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先月のマーケットの振り返り(2024年4月)

2024年5月2日

1.概観

株式

4月の主要国の株式市場は、まちまちの動きとなりました。米国株式市場は、雇用統計や消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が大きく後退して長期金利が上昇したことを受けて、調整しました。NYダウは6カ月ぶりの下落となりました。欧州の株式市場では、ドイツDAX指数が下落した一方、早期利下げ期待からポンド安が進んだことを受けて英FTSE指数が上昇しました。日本の株式市場は、米国株式市場の調整や中東情勢の緊迫化が重石となり、日経平均株価が4カ月ぶりに下落するなど、軟調な展開となりました。一方、中国株式市場は、中国当局の政策期待から投資家のリスク選好姿勢が強まり、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに上昇しました。

債券

米国の10年国債利回り(長期金利)は、インフレの根強さを示す経済指標が相次ぎ、FRBの利下げ観測が大きく後退したことから大幅に上昇しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)が次回6月の利下げ転換の可能性を示唆したものの、米長期金利に連れて上昇しました。日本の長期金利は、米長期金利の上昇と円安が進行するなか、追加利上げの観測が高まったことから上昇しました。

為替

円の対米ドルレートは、日銀が4月会合で金融政策を維持したことを受けて、日米金利差が開いた状況が長く続くとの見方が強まり、大幅に下落しました。

商品

原油価格は、地政学リスクへの過度な警戒感が後退したことや、米利下げ開始が遅れることが景気を冷やし、原油需要を抑制するとの見方から下落しました。

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

2.景気動向

<現状>

●米国の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.6%となり、前期の同+3.4%から減速しました。輸入の増加が下押し要因となりました。

●欧州(ユーロ圏)の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.3%と、インフレの落ち着きを背景に3四半期ぶりにプラス成長となりました。

●日本の10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と、2四半期ぶりにプラスとなりました。設備投資が速報値から上方修正されました。

●中国の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%と、市場予想を上回りました。生産や輸出の増加が景気の押し上げ要因となりました。

●豪州の10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.5%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.2%でした。

<見通し>

●米国は、大幅な利上げに伴う景気抑制効果や粘着質なインフレなどから、景気が緩やかに減速すると想定しています。ただし、雇用が安定しており、個人消費が底堅いことや、企業収益が回復傾向にあることから、景気の急減速は避けられ、軟着陸(ソフトランディング)に至るとみています。

●欧州は、ECBの金融引き締めによる景気抑制効果により、低成長が続くとみられます。ただし、インフレの鈍化による購買力の回復に加えて、労働力不足に伴う底堅い雇用、EU復興基金などの財政支援が景気を支えるため、腰折れはしないとみています。 

●日本は、認証試験不正問題に伴う自動車減産や能登半島地震の影響で、1-3月期の実質GDP成長率がマイナスとなる可能性があります。しかし、インフレの鈍化と賃金の上昇、経済対策の効果、インバウンド消費の増加、堅調な企業収益を背景に、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。

●中国は、不動産市場の低迷や海外景気の減速で需要不足が続き、若年層の雇用悪化の影響などから個人消費も力強さを欠くことから、景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、政府が拡張財政を継続することから、急激な減速は避けられる見通しです。

●豪州は、中国景気の減速に加え、利上げの累積効果や、粘着質なインフレで家計の実質可処分所得が圧迫されることから個人消費が力強さを欠き、当面景気が緩やかに減速するとみられます。ただし、年後半のインフレ鈍化や利下げ実施により、25年にかけては徐々に持ち直すとみています。

3.金融政策

<現状>

●FRBは、4月30日~5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(フェデラルファンド(FF)金利5.25~5.50%)を6会合連続で据え置き、6月からの量的引き締め(QT)のペース減速を決めました。パウエル議長は会見で、利下げの開始が遅くなる可能性を示唆しました。

