先月のマーケットの振り返り(2023年12月)
2024年1月5日
1.概観
株式 |
12月の主要国の株式市場は、世界的に長期金利が一段と低下したことを受けて、投資家のリスク選好姿勢が強まったことから、概ね堅調な展開となりました。米国株式市場は、インフレの鈍化を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が2024年前半にも利下げに転じるとの観測が強まり、長期金利が大幅に低下したことを受けて、大きく上昇しました。欧州の株式市場も、欧州中央銀行(ECB)が2024年に利下げに転じるとの見方が強まり、長期金利が低下したことが投資家心理を支え、堅調な展開となりました。一方、日本の株式市場は、月末にかけて日米金利差縮小から円高が進行したことが嫌気され、小幅安となりました。中国株式市場は、デフレによる景気減速懸念などから、上海総合指数は下落、香港ハンセン指数は横ばいとなりました。 |
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債券 |
米国の10年国債利回り(長期金利)は、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を受けて、FRBが2024年に複数回の利下げに動くとの観測が強まったことから、大幅に低下しました。ドイツの長期金利は、ECBが2会合連続で政策金利を据え置いたことや欧州景気の減速を受けて、先行きの利下げ観測から低下しました。日本の長期金利は、米長期金利が大幅に低下したことや、日銀が早期に金融緩和政策の修正に動くとの見方が後退したことから低下しました。 |
為替 |
円の対米ドルレートは、FRBによる利下げ観測が強まり、米長期金利が大幅に低下したことによる金利差縮小から大きく上昇し、141円近辺で終了しました。 |
商品 |
原油価格は、中国や欧州に加え、米国の景気減速による世界経済の減速懸念を背景に、原油需要が鈍るとの見方が高まったことから下落しました。 |
(出所)FactSetのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
2.景気動向
<現状>
●米国の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.9%と、堅調な個人消費にけん引され、前期から大幅に加速しました。
●欧州(ユーロ圏)の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+0.0%でした。前期比は▲0.1%と3四半期ぶりにマイナス成長となりました。
●日本の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率▲2.9%と、4四半期ぶりのマイナス成長となりました。個人消費と設備投資が弱含みました。
●中国の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.9%と、前期から減速しました。ただし、前期比は+1.3%と前期から伸び率が拡大しました。
●豪州の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+2.1%と、前期からわずかに加速しました。政府支出が伸び、前期比は+0.2%でした。
<見通し>
●米国は、これまでの大幅な利上げに伴う景気抑制効果や、強かった7-9月期の反動から、10-12月以降は景気が減速するとみられます。ただし、雇用が比較的安定しており、個人消費が底堅いことや、企業収益が回復傾向にあることから、景気は緩やかな減速となる見通しです。
●欧州は、ECBの金融引き締めによる景気抑制効果が強まるなか、24年にかけ低成長が続くとみられます。ただし、財政の支援、コロナ下で積み上がった貯蓄、労働市場の安定、インフレの鈍化などが景気を支えるため、腰折れはしないとみています。
●日本は、7-9月期に下振れしたものの、経済活動が再開するなか、インバウンド消費の増加や経済対策の効果を背景に、緩やかな景気回復のパスに徐々に復調する見通しです。円安地合いも景気を支えるとみられます。
●中国は、不動産市場の低迷や海外景気の減速で需要不足が続き、若年層の雇用悪化の影響などから個人消費も力強さを欠くことから、24年にかけて景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、政府が拡張財政を継続することから、小幅な減速にとどまる見通しです。
●豪州は、中国景気の減速に加え、利上げの累積効果や、粘着質なインフレで家計の実質可処分所得が圧迫されることから個人消費が力強さを欠くとみられるため、24年にかけて景気が緩やかに減速するとみられます。
3.金融政策
<現状>
●FRBは、12月のFOMCで、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標(5.25~5.50%)を3会合連続で据え置きました。また、2024年に0.25%の3回分に相当する利下げを実施する予想を示しました。パウエル議長は会見で、利下げに関する議論を始めたことを認めました。
