量的緩和政策の功罪
2021年7月16日
●量的緩和政策は、政策金利ゼロ%時の緩和効果やシステミック・リスクの抑制効果が期待される。
●ただ入口と出口は非対称、バランスシートの拡大は短期間で可能だが、縮小には長期間を要する。
●過剰流動性が滞留し続ければ、一部資産価格の割高さを常態化させる環境を整えてしまうことも。
量的緩和政策は、政策金利ゼロ%時の緩和効果やシステミック・リスクの抑制効果が期待される
今回のレポートでは、量的緩和政策について、評価できる点と懸念される点を改めて考えます。量的緩和政策とは、中央銀行が金融市場の安定や景気刺激をねらい、市場に大量の資金を供給する政策のことです。伝統的な金融政策において、政策金利がゼロ%近くに達し、一段の利下げが困難となった場合、国債などの証券を金融機関から買い入れて、長期金利の押し下げをはかる、非伝統的な金融政策です。
量的緩和政策はまた、システミック・リスク(個別の金融機関の支払不能などが他の金融機関に波及し、金融システム全体の機能が著しく低下するリスク)にも効果的と考えられます。システミック・リスクが顕在化すると、金融市場や経済活動に深刻な悪影響が及びます。量的緩和は、証券購入を通じ、金融機関に大量の資金を供給するため、システミック・リスクの抑制と、金融システムの安定化につながります。
ただ入口と出口は非対称、バランスシートの拡大は短期間で可能だが、縮小には長期間を要する
このように、評価できる点も多い量的緩和政策ですが、実は「入口と出口が非対称」という大きな特徴があります。入口というのは、バランスシートの拡大速度のことです。量的緩和政策の実施が決まれば、中央銀行は直ちに金融機関から国債などの証券を買い入れ、市場に対し大量の資金を迅速に供給することが可能となります。その結果、短期間で中央銀行の国債保有残高は急増し、バランスシートは膨れ上がります。
一方、出口というのは、バランスシートの縮小速度のことです。中央銀行が、バランスシートを元の水準に戻すには、保有する国債を金融機関に売却すればよいのですが、実際にこれを行うと、需給悪化で国債の価格が下落(利回りは上昇)し、市場が混乱する恐れがあります。そのため、中央銀行は国債を満期償還まで保有せざるを得ず、バランスシートの縮小には、極めて長い時間を要すことになります。
過剰流動性が滞留し続ければ、一部資産価格の割高さを常態化させる環境を整えてしまうことも
また、政策の実施期間中、経済見通しの悪化で緩和継続、システミック・リスクの懸念で緩和強化となるため、実施期間が長引けば、バランスシート縮小はさらに長期化します。つまり、量的緩和政策をいったん実行すると、バランスシートの水準は簡単には元に戻らないことになります(図表1)。実際、米金融機関はすでに10年以上、巨額の準備預金を余剰資金として抱えており(図表2)、これは、テーパリングや利上げでは、解消できません。
金融市場に過剰な流動性が長期にわたって滞留すると、一部の金融資産の価格は、割高な水準にまで押し上げられやすくなります。過剰流動性の吸収には、中央銀行による証券売却が必要ですが、前述の通り、実際には難しいと思われます。そのため、量的緩和政策の副作用として、価格の割高さが調整されないまま常態化する環境を、整えてしまうことが考えられます。