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米債務上限引き上げ基本合意後の注意点とは

2023年5月30日

●債務上限は歳出削減などを条件に、2025年1月1日まで適用停止へ、焦点は議会審議に移行。
●両党の強硬派の反対は想定されるが、中道派同士の協力で合意案が議会を通過する公算は大。
●Xデー前に債務上限適用停止の法律成立なら米格下げ回避も、当面は進展を見守る必要あり。

債務上限は歳出削減などを条件に、2025年1月1日まで適用停止へ、焦点は議会審議に移行

バイデン米大統領は5月27日、米政府の債務上限問題を巡り、野党・共和党のマッカーシー下院議長と基本合意に至ったと発表しました。翌28日には合意内容が明らかになり、債務上限は、歳出削減などを条件に、2025年1月1日まで適用が停止されることになりました。今後の焦点は議会での審議に移りますが、イエレン米財務長官は政府の資金繰りが6月5日に行き詰まると警告しており、審議に残された時間は少ない状況です。

 

なお、債務上限の適用停止の条件となる歳出削減については、2024会計年度(2023年10月~2024年9月)の裁量的経費(国防費は除く)を、2023会計年度とほぼ同水準に抑え、2025年度は1%の増加を認める内容になっています(図表1)。歳出削減の規模は、共和党の独自案(4月に下院で可決)から大幅に縮小されましたが、共和党が求める低所得者向けの食糧支援(フードスタンプ)の支給条件厳格化などは盛り込まれました。

両党の強硬派の反対は想定されるが、中道派同士の協力で合意案が議会を通過する公算は大

一方、共和党が求めていたクリーンエネルギー支援策の削減は見送られ、また、低所得層向けの公的医療保険「メディケイド」の支給要件も維持されました。結局、合意案は与野党が互いに譲歩し、歩み寄った形になりましたが、共和党では保守強硬派の議員連合「フリーダム・コーカス(自由議連)」が、民主党では急進左派が、それぞれ合意案に強く反対すれば、議会での審議が難航する恐れもあります。

 

ただ、マッカーシー氏は5月28日、下院議員の95%が賛成する見通しだと述べ、5月31日に下院で法案の採決を行う意向を示しており、バイデン氏も5月28日、法案の成立を確信している旨を記者団に伝えました。共和党、民主党とも一部議員の反対は想定されますが、多くの議員が債務不履行(デフォルト)回避を望むなか、両党の中道派同士が協力することで、合意案が議会を通過し、法律として成立する公算は大きいと思われます。

Xデー前に債務上限適用停止の法律成立なら米格下げ回避も、当面は進展を見守る必要あり

合意案が法律として成立した場合でも、米国の信用格付けの動向を見極める必要があります。大手格付け会社フィッチ・レーティングスは5月24日、米国の長期外貨建て発行体格付けの見通しを「ネガティブ」にしたと発表しました(図表2)。同社は、Xデー(米政府の資金繰りが行き詰まる日)までに債務上限を引き上げるか、適用停止としなければ、「AAA」格付けからの引き下げを示唆しています。


したがって、6月5日までに債務上限の適用を停止するための法律が成立すれば、米国のデフォルトは回避され、信用格付けが引き下げられる事態も避けられることになります。現時点で、このシナリオが実現する可能性は高いと考えていますが、仮に、法律が6月5日までに成立せず、米国の信用格付けが引き下げとなれば、金融市場では大きな混乱が予想されるため、進展を見守る必要があります。