●ECBは12月の理事会で、2会合連続で政策金利の据え置きを決めました。資産購入策の特別枠(PEPP)については、24年上期までは償還があった分の再投資を続ける一方、下期からは削減し、24年末で再投資を打ち切る方針としました。
●日銀は12月の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の現状維持を決めました。植田総裁は会見で、物価目標の実現に対し「確度は少しずつ高まっているが、賃金と物価の好循環をなお見極める必要がある」と述べました。
<見通し>
●FRBは、12月のFOMCでハト派的な姿勢を示したことから、すでに利上げサイクルを終了したとみられます。今後は、インフレの鈍化傾向に伴う実質金利上昇を回避するため、24年4-6月期に利下げを開始し、以降四半期ごとに0.25%の利下げを実施すると予想します。
●ECBは、高止まりしているコアインフレを抑制するため、現状の政策金利(預金ファシリティ金利4.00%など)を24年1-3月期までは据え置くと予想しています。欧州景気が停滞していることから、ECBも24年4-6月期に利下げに転じ、以降四半期ごとに0.25%の利下げを行うとみています。
●日銀は、24年3月の春闘回答集計を確認した上で、24年4月に、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を改定するとともに、マイナス⾦利の解除やイールドカーブ・コントロール(YCC)の解除・再修正を実施すると予想しています。
4.債券
<現状>
●米国の10年国債利回り(長期金利)は、FOMCの結果を受けて、FRBが24年に複数回の利下げに動くとの観測が強まったことから、大幅に低下しました。パウエル議長は会見で、利下げに関する議論を始めたことを認めたため、FRBが「ハト派」に転じたとの見方が広まりました。
●ドイツの長期金利は、ECBが2会合連続で政策金利を据え置いたことや欧州景気の減速を受けて、先行きの利下げ観測から低下しました。
●日本の長期金利は、日銀が早期に金融緩和政策の修正に動くとの見方が後退したことや、米長期金利が大幅に低下したことから、低下しました。
●米国の投資適格社債については、株式市場の上昇を受けて国債と社債の利回り格差が縮小しました。
<見通し>
●米国の長期金利は、FRBが利下げに転じるとみられることから、緩やかに低下する展開を予想します。市場は利下げを一定程度織り込んでいるとみられるため、当面はもみ合うものの、景気減速とインフレの低下に伴い、徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。
●欧州の長期金利も、ECBが利下げに転じるとみられるため、米長期金利に連れて緩やかに低下する展開を予想します。
●日本の長期金利は、米長期金利が低下するなか、日銀によるマイナス金利政策の修正が意識されるため、一進一退の展開を予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
●S&P500種指数の12月の予想1株当たり利益(EPS)は前年同月比+6.1%となり、4カ月連続で過去最高水準を更新しました。TOPIXの12月予想EPSは前年同月比+10.3%となり、7カ月連続で過去最高水準を更新しました。
●米国株式市場は堅調を維持しました。FOMCはハト派の内容と市場で受け止められ、FRBが2024年前半にも利下げに転じるとの観測が強まったことから、長期金利が大幅に低下したことを受けて、2カ月連続で大きく上昇しました。
●日本株式市場は、日銀が金融緩和策を維持したことから一時上昇しましたが、年末にかけての円高が相場の重荷となり、小幅安で引けました。
<見通し>
●S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は、24年1-3月期が前年同期比+7.4%、4-6月期が同+11.4%と予想されています。TOPIX採用企業の予想EPSは、24年1-3月期が同+22.8%、4-6月期が同+19.6%と、好調な業績が見込まれています。
●米国株式市場は、株価収益率(PER)の切り上がりによるバリュエーションの改善主導で上昇してきました。割安感はやや乏しいですが、底堅い企業業績が続くなか、地政学リスクの更なる悪化も限定的とみられるなど、投資環境の不透明感は和らいでおり、引き続き堅調な展開が予想されます。
●日本株式市場は、海外景気、為替、商品市況といった外部要因によって変動性が高まる局面もありそうですが、製造業における景気循環の底打ちに伴うEPS成長が見込めるため、業績相場の色彩を強めると期待されます。ただし、金融緩和政策の修正については見極めが必要となりそうです。
6.為替
<現状>
●円の対米ドルレートは、FRBによる利下げ観測が強まり、米長期金利が大幅に低下したことを受けて、大きく上昇しました。日米金利差の縮小から円買い・ドル売りが優勢となり、前月末の147円台から月末は141円近辺に上昇しました。
●円の対ユーロレートは、前月末の161円台から月末は155円台に上昇しました。ユーロは、金利先安観の強まった米ドルに対して上昇しました。
●円の対豪ドルレートは、日豪金利差の縮小などから上昇しました。豪ドルは、金利先安観の強まった対米ドルに対して上昇しました。
<見通し>
