2023年5月8日
三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト 市川 雅浩
【市川レポート】2023年5月FOMCレビュー
~今後の政策判断について示されたこと
●FOMC声明から、いくらかの追加利上げが適切になるかもしれないと予想している旨の文言が削除。
●ただこれは利上げ停止の趣旨ではなくパウエル発言も踏まえると利上げはデータ次第の趣旨とみる。
●弊社は今回のFOMCは中立的と判断、FF金利は6月以降、年内いっぱいは据え置きを予想する。
FOMC声明から、いくらかの追加利上げが適切になるかもしれないと予想している旨の文言が削除
米連邦準備制度理事会(FRB)は、5月2日、3日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標について、4.75%~5.00%から5.00%~5.25%へ引き上げることを決定しました。利上げはほぼ織り込み済みでしたので、今回は、先行きの政策判断について、どのような手掛かりが示されるかに市場の注目が集まっていました。
まず、FOMC声明について、主な変更点は図表1の通りです。前回は、「インフレ率を2%に戻すため、いくらかの追加利上げが適切になるかもしれないと予想しており、利上げの度合いを決める際、金融引き締めの累積効果や時間差などを考慮する」という趣旨でしたが、今回は「インフレ率を2%に戻すため、どの程度の追加利上げが適切かを決める際、金融引き締めの累積効果や時間差などを考慮する」という趣旨に変更されました。
ただこれは利上げ停止の趣旨ではなくパウエル発言も踏まえると利上げはデータ次第の趣旨とみる
市場では、FOMC声明から「いくらかの追加利上げが適切になるかもしれないと予想している」との文言が削除されたことで、利上げ打ち止めの可能性が示唆されたとの声も聞かれます。ただ、「どの程度の追加利上げが適切かを決める際」は、引き続き、「金融引き締めの累積効果」や「時間差」などを考慮するとしているため、今回の変更は、それほど明確な利上げ打ち止めのメッセージではないと思われます。
次に、FOMC後の記者会見におけるパウエル議長の主な発言を振り返ります。パウエル議長は前述の声明の変更について「意味のある変更」とし、「(いくらかの追加利上げが適切になるかもしれないという)予想はもうしていない」、「FOMCごとに入手されるデータで政策判断を行う」と述べました。つまり、今後発表される経済指標の内容次第で、追加利上げも、利上げ停止もあり得る、という見解を示したと推測されます。
弊社は今回のFOMCは中立的と判断、FF金利は6月以降、年内いっぱいは据え置きを予想する
また、パウエル議長は、信用条件の引き締まりによる利上げ効果について、「正確に見積もることは全く不可能」とした一方、「信用条件や貸出に何が起きているのかは確認でき、それについては多くのデータがある」とし、「それを意思決定に反映させる」と発言しました。そして、利下げに関し、インフレ率の低下は「ある程度の時間がかかる」ため、そのような状況で「利下げは適切ではない」と述べました。
以上より、今後の政策判断は、信用条件の引き締まり度合いを含め、経済データ次第とみられ、弊社は今回のFOMCについて中立的と考えています。6月のFOMCについては、追加利上げの可能性も残りますが、基本的には6月のFOMC以降、FF金利は年内いっぱい据え置きを予想しています。なお、市場では年内利下げの織り込みが進んでいますが(図表2)、この織り込みは、今後の経済データ次第で大きく変化する可能性が高いとみています。