【No.618】英国のEU離脱案否決と市場の反応
2019年1月16日
●現行の離脱案は否決、代替案は21日までに発表予定だが議会のコンセンサスは得られていない。
●代替案の議会承認遅延で「合意なし」の離脱リスク上昇、ただ、内閣不信任案可決の公算は小。
●今後代替案の内容や方向性が固まる時期が焦点、市場の懸念は徐々に弱まるとの見方は不変。
現行の離脱案は否決、代替案は21日までに発表予定だが議会のコンセンサスは得られていない
欧州連合(EU)からの離脱案は、1月15日に英議会下院で採決が行われましたが、大方の予想通り否決という結果になりました。投票の内訳は、賛成202票、反対432票で、歴史的な大差でメイ首相が敗北したことになります。現行案が否決されたことを受け、政府は1月21日までに代替案を発表する予定ですが、内容について議会のコンセンサスは得られていません。
代替案として、①アイルランド国境問題の「安全策(バックストップ)」に期限を設ける、②労働党が求める労働者の権利保護を確約する、などの条項を加えることが考えられます。①はEUとの再交渉が必要になりますが、与党保守党内の強硬離脱派と、保守党に閣外協力する英領北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の支持が得られます。また、②については労働党議員の一部が賛成する可能性があります。
代替案の議会承認遅延で「合意なし」の離脱リスク上昇、ただ、内閣不信任案可決の公算は小
政府発表の代替案は議会で審議され、EUとの再交渉の必要性などもあわせて検討されると思われます。方向性が固まれば再び採決が行われ、可決なら「合意あり」の離脱となります。一方、代替案の議会承認が、離脱期限の3月末までに終わらなければ、「合意なし」の離脱となります。そのため、代替案の議会審議に時間を要する場合、3月末の離脱期限が延期される可能性が高まります。
こうしたなか、今回の採決が230票の大差で否決されたことを受け、野党第1党の労働党のコービン党首は内閣不信任案を提出しました。内閣不信任案の採決は、日本時間の1月17日早朝に行われますが、過半数で可決された場合、解散・総選挙となります。ただ、DUPは労働党に協力しないとの方針を表明しているため、内閣不信任案が可決される公算は小さいとみています。
今後代替案の内容や方向性が固まる時期が焦点、市場の懸念は徐々に弱まるとの見方は不変
離脱案の否決は織り込み済みであったため、市場の反応は冷静でした。否決の結果を受けて、英ポンドは対米ドルで上昇し(図表1)、ダウ工業株30種平均も上昇するなど(図表2)、典型的な「Sell the rumor, buy the fact(噂で売って事実で買う)」の動きとなりました。メイ首相が辞任しなかったことも不透明感の後退につながり、いったん相場の「あく抜け」感が強まったものと思われます。
当面の焦点は、代替案の内容や議会との方向性が固まる時期と考えます。依然として合意なしの離脱リスクは残りますが、それを回避するため、前述の通り、3月末の離脱期限を延期する方法や、あるいは離脱自体を取り止める方法もあるため、過度な心配は不要です。EU離脱問題の先行きは慎重に見極める必要がありますが、市場の懸念は徐々に弱まるとの見方に変わりありません。