【No.619】日本株の需給にやや改善の兆し
2019年1月17日
●ネット裁定残高は、昨年12月にマイナスとなった後、徐々に増加しており、需給はやや改善の兆し。
●また信用評価損益率の下落で信用買いの解消が進み、潜在的な戻り売り圧力は低下の可能性。
●需給改善継続のカギを握る米中景気だが、減速は織り込み済み、下旬の本邦企業決算に注目。
ネット裁定残高は、昨年12月にマイナスとなった後、徐々に増加しており、需給はやや改善の兆し
2018年12月19日付レポート「日本株低迷の理由は極端な需給の歪みか」では、海外投資家による大量の先物売りが、ネット裁定残高の大幅な減少を伴い、需給の歪みと株安につながっていることを指摘しました。ネット裁定残高とは、裁定取引における現物買いの残高から現物売りの残高を差し引いたもので、先物価格が下落すると減少する傾向があります。
ネット裁定残高は、一般に5億株を下回ると株価の底入れは近いと解釈されますが、2018年12月21日から3営業日連続でマイナスとなりました(図表1)。マイナスの値は、データを取得できる1991年12月13日以降、1998年と2016年にもみられましたが、いずれも株価はその後、上昇に転じました。現状、ネット裁定残高は徐々に増加しつつあることから、海外投資家が先物を買い戻している可能性があり、日本株の需給にやや改善の兆しがうかがえます。
また信用評価損益率の下落で信用買いの解消が進み、潜在的な戻り売り圧力は低下の可能性
実際、日経平均株価は2018年12月26日の取引時間中に18,948円58銭の安値をつけた後、反発しており、また、東証株価指数(TOPIX)も同日の取引時間中に1,408.89ポイントの安値をつけた後、反発しています。ただ、株価がここからもう一段上昇する展開となれば、個人投資家などによる戻り売りも予想されます。そこで、最近の個人投資家などの動向を確認する上で、信用取引に注目してみます。
図表2をみると、信用取引で買った株式の含み損益の度合いを示す信用評価損益率は昨年12月に大幅なマイナスとなり、信用取引の買い残高(東京・名古屋2市場、制度信用と一般信用の合計)も大きく減少していることが分かります。これは、年末の株安で信用買いを入れていた投資家の含み損が拡大し、信用買いの解消が進んだことを示唆しています。そのため、信用買いから生じる潜在的な戻り売り圧力は、相当程度低下した可能性があると思われます。
需給改善継続のカギを握る米中景気だが、減速は織り込み済み、下旬の本邦企業決算に注目
「信用買いからの戻り売り圧力が低下」するなかで、「海外投資家による先物の買い戻し」→「ネット裁定残高の増加」という流れが続けば、日本株の需給改善が進み、もう一段の株高も期待されます。ただ、市場には依然として世界景気の急速な冷え込みに対する強い懸念がくすぶっていますので、日本株の需給改善と株高の継続には、今後発表される米国や中国の経済指標が、それほど悪い内容ではないことの確認も必要になります。
また、米中貿易摩擦問題および英国の欧州連合(EU)離脱問題も進展があれば好材料となりますが、昨年12月の株安で、これらの問題が実体経済や企業業績に与える影響は、すでにかなりの部分、相場に織り込まれたと思われます。そのため、日本では今月下旬から3月期決算企業の4-12月期決算発表が本格化しますが、たとえ通期業績予想の下ぶれが目立っても、想定の範囲内であれば、悪材料出尽くしから株式相場はいったん反発地合いを強めることも予想されます。