2025年10月2日
三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト 市川 雅浩
【市川レポート】米政府機関は一部閉鎖へ~今後の展望と市場に与える影響について
●つなぎ予算は、社会保障政策を巡る与野党の対立で不成立となり、米政府機関は一部閉鎖へ。
●ただ両党とも最終的には社会保障政策についての協議を前提に、つなぎ予算の成立に動くとみる。
●閉鎖が長期化するリスクは残るが、過去の例をみる限り現時点で過度に懸念する必要はなかろう。
つなぎ予算は、社会保障政策を巡る与野党の対立で不成立となり、米政府機関は一部閉鎖へ
米連邦議会では、2026会計年度(2025年10月~2026年9月)の本予算が成立しないなか、11月21日までのつなぎ予算案が直近で審議されていましたが、共和・民主両党の対立により、議会を通過することはできませんでした。その結果、2025会計年度(2024年10月~2025年9月)予算は、米東部時間10月1日午前0時(日本時間同日午後1時)過ぎに失効し、一部の米政府機関は閉鎖となりました。
つなぎ予算を巡り、焦点となったのは社会保障政策であり、具体的には、2025年末に期限を迎える医療費負担適正化法(オバマケア)に基づく医療保険補助金などです。民主党は、これら補助金などの期限延長や、7月に成立した「1つの大きく美しい法(OBBB法)」における低所得者向けの公的医療保険「メディケイド」の予算削減の修正を、つなぎ予算に組み込むよう主張していますが、共和党は組み込むべきではないとの立場です。
ただ両党とも最終的には社会保障政策についての協議を前提に、つなぎ予算の成立に動くとみる
なお、政府機関の閉鎖は、前述の通り一部であるため、社会保障や公的医療保険、安全保障などの基幹業務は継続されることになります。一時帰休が見込まれる政府職員は、およそ75万人に上るとみられ、対象となる職員は一時的に無給になるものの、閉鎖期間が終わった後での給与の支払いは保証されています。また、経済指標の公表も延期され、米労働省は10月3日に予定していた9月の雇用統計などの発表を遅らせると表明しています。
今後を展望した場合、一部政府機関の閉鎖が長期化するほど、社会生活の混乱に伴う米国民の不満は、野党の民主党ではなく、トランプ米政権に向かう可能性が高いと思われます。そのため弊社は、共和党、民主党ともに、ある程度政治的なアピールができれば、オバマケアに基づく医療保険補助金などの期限延長の協議を前提として、つなぎ予算の成立に動き、政府機関の閉鎖を終わらせると考えています。
閉鎖が長期化するリスクは残るが、過去の例をみる限り現時点で過度に懸念する必要はなかろう
市場では、政府機関が1週間閉鎖した場合、GDP成長率は年換算で0.025%程度の下押しになるとの見方が多く、閉鎖が短期間にとどまれば、実体経済への影響は軽微と推測されます。10月1日の米株式市場では、ダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数が過去最高値を更新するなど、今のところ市場は、政府機関の閉鎖を比較的冷静に受け止めているように思われます。
トランプ米大統領は現状、政府機関の閉鎖にあまり危機感を抱いていないように見受けられ、また、民主党も党内のリベラル派への配慮から、つなぎ予算に安易に妥協できない状況にあり、閉鎖が長引くリスクもあります。ただ、過去の例をみる限り、閉鎖がある程度長期化しても、金融市場や経済が大きく混乱する事態には陥っていません(図表)。そのため、閉鎖の長期化リスクは残りますが、現時点で過度に懸念する必要はないと考えています。