●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い緩やかに上昇すると想定します。当面はもみ合い推移が続くものの、先行きはFRBの利下げ開始と日銀の政策修正が意識され、日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。
●円の対ユーロレートも、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きはECBによる利下げと日銀の政策修正が意識され、緩やかに上昇するとみています。
●円の対豪ドルレートも、当面もみ合うものの、中国経済の減速や日銀の政策修正により緩やかに上昇する展開を予想しています。
7.リート
<現状>
●グローバルリート市場(米ドルベース)は、米長期金利が前月に引き続き大きく低下したことを受けて、大幅高となりました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比+9.0%でした。また、円ベースのリターンは、為替効果がマイナスに寄与し、同+3.9%となりました。
●米国は、長期金利が大幅に低下したことを受けて、大きく続伸しました。欧州も、米国リートの上昇や長期金利の低下を好感して堅調な展開となりました。アジア・オセアニアも、長期金利が低下したことを受けて、上昇しました。一方、日本は、日銀の政策変更が意識され、下落しました。
<見通し>
●グローバルリート市場は、先行きの米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれることや、世界景気が底堅く推移する見込みであることから、不動産市況がやや停滞するなかでも、回復基調を辿ると予想します。
●米国は、FRBによる利下げ開始に伴い長期金利が低下することや米国景気がソフトランディングするとみられることから、レンジを切り上げるとみています。アジア・オセアニアは、景気の回復基調を背景に緩やかに上昇するとみています。日本は、日銀の金融政策変更後は回復するとみています。
8.まとめ
債券 |
●米国の長期金利は、FRBが利下げに転じるとみられることから、緩やかに低下する展開を予想します。市場は利下げを一定程度織り込んでいるとみられるため、当面はもみ合うものの、景気減速とインフレの低下に伴い、徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。 ●欧州の長期金利も、ECBが利下げに転じるとみられるため、米長期金利に連れて緩やかに低下する展開を予想します。 ●日本の長期金利は、米長期金利が低下するなか、日銀によるマイナス金利政策の修正が意識されるため、一進一退の展開を予想します。 |
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株式 |
●S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は、24年1-3月期が前年同期比+7.4%、4-6月期が同+11.4%と予想されています。TOPIX採用企業の予想EPSは、24年1-3月期が同+22.8%、4-6月期が同+19.6%と、好調な業績が見込まれています。 ●米国株式市場は、株価収益率(PER)の切り上がりによるバリュエーションの改善主導で上昇してきました。割安感はやや乏しいですが、底堅い企業業績が続くなか、地政学リスクの更なる悪化も限定的とみられるなど、投資環境の不透明感は和らいでおり、引き続き堅調な展開が予想されます。 ●日本株式市場は、海外景気、為替、商品市況といった外部要因によって変動性が高まる局面もありそうですが、製造業における景気循環の底打ちに伴うEPS成長が見込めるため、業績相場の色彩を強めると期待されます。ただし、金融緩和政策の修正については見極めが必要となりそうです。 |
為替 |
●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い緩やかに上昇すると想定します。当面はもみ合い推移が続くものの、先行きはFRBの利下げ開始と日銀の政策修正が意識され、日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。 ●円の対ユーロレートも、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きはECBによる利下げと日銀の政策修正が意識され、緩やかに上昇するとみています。 ●円の対豪ドルレートも、当面もみ合うものの、中国経済の減速や日銀の政策修正により緩やかに上昇する展開を予想しています。 |
リート |
●グローバルリート市場は、先行きの米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれることや、世界景気が底堅く推移する見込みであることから、不動産市況がやや停滞するなかでも、回復基調を辿ると予想します。 ●米国は、FRBによる利下げ開始に伴い長期金利が低下することや米国景気がソフトランディングするとみられることから、レンジを切り上げるとみています。アジア・オセアニアは、景気の回復基調を背景に緩やかに上昇するとみています。日本は、日銀の金融政策変更後は回復するとみています。 |
チーフリサーチストラテジスト
石井康之(いしい やすゆき)