ホームマーケット週次・月次市場情報先月のマーケットの振り返り(2023年8月)

先月のマーケットの振り返り(2023年8月)

2023年9月4日

1.概観

株式

8月の主要国の株式市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めが長期化するとの観測から米長期金利が上昇したことや、中国不動産大手の破綻申請を受けて中国経済への不安が高まったことから下落しました。米国株式市場は、米長期金利上昇を受けて、月中旬にかけて軟調な展開となりましたが、月下旬に開催された「ジャクソンホール会議」後はFRBの追加利上げへの警戒が和らぎ、下げ幅を縮めました。欧州の株式市場は、ユーロ圏の景気減速懸念から下落しました。日本の株式市場は、中国経済への不安などから月中旬にかけ下落したものの、月末にかけて値を戻し、日経平均株価は小幅安となりました。中国株式市場は、中国不動産市場の低迷による信用不安などを嫌気して、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに大きく下落しました。

債券

米国の10年国債利回り(長期金利)は、FRBによる金融引き締めが長期化するとの観測や米国債の需給悪化懸念から一時4.3%台まで上昇しました。しかし、月下旬の「ジャクソンホール会議」で、パウエル議長が従来のデータ重視の考えを強調したことを受けて低下に転じ、上昇幅を大きく縮めました。ドイツの長期金利は、ユーロ圏の景況感の悪化を受けて、小幅に低下しました。日本の長期金利は、米長期金利に連動して上昇しました。

為替

円の対米ドルレートは、日米の金利差拡大や金融政策の方向性の違いが改めて意識され、円売り・ドル買いが強まったことから下落しました。

商品

原油価格は、主要産油国の減産や、米利上げ観測が月末にかけて後退し、世界で原油需要が増加するとの期待が高まったことなどから上昇しました。

  (出所)FactSetのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

2.景気動向

<現状>

米国の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.1%と、前期から伸び率が若干拡大しました。個人消費や設備投資を中心に内需が堅調でした。

欧州(ユーロ圏)の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+0.6%と、前期から減速しました。一方、前期比は+0.3%とやや持ち直しました。

日本の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.0%と、前期から加速しました。個人消費が弱含んだものの、輸出の増加が全体を押し上げました。

中国の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.3%と、昨年のロックダウンの反動で伸びが拡大しました。ただし、前期比では+0.8%にとどまりました。

豪州の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+2.3%と、前期から減速しました。インフレ上昇の影響で個人消費の伸びが鈍化しました。

<見通し>

米国は、これまでの大幅な利上げに伴う景気抑制効果から、経済が減速するとみられます。ただし、雇用が安定しており、個人消費が底堅いことやインフレが鈍化していることから、景気の腰折れは回避されるとみられます。米景気は低水準ながらプラス成長を続け、ソフトランディング(軟着陸)する見通しです。

欧州は、緩慢ながら回復が続くとみています。ECBの金融引き締めによる景気抑制効果が強まるものの、財政の支援、エネルギー価格の安定、コロナ下で積み上がった貯蓄、労働市場の安定、インフレのピークアウトなどが景気を支えるとみています。 

日本は、インバウンド消費の回復、設備投資の増加、供給制約の緩和に加え、底堅い米景気を背景とした輸出増を支えに、緩やかな景気回復が続く見通しです。ただし、24年前半にかけては欧米や中国など海外景気の減速により、回復ペースが鈍化するとみています。

中国は、経済正常化に向けた動きでリベンジ消費の増加など、年前半は景気回復ペースが高まりましたが、年後半以降は不動産市場の低迷や海外景気の減速、若年層の雇用悪化の影響で回復ペースが鈍化するとみています。

豪州は、海外景気の減速やインフレによる消費への下押し圧力を受けて成長率が鈍化するものの、緩やかな景気回復の流れが続く見通しです。中国経済が減速するとみられるものの、企業の投資意欲、良好な雇用環境、コロナ下で積み上がった貯蓄などが、豪州経済を支えるとみています。

3.金融政策

<現状>

FRBは、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00~5.25%から5.25~5.50%に0.25%引き上げました。パウエル議長は8月の「ジャクソンホール会議」で、金融政策判断は「データ次第」と改めて強調しました。欧州中央銀行(ECB)は7月の理事会で、9会合連続となる利上げを決めました。利上げ幅は3会合連続で0.25%でした。ラガルド総裁は記者会見で、今後の利上げペースは「データ次第」とし、9月の利上げ見送りの可能性に言及しました。日銀は、7月の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用を柔軟化し、長期金利について事実上1.0%の上限を設けて0.5%を上回る水準を容認しました。大規模な金融緩和策の枠組みは維持しました。

 <見通し>

FRBは、インフレが鈍化しているなか、これまでの利上げ効果を見極めるため、次回9月のFOMCでは利上げを見送り、11月のFOMCでFF金利を0.25%引き上げると予想しています。FF金利をターミナルレート(利上げの到達点)として5.50~5.75%の水準まで引き上げた後は、来年前半まで据え置くとみています。ECBは、高止まりしている食品価格やコアインフレを抑制するため、9月に0.25%の利上げを実施し、預金ファシリティ金利を4.00%まで引き上げた後、据え置くと予想しています。日銀が7月にYCCの修正を行ったことで、市場機能は改善するとみられるため、追加の政策修正は当面行われないと想定しています。インフレ目標達成にはまだ距離があることから、日銀は現状の金融緩和策の枠組みを維持すると予想しています。