●ECBは4月の理事会で、5会合連続で政策金利(預金ファシリティ金利4.00%など)の据え置きを決めました。声明文では、インフレが持続的に収まるとの確信を得られれば「金融政策の水準の引き下げが適切になる」との文言を盛り込み、今後の利下げ転換を示唆しました。

●日銀は4月の金融政策決定会合で、現状の政策金利(無担保コール翌日物金利0.0~0.1%)を維持しました。公表した「経済・物価情勢の展望」では、消費者物価の前年度比上昇率見通しを24年度、25年度とも前回から引き上げ、26年度は1.9%としました。

 <見通し>

●FRBは、粘着質のインフレ動向をにらみながら、当面現状の政策金利を維持するとみられます。先行きは、インフレの鈍化に伴う実質金利上昇を回避するため、24年9月に利下げを開始し、年内の利下げ回数(1回=0.25%)は2回になると想定しています。

●ECBは、欧州景気が停滞しているなか、インフレ圧力が減速していることから、5月に発表されるデータを確認し、次回6月の会合で利下げに踏み切ると予想します。ECBは24年6月に利下げに転じた後、四半期ごとに0.25%の利下げを行うと想定しています。

●日銀は、景気が力強さを欠いていることから、3月に大幅に修正した金融政策を当面維持するとみられます。しかし、円安圧力が続くなか、物価見通しを引き上げたことから、追加利上げを実施するとみています。政策金利は、24年10月に0.25%、25年4月に0.50%への引き上げを想定しています。

4.債券

<現状>

米国の10年国債利回り(長期金利)は、3月の雇用統計やCPIが市場予想を上回るなど、インフレの根強さを示す経済指標が相次ぎ、パウエル議長がタカ派的な発言をしたことを受けて、FRBの利下げ観測が大きく後退したため、大幅に上昇しました。

●ドイツの長期金利は、ECBが次回6月の利下げ転換の可能性を示唆したものの、米長期金利に連れて上昇しました。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策を維持したものの、米長期金利の上昇と円安が進行するなか、追加利上げの観測から上昇しました。

●米国の投資適格社債については、社債スプレッド(国債と社債の利回り差)がやや縮小しました。

<見通し>

●米国の長期金利は、当面もみ合いを続けた後、緩やかに低下すると想定しています。堅調な雇用情勢やインフレの高止まりを受けて、利下げ開始時期の先送りが警戒されるものの、年後半にはFRBによる利下げが実施されると見込んでおり、徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、景気が停滞するなか、ECBが6月にも利下げに転じるとみられるため、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、景気が緩やかに回復するなか、円安圧力が続いていることから、日銀の追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

5.企業業績と株式

<現状>

●ファクトセット(FactSet)によれば、日米の企業業績は過去最高水準を更新しており、堅調です。4月末のS&P500種指数の予想1株当たり純利益(EPS)は前年同月比+10.8%、TOPIXの予想EPSは同+17.6%と、いずれも2桁の伸びとなりました。

●米国株式市場は、インフレの根強さを示す経済指標が相次ぎ、FRBの利下げ観測が大きく後退して長期金利が上昇したことから、投資家心理が悪化し、調整しました。NYダウは前月比▲5.0%と、6カ月ぶりの下落となりました。

●日本株式市場は、米国株式市場の調整や中東情勢の緊迫化が重石となり、軟調な展開となりました。米長期金利の上昇を嫌気した米半導体株安の影響もあり、日経平均株価は前月比▲4.9%と、4カ月ぶりに下落しました。

<見通し>

●米国株式市場は、インフレの下げ渋りがみられるものの、米景気が堅調さを保っており、今後も米景気のソフトランディングを前提とした適温相場が続くとみています。FRBによる利下げは先送りされる可能性があるものの、米景気のソフトランディングに伴い企業業績の拡大が見込まれることから、投資家のリスク選好姿勢は継続するとみられます。このため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、日本の名目GDP成長や製造業における景気循環の底打ちに伴う企業業績の拡大を背景に上昇すると予想します。これまでの上昇スピードの速さから調整リスクはあるものの、業績相場に入ることで下値は限られそうです。また、コーポレート・ガバナンス(企業統治)改革進展への期待に加え、自社株買いや新NISA(少額投資非課税制度)の資金流入など良好な株式需給も相場上昇を支えるとみています。

