【市川レポート】朝令暮改の米関税政策と米中報復合戦と米国売りについて

米相互関税を巡る混乱が続いています。トランプ米大統領は4月2日に相互関税を発表後、9日には早々に相互関税の上乗せ分の一部を90日間停止することを明らかにしました。その後、11日にはスマートフォンなどの電子関連製品を相互関税から除外するとの方針が米トランプ政権から示されたものの、13日にはラトニック米商務長官が、スマートフォンなど電子関連製品は、半導体関連の分野別の関税対象になると発言しました。

トランプ米大統領も13日、除外された製品は単に別の関税カテゴリーに移行するだけというコメントを自身のSNSに投稿しており、詳細については14日に説明される見通しとなっています。なお、現時点におけるトランプ関税の発動状況は図表1の通りで、大きく全世界対象、国別、製品別に区分されますが、それぞれ朝令暮改の政策方針に市場が振り回されている状況です。

こうしたなか、米国は中国に対し厳しい追加関税を課し続けており、中国も対抗して追加関税を発動するなど、報復合戦が続いています。米国は違法薬物フェニンタル対策に絡み、3月4日には中国からの輸入品に20％の関税を課していましたが、別途、相互関税の税率を段階的に引き上げており（4月2日に34％、7日に84％、9日に125％）、中国に対する累計の税率は145％に達しています。

一方、中国も米国から輸入する液化天然ガス（LNG）などに最大15%、大豆などに最大15%の追加関税を、それぞれ2月4日と3月4日に発動しました。その後、米相互関税の引き上げに対する報復として、米国からの輸入品に課す追加関税を引き上げています（4月4日に34％、9日に84％、11日に125％）。中国は11日、関税引き上げはここまでと示唆しましたが、米国がさらなる措置を講じれば、関税以外で強硬措置をとるとみられます。

なお、先週は米主要株価指数と米国債が下落し、米ドルも対主要通貨で減価するなど、「米国売り」の動きがみられました。関税に振り回される市場が米トランプ政権に対し、米国資産離れという形で警告を発したものと考えられます。特に米国債の下落は金融市場の一段の混乱につながりかねませんが、先週の複数の米連邦準備制度理事会（FRB）高官発言を踏まえると（図表2）、米国債市場はまださほど緊迫した状況にはないと判断されます。

引き続き、米中が話し合いに向けて歩み寄ることができるか否か、日本を含む主要国と米国との関税交渉が進展するか否かが、今後の焦点になると思われます。いずれも相応に時間がかかるとみられますが、相互関税が4月2日発表の内容に戻らない（あるいはそれ以上の税率にならない）限り、また、米中対立がこれ以上激化しない限り、市場は歩み寄りや進展を先取りしてリスクオフ（回避）の度合いを後退させていくことも十分想定されます。