4.債券

<現状>

米国の10年国債利回り(長期金利)は、根強いインフレ圧力や米国債の需給悪化懸念により月初から上昇しました。堅調な米景気を示す経済指標の発表が相次ぐなか、FRBによる金融引き締めが長期化するとの観測から一時4.3%台まで上昇しました。しかし、月下旬に開催された「ジャクソンホール会議」で、パウエルFRB議長が従来のデータ重視の考えを強調したことを受け、長期金利は低下に転じ、月末は4.1%割れで終了しました。ドイツの長期金利は、ユーロ圏の景況感の悪化を受けて、小幅に低下しました。日本の長期金利は、米長期金利に連動して上昇しました。また、投資適格社債については、株式市場の下落を受けて国債と社債の利回り格差が拡大しました。

<見通し>

米国の長期金利は、当面高止まりするものの、先行きは緩やかに低下する展開を予想します。堅調な雇用による景気の底堅さからFRBの金融引き締めが当面続く一方、利上げは最終段階に近づいていると考えられます。先行きは景気減速とインフレの低下が見込まれるため、もみ合いながら小幅に低下するとみています。欧州の長期金利も、インフレ圧力からECBが当面金融引き締めを続けるものの、利上げサイクルが米国同様最終段階に差し掛かっているとみられ、米長期金利に連れて緩やかに低下する展開を予想します。日本の長期金利は、日銀のYCC修正により、0.5%を上回る水準が容認されたため、やや上昇すると予想しています。

5.企業業績と株式

<現状>

S&P500種指数の8月の予想1株当たり利益(EPS)は239.7で、前年同月比+0.8%と7カ月ぶりにプラスに転じました。前月比は+1.9%と7カ月連続のプラスでした。TOPIXの予想EPSは164.9、前年同月比は同+5.2%でした。前月比は+2.3%と5カ月連続のプラスでした。

8月の米国株式市場は調整しました。格付け会社フィッチが米国債の格付けを引き下げたことに続き、米銀70行以上を格下げする可能性が報道されたことなどで長期金利が上昇し、また、金融引き締めの長期化が懸念されたことで米国株は押し下げられました。NYダウは前月比▲2.4%、S&P500種指数は同▲1.8%、NASDAQ総合指数は同▲2.2%でした。一方、日本株式市場は米国長期金利の上昇、米株式市場の調整に加え、YCCの柔軟化を受けて日本の長期金利が上昇したことなどが重荷となりました。日経平均株価は前月比▲1.7%、TOPIXは同+0.4%でした。

<見通し>

S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は4-6月期が前年同期比▲2.9%、除くエネルギーセクターは同+3.5%で着地しそうです(進捗率99%、9月1日時点、リフィニティブ集計)。先月は同▲6.4%、同▲0.3%でしたので着地見込みは大幅な上振れです。特に除くエネルギーセクターは一転、プラスで着地する見込みです。7-9月以降の増益率も一応に上振れており、業績は回復傾向を強める見通しです。一方、TOPIX採用企業の4-6月期の純利益は同+46.1%と大幅な増益となりました(進捗率100%、9月1日時点、3月期決算企業で除く金融、QUICK集計)。

米国株式市場は足元は金利の上昇や利益確定の動きから調整しましたが、消費と雇用は底堅く、業績の上振れも期待されることからレンジを切り上げる展開が期待できそうです。一方、日本株式市場は当面、世界景気の停滞等から変動率の高い展開になると思われます。先行きは欧米の金融引き締めの着地点が見え、景気循環が停滞から脱し始めること、引き続き企業業績が好調なことなどを受けて再び堅調な展開に戻ると予想されます。

                                                                                                                                                                                               

6.為替

<現状>

円の対米ドルレートは、下落傾向が続きました。FRBの金融引き締めが長引くとの見方から米金利が上昇したことを受けて、日米の金利差拡大を意識した円売り・ドル買いが強まりました。月下旬の「ジャクソンホール会議」では、パウエルFRB議長は金融引き締めを継続する姿勢を示した一方、日銀は金融緩和を続けていることから、金融政策の方向性の違いが改めて着目され、円は一時147円台と昨年11月以来の安値を付けました。月末は145円半ばで終了しました。円の対ユーロレートは、前月末の156円半ばから下落し、158円近辺で終了しました。一方、円の対豪ドルレートは、豪州経済と結びつきの強い中国景気の減速懸念から、小幅に上昇しました。

