2025年5月2日
三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト 市川 雅浩
【市川レポート】米予算審議の進捗と減税政策の効果を確認する
●米相互関税の上乗せ税率90日停止と関税交渉開始で市場は落ち着くも、交渉の行方に注目。
●減税に向けた動きでは予算決議の成立で財政調整法による共和党単独での税制改正が可能に。
●ある程度の関税交渉進展、減税、適切な金融政策が見込まれ株式市場に過度な悲観は不要。
米相互関税の上乗せ税率90日停止と関税交渉開始で市場は落ち着くも、交渉の行方に注目
4月2日にトランプ米大統領が相互関税の導入を発表したことを受け、世界的にリスクオフ(回避)の動きが強まり、日経平均株価は4月7日の取引時間中に一時30,792円74銭の安値をつけました。その後、トランプ氏は4月9日に、一部の国・地域に対する相互関税の上乗せ税率を90日間停止することを明らかにし、各国との関税交渉を開始したことで、市場の極端な警戒感は和らぎつつあります。
ただ、相互関税の基本税率10%などは発動されたままであり、関税率が145%に達している中国との交渉も、まだ正式な協議は行われていない模様です。仮に、貿易相手国との関税交渉に進展がなく、現状の関税発動が長期化すれば(または関税発動がさらに強化されれば)、米国を含む各国の経済への悪影響は避けられず、市場が再びリスクオフの流れに転じる恐れもあります。
減税に向けた動きでは予算決議の成立で財政調整法による共和党単独での税制改正が可能に
トランプ氏の政策について、市場では特に関税政策が注目されていますが、減税政策の動きも着実に進んでいます。米連邦議会下院は4月10日、上院で4月5日に通過した「予算決議案」を可決しました。予算決議案とは、歳出、歳入、財政収支など、予算の全体像を示すもので、今回は、今後10年間で40億ドルの歳出削減と引き換えに、最大5兆3,000億ドルの減税と5兆ドルの債務上限引き上げを実施できる内容となっています(図表1)。
なお、予算決議が成立することで、「財政調整法」の審議が可能となります。財政調整法が上下両院本会議での可決と大統領の署名を経て成立すると、義務的経費(社会保障など)や税制を変更する場合の改正法を迅速に成立させるため、審議時間は20時間に制限され、上院での法案は全100議席中51議席の単純過半数で可決されます。そのため上院で53議席を持つ共和党は、単独で税制などの改正法案を可決することが可能となります。
ある程度の関税交渉進展、減税、適切な金融政策が見込まれ株式市場に過度な悲観は不要
弊社は、2025年末に期限を迎える個人所得減税(トランプ減税)の延長について、2026年の追加的な成長押し上げ効果はゼロと仮定しています。ただ、その他の減税政策(残業代、社会保障給付、チップへの課税廃止や法人税減税など)については、0.3%程度の成長押し上げ効果を見込んでいます。また、予算審議が一巡すれば、金融規制の緩和に向けた具体的な動きも期待されます。
第1次トランプ政権では、減税政策を関税政策に先行させましたが、今回は逆の順番になりました。強硬的な関税政策は、いずれの政権時でも株安要因となりましたが、第1次政権時は米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げなどもあり、政権の4年間で株価は上昇しました(図表2)。今回も、先行きある程度の関税交渉の進展と、減税や規制緩和の実施、FRBによる適切な金融政策が見込まれるため、株式市場に過度な悲観は必要ないとみています。