日本株の低ベータ戦略

2019年5月29日

●ベータは個別銘柄の市場全体に対する価格感応度、株安局面では低ベータ銘柄が相対的優位。
●直近3年のデータによると、東証33業種のうちベータ値が1を下回るのは15業種で内需が目立つ。
●米中対立が激化した昨年後半では、低ベータ業種のほとんどがTOPIXのパフォーマンスを上回った。

ベータは個別銘柄の市場全体に対する価格感応度、株安局面では低ベータ銘柄が相対的優位

ベータとは、個別銘柄の株価が、株式市場全体の動きに対し、どの程度敏感に反応して変動するかを示す数値で、ベータ値とも呼ばれます。例えば、東証株価指数(TOPIX)を構成する、ある銘柄のベータ値が1.5だったとします。この1.5は、TOPIXが1.0%上昇すると、その銘柄の株価は1.5%上昇し、逆にTOPIXが1.0%下落すると、その銘柄の株価は1.5%下落することを意味します。

そのため、株式市場全体が上昇する局面では、ベータ値の高い銘柄、すなわち高ベータ銘柄を選好することで、株式市場全体を上回るパフォーマンスが期待されます。一方、株式市場全体が下落する局面では、ベータ値の低い銘柄、すなわち低ベータ銘柄を選好することで、株式市場全体を上回るパフォーマンスが期待されます。そこで、以下、実際にベータ値を計算してみます。

直近3年のデータによると、東証33業種のうちベータ値が1を下回るのは15業種で内需が目立つ

東証33業種について、直近3年の日次変化率を基に、TOPIXに対するベータ値を計算すると、ベータ値が1を下回った業種は15業種ありました(図表1)。最もベータ値が小さい業種は、水産・農林業で、ベータ値は0.66でした。次いで、空運業の0.67、食料品の0.70が続きます。ベータ値が1を下回る15業種をみると、総じて内需の業種の多さが目立ちます。

これに対し、ベータ値が1を上回った業種は18業種でした(図表2)。最もベータ値が大きい業種は、証券・商品先物取引で、ベータ値は1.26でした。次いで、機械の1.22、ガラス・土石製品の1.20が続きます。ベータ値が1を上回る18業種をみると、総じて外需の業種の多さが目立ちます。それでは次に、ベータ値が1を下回る15業種と、1を上回る18業種について、それぞれのパフォーマンスを確認します。

米中対立が激化した昨年後半では、低ベータ業種のほとんどがTOPIXのパフォーマンスを上回った

トランプ米大統領が2018年6月15日に、500億ドル相当の中国製品に対する制裁関税を発表したことを機に、米中両国は関税引き上げ合戦へ突入し、主要株価指数は年末にかけて大きく調整しました。2018年6月15日から12月28日までの間、TOPIXは16.5%下落しましたが、ベータ値が1を下回った15業種については、繊維製品と建設業を除き、実に13業種がTOPIXの下落率を上回りました。

これに対し、ベータ値が1を上回った18業種については、精密機器、保険業、不動産業、化学を除き、14業種がTOPIXの下落率を下回りました。これらの結果は、いずれも過去の実績に基づくものであり、必ずしも将来に当てはまるとは限りませんが、足元では、米中貿易摩擦の再燃で、市場に不透明感が強まっており、低ベータという観点から投資を考えることもできると思われます。

※業種別のベータ値を示していますが、当該業種を推奨するものではありません。