2026年8月7日
三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト 市川 雅浩
【市川レポート】今局面における長期金利上昇と円安進行に対する処方箋
●財政規律配慮と日銀の利上げへの理解が長期金利上昇と円安進行に対する処方箋になり得る。
●「強く豊かな日本」投資枠が債務の実態把握を困難にする恐れ、市場の信任確保の対応が必要。
●適切なタイミングでの利上げは投資促進に、政府の行動次第でタームプレミアムの押し下げは可能。
財政規律配慮と日銀の利上げへの理解が長期金利上昇と円安進行に対する処方箋になり得る
今回のレポートでは、足元でみられる長期金利の上昇や円安の進行について、これらを抑制するための施策について考えます。市場では、政府の積極財政方針について、財政悪化懸念や日銀の利上げが後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念が依然として根強いなか、財務省は7月10日に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による日本国債への投資増を示唆し、31日には米国と協調し、円買いの為替介入を実施しました。
米国の介入は、ユーロ円で行われた模様ですが、この場合、ドル需給に中立となるため、ドル円への影響は円部分に限定されます。また、介入後のベッセント米財務長官の発言も踏まえると、米国の協調介入の意図は、ドル安誘導ではなく、日本政府に「財政規律への配慮」と「日銀による適切なタイミングでの利上げへの理解」を求めることにあると推測され、これが長期金利上昇と円安進行に対する処方箋になり得ると思われます。
「強く豊かな日本」投資枠が債務の実態把握を困難にする恐れ、市場の信任確保の対応が必要
政府は7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」と「日本成長戦略」を閣議決定し、『「強く豊かな日本」投資枠』の創設を盛り込みました。同枠は、予算の要求上限を設けず、経済安全保障上特に重要な分野などについては、複数年度で財源を確保し、償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」の発行によって特別会計で管理され、債務残高対GDP比や基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の算出から除外されます。
つまり、政府が経済安全保障上特に重要な分野と判断すれば、つなぎ国債の発行で複数年度の財源が確保され、つなぎ国債の発行残高は一般会計に計上されず、債務残高対GDP比やPBにも影響しないため、債務の実態が把握しにくくなり、実質的な国債発行の増額につながる恐れがあります。これらの点も市場の財政悪化懸念の一因と考えられ、財政運営に対する市場の信任を得るための対応が求められます。
適切なタイミングでの利上げは投資促進に、政府の行動次第でタームプレミアムの押し下げは可能
なお、日銀は今局面でコストプッシュ型のインフレに対峙しており、物価上昇が一時的か否かの見極めが必要となる、難しい金融政策の舵取りが求められています。植田総裁は6月に、「原油高を起点とする物価上昇の「2次的波及効果」が基調的な物価の上振れにつながりやすい」状況にあると述べ、先週は「これまで以上に、物価の上振れリスクを意識する必要がある」と発言し、市場で日銀の早期利上げ観測が強まりました。
政府が日銀の考えを尊重し、ビハインド・ザ・カーブを回避できれば、インフレが抑制されて金利見通しが安定し、企業の設備投資の促進につながることが期待されます。つまり、政府が財政規律に配慮し、日銀による適切なタイミングでの利上げを理解することは、タームプレミアム(年限に応じて各種リスクが反映される上乗せ金利)を押し下げ、長期金利上昇(図表1)と円安進行(図表2)のスピードを減速させる上で、非常に重要と考えます。