<見通し>

円の対米ドルレートは、日米の金融政策の方向性の違いが意識されるものの、FRBの利上げが最終段階に入りつつあるとみられることから、もみ合う展開を予想します。先行きは米国の景気とインフレが鈍化するため、FRBによる利下げが意識され、米長期金利の低下に伴う日米金利差の縮小を背景に、円が小幅に上昇すると想定しています。円の対ユーロレートも、レンジ内でもみ合いながら小幅に上昇すると予想します。ECBの利上げサイクルは、米国同様に終盤にあるとみられることから、先行きの欧州金利の低下による金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。また、円の対豪ドルレートも、小幅に上昇する展開を予想しています。中国経済の減速により豪州景気や資源価格が抑制されるとみられるためです。

7.リート

<現状>

グローバルリート市場(米ドルベース)は、FRBによる金融引き締めが長期化するとの観測から米国の長期金利が上昇したことや、中国経済の減速懸念を嫌気して、下落しました。米国リート市場は、堅調な米景気を示す経済指標の発表が相次ぐなか、米長期金利が上昇したことや、株式市場が調整したことを受けて下落しました。欧州やアジアのリート市場は、中国経済の減速懸念を受けて、軟調な展開となりました。一方、日本リート市場は、7月の日銀によるYCCの修正後、長期金利の上昇幅が限られたことなどを受けて、上昇しました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)のリターンは前月末比▲3.4%となりました。また、為替効果がプラスに寄与し、円ベースのリターンは同▲1.0%となりました。

<見通し>

米国リート市場は、FRBの利上げが最終局面に近いとみられるなか、米国経済が底堅く推移する見込みであることから、緩やかに上昇するとみています。ただし、FRBの金融引き締め長期化や商業用不動産に対する融資厳格化などが警戒されるため、当面振れの大きい動きになることが見込まれます。欧州リート市場は、ECBによる金融引き締めの継続やウクライナ情勢の影響から当面上値の重い展開を想定します。日本リート市場は、景気回復の動きが続くなか、日銀の金融政策の不透明感か後退したことから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に緩やかに上昇するとみています。

8.まとめ

債券

米国の長期金利は、当面高止まりするものの、先行きは緩やかに低下する展開を予想します。堅調な雇用による景気の底堅さからFRBの金融引き締めが当面続く一方、利上げは最終段階に近づいていると考えられます。先行きは景気減速とインフレの低下が見込まれるため、もみ合いながら小幅に低下するとみています。欧州の長期金利も、インフレ圧力からECBが当面金融引き締めを続けるものの、利上げサイクルが米国同様最終段階に差し掛かっているとみられ、米長期金利に連れて緩やかに低下する展開を予想します。日本の長期金利は、日銀のYCC修正により、0.5%を上回る水準が容認されたため、やや上昇すると予想しています。

株式

S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は4-6月期が前年同期比▲2.9%、除くエネルギーセクターは同+3.5%で着地しそうです(進捗率99%、9月1日時点、リフィニティブ集計)。先月は同▲6.4%、同▲0.3%でしたので着地見込みは大幅な上振れです。特に除くエネルギーセクターは一転、プラスで着地する見込みです。7-9月以降の増益率も一応に上振れており、業績は回復傾向を強める見通しです。一方、TOPIX採用企業の4-6月期の純利益は同+46.1%と大幅な増益となりました(進捗率100%、9月1日時点、3月期決算企業で除く金融、QUICK集計)。


米国株式市場は足元は金利の上昇や利益確定の動きから調整しましたが、消費と雇用は底堅く、業績の上振れも期待されることからレンジを切り上げる展開が期待できそうです。一方、日本株式市場は当面、世界景気の停滞等から変動率の高い展開になると思われます。先行きは欧米の金融引き締めの着地点が見え、景気循環が停滞から脱し始めること、引き続き企業業績が好調なことなどを受けて再び堅調な展開に戻ると予想されます。

為替

円の対米ドルレートは、日米の金融政策の方向性の違いが意識されるものの、FRBの利上げが最終段階に入りつつあるとみられることから、もみ合う展開を予想します。先行きは米国の景気とインフレが鈍化するため、FRBによる利下げが意識され、米長期金利の低下に伴う日米金利差の縮小を背景に、円が小幅に上昇すると想定しています。円の対ユーロレートも、レンジ内でもみ合いながら小幅に上昇すると予想します。ECBの利上げサイクルは、米国同様に終盤にあるとみられることから、先行きの欧州金利の低下による金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。また、円の対豪ドルレートも、小幅に上昇する展開を予想しています。中国経済の減速により豪州景気や資源価格が抑制されるとみられるためです。

リート

米国リート市場は、FRBの利上げが最終局面に近いとみられるなか、米国経済が底堅く推移する見込みであることから、緩やかに上昇するとみています。ただし、FRBの金融引き締め長期化や商業用不動産に対する融資厳格化などが警戒されるため、当面振れの大きい動きになることが見込まれます。欧州リート市場は、ECBによる金融引き締めの継続やウクライナ情勢の影響から当面上値の重い展開を想定します。日本リート市場は、景気回復の動きが続くなか、日銀の金融政策の不透明感か後退したことから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に緩やかに上昇するとみています。

                                                                                                                                                        チーフリサーチストラテジスト

                                                                                                                                                           石井康之(いしい やすゆき)