利回り差)が前月比ほぼ横ばいでした。

<見通し>

●米国の長期金利は、債券市場における利下げの織り込みが進んでいるため、当面もみ合いを続けると想定しています。FRBは9月に利下げを開始し、その後も利下げを継続すると見込んでおり、長期金利は徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、ECBが四半期に一度のペースで追加利下げを行うと想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化に向けて舵を切っていることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

5.企業業績と株式

<現状>

●米ファクトセット(FactSet)によれば、日米の企業業績は過去最高水準を更新しており、好調を維持しています。8月末の米S&P500種指数の予想1株当たり純利益(EPS)は前年同月比+11.5%、TOPIXの予想EPSは同+17.0%と、いずれも2桁の伸びとなりました。

●米国株式市場は、景気悪化懸念から月初に急落したものの、経済指標の改善やFRBのパウエル議長が9月の利下げを強く示唆し、米景気のソフトランディング期待が高まったことから買い戻しが入り、上昇しました。NYダウは前月比+1.8%、S&P500種指数は同+2.3%の上昇となりました。

●日本株式市場は、月初に米景気悪化懸念と円高が嫌気され、歴史的な下落幅を記録しました。その後は急速に持ち直してじり高の展開となり、前月比では小幅の下げにとどまりました。日経平均株価は前月比▲1.2%、TOPIXは同▲2.9%となりました。

<見通し>

●米国株式市場は、FRBによる9月利下げ開始が見込まれるなか、米景気のソフトランディングを前提とした適温相場が続くとみています。大統領選挙や地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、FRBの利下げ開始や米景気のソフトランディングに伴う企業業績の拡大が見込まれるため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、一時大幅に調整したことによる戻り売り圧力や円高が大きく進んだことから上値が重くなった一方、日本の名目GDPや企業業績の拡大に加え、コーポレート・ガバナンス(企業統治)改革進展への期待や企業の自社株買いが支えとなり、当面はレンジ内で推移するとみています。市場では、9月の自民党総裁選に伴う新体制やその後の総選挙の行方、米大統領選など政治イベントが注目されそうです。

                                                                                                                                                                                               

6.為替

<現状>

●円の対米ドルレートは、月初に米景気悪化懸念で株式市場が急落したことからリスク回避の動きが強まり、急上昇しました。その後はFRBによる利下げ観測に伴い日米金利差が縮小するとの見方が強まるなかもみあいとなり、146円近辺で終了しました。

●円の対ユーロレートは、小幅に上昇しました。米国とドイツの長期金利差が縮小したことから、ユーロの対米ドルレートが大きく上昇しました。

●円の対豪ドルレートは、小幅に下落しました。米国と豪州の長期金利差が縮小したことから、豪ドルの対米ドルレートが大きく上昇しました。

<見通し>

●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると予想します。FRBの利下げ開始と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、ECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、豪州の先行きの利下げや日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

7.リート

<現状>

●グローバルリート市場(米ドルベース)は、FRBによる9月の利下げ観測が高まり、米長期金利が低下したことを好感して、上昇しました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比+5.8%でした。また、円ベースのリターンは、為替効果がマイナスに寄与し、同+2.4%となりました。

●米国は、FRBによる9月の利下げ観測の高まりを受けて投資家のリスク選好姿勢が強まったことから上昇しました。欧州やアジアは、長期金利低下や米国リート上昇を好感して上昇しました。日本も、長期金利の低下や米国リートの上昇を受けて堅調に推移しました。

<見通し>

●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国はFRBによる利下げ開始や景気のソフトランディングを背景に緩やかな上昇を予想します。欧州はECBの追加利下げに伴う上昇を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に上昇を予想します。日本はオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。

8.まとめ


債券

●米国の長期金利は、債券市場における利下げの織り込みが進んでいるため、当面もみ合いを続けると想定しています。FRBは9月に利下げを開始し、その後も利下げを継続すると見込んでおり、長期金利は徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、ECBが四半期に一度のペースで追加利下げを行うと想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化に向けて舵を切っていることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

株式

●米国株式市場は、FRBによる9月利下げ開始が見込まれるなか、米景気のソフトランディングを前提とした適温相場が続くとみています。大統領選挙や地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、FRBの利下げ開始や米景気のソフトランディングに伴う企業業績の拡大が見込まれるため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、一時大幅に調整したことによる戻り売り圧力や円高が大きく進んだことから上値が重くなった一方、日本の名目GDPや企業業績の拡大に加え、コーポレート・ガバナンス改革進展への期待や企業の自社株買いが支えとなり、当面はレンジ内で推移するとみています。市場では、9月の自民党総裁選に伴う新体制やその後の総選挙の行方、米大統領選など政治イベントが注目されそうです。

為替

●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると予想します。FRBの利下げ開始と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、ECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、豪州の先行きの利下げや日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

リート

●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国はFRBによる利下げ開始や景気のソフトランディングを背景に緩やかな上昇を予想します。欧州はECBの追加利下げに伴う上昇を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に上昇を予想します。日本はオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。

                                                                                                                                                        チーフリサーチストラテジスト

                                                                                                                                                           石井康之(いしい やすゆき)