                                                                                                                                                                                               

6.為替

<現状>

●円の対米ドルレートは、157円近辺に大きく下落しました。日銀が4月会合で金融政策を維持したことを受け、日米金利差が開いた状況が長く続くとの見方から、円売りが一段と加速しました。日本の祝日の29日には、一時34年ぶりの安値水準となる160円台を付けました。

●円の対ユーロレートは、日欧金利差を意識した円売りが強まり、168円台に下落しました、29日には一時171円台を付け、最安値を更新しました。

●円の対豪ドルレートも、日豪金利差が開いた状況が長く続くと見方などから円売りが強まり、大きく下落しました。

<見通し>

●円の対米ドルレートは、当面はもみ合い推移が続くものの、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると想定します。先行きはFRBの利下げ開始と日銀の利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きはECBによる利下げと日銀の利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きは豪州中銀の利下げと日銀の利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

7.リート

<現状>

グローバルリート市場(米ドルベース)は、各国の長期金利が上昇したことを受けて、大きく下落しました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比▲6.4%でした。また、円ベースのリターンは、為替効果がプラスに寄与し、同▲2.7%となりました。

●米国は、FRBの利下げ観測が後退して長期金利が上昇するなか、投資家のリスク回避姿勢が強まり、大きく調整しました。アジア・オセアニアも、長期金利の上昇を嫌気して下落しました。一方、日本は、長期金利が上昇するなかでも底堅く推移し、小幅に上昇しました。

<見通し>

●グローバルリート市場は、先行き米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国は、先行きのFRBによる利下げ開始や景気のソフトランディングから、持ち直すとみています。欧州は、ECBの利下げ開始により上昇するとみています。アジア・オセアニアは、景気の回復基調を背景に上昇するとみています。日本は、オフィス空室率の改善を背景に上昇するとみています。

8.まとめ

債券

●米国の長期金利は、当面もみ合いを続けた後、緩やかに低下すると想定しています。堅調な雇用情勢やインフレの高止まりを受けて、利下げ開始時期の先送りが警戒されるものの、年後半にはFRBによる利下げが実施されると見込んでおり、徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、景気が停滞するなか、ECBが6月にも利下げに転じるとみられるため、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、景気が緩やかに回復するなか、円安圧力が続いていることから、日銀の追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

株式

●米国株式市場は、インフレの下げ渋りがみられるものの、米景気が堅調さを保っており、今後も米景気のソフトランディングを前提とした適温相場が続くとみています。FRBによる利下げは先送りされる可能性があるものの、米景気のソフトランディングに伴い企業業績の拡大が見込まれることから、投資家のリスク選好姿勢は継続するとみられます。このため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、日本の名目GDP成長や製造業における景気循環の底打ちに伴う企業業績の拡大を背景に上昇すると予想します。これまでの上昇スピードの速さから調整リスクはあるものの、業績相場に入ることで下値は限られそうです。また、コーポレート・ガバナンス改革進展への期待に加え、自社株買いや新NISAの資金流入など良好な株式需給も相場上昇を支えるとみています。

為替

円の対米ドルレートは、当面はもみ合い推移が続くものの、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると想定します。先行きはFRBの利下げ開始と日銀の利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きはECBによる利下げと日銀の利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きは豪州中銀の利下げと日銀の利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

リート

グローバルリート市場は、先行き米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国は、先行きのFRBによる利下げ開始や景気のソフトランディングから、持ち直すとみています。欧州は、ECBの利下げ開始により上昇するとみています。アジア・オセアニアは、景気の回復基調を背景に上昇するとみています。日本は、オフィス空室率の改善を背景に上昇するとみています。

                                                                                                                                                        チーフリサーチストラテジスト

                                                                                                                                                           石井康之(いしい やすゆき)