日米貿易協定交渉の注目ポイント
2019年4月16日
●米国は日本との貿易協定の交渉で、物品貿易のほかサービス貿易や為替についても協議の意向。
●日本は物品貿易の交渉を主軸としたいが、協議難航なら米国は為替条項などを切り出す恐れも。
●ただUSMCAと同程度の為替条項なら警戒不要、そもそも円相場は日本の意向だけで操作不能。
米国は日本との貿易協定の交渉で、物品貿易のほかサービス貿易や為替についても協議の意向
日米両政府による新たな貿易協定締結に向けた交渉が、4月15日からワシントンで始まりました。今回は初回の会合となり、16日までの日程で開催が予定されています。これまでの経緯を簡単に振り返ると、まず、2018年9月の日米首脳会談において、貿易協定の交渉開始が決定されました。また、その際に公表された共同声明では、物品貿易のほか、一部サービス分野も交渉に含まれることが規定されました(図表1)。
その後、米通商代表部(USTR)は2018年12月21日、日本との交渉に向け、22の協議項目を発表しました(図表2)。その中には、「為替」や「通信と金融を含むサービス貿易」が含まれています。為替については、不当な競争優位性を得るためなどの為替操作を日本にさせないと明記しており、また、通信と金融を含むサービス貿易については、一段の市場開放を迫る内容になっています。
日本は物品貿易の交渉を主軸としたいが、協議難航なら米国は為替条項などを切り出す恐れも
報道によれば、4月15日の協議では、交渉の進め方や順序について議論が行われた模様です。なお、2020年の大統領選挙で再選を狙うトランプ米大統領は、実質的な成果をあげるため、日本に対し比較的強い姿勢で臨むことが予想されます。米国の日本に対する要求としては、①農産品の大幅な関税引き下げ、②自動車の非関税障壁の撤廃、③サービス分野の交渉拡大、などが考えられます。
日本は米国に対し、農産品や液化天然ガス(LNG)、防衛装備品などの購入拡大を提示し、物品貿易の交渉を主軸に置くとみられます。ただ、農産品の関税引き下げは環太平洋経済連携協定(TPP)の水準を限度とし、また、安全基準や金融規制の緩和など法改正を伴うものは受け入れないとの姿勢を示すと思われます。協議が難航すれば、米国は為替条項や、米国が輸入する自動車の数量規制や関税引き上げを切り出す恐れがあります。
ただUSMCAと同程度の為替条項なら警戒不要、そもそも円相場は日本の意向だけで操作不能
今回は初回の会合ということもあり、米国が為替条項などを切り出すほど、両国が激しく対立する可能性は低いとみていますが、ムニューシン米財務長官が4月13日に、為替も議題となることを言及したため、市場では改めて為替条項への関心が高まっています。しかしながら、2018年10月19日付レポート「為替条項~実はそれほど脅威ではない可能性」で指摘した通り、過度な警戒は不要と考えます。
米国は、メキシコとカナダとの間で締結した「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に為替条項を導入しています。ただ、通貨安誘導の疑いだけで直ちに制裁関税が発動されるような強制力のある内容ではありません。そのため、為替条項がUSMCAに盛り込まれたものと同程度であれば、日本にとってそれほど脅威ではないと考えられます。そもそも、世界の為替市場で米ドル、ユーロに次ぐ取引量を誇る日本円を、日本の意向のみで円安誘導できるという発想自体、非現実的なものです。