【No.614】FRBプットと株式のプログラム取引
2019年1月8日
●パウエルFRB議長は1月4日、バランスシート縮小方針を見直す可能性に言及し、米国株が急騰。
●パウエル発言は典型的な「FRBプット」、ただ株価急騰の背景に「プログラム取引」を指摘する声も。
●プログラム取引は、長期投資家にとって好ましくない面もあるが、中銀はプット効果の強化が可能に。
パウエルFRB議長は1月4日、バランスシート縮小方針を見直す可能性に言及し、米国株が急騰
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は1月4日、米ジョージア州アトランタで開催された米国経済学会の年次総会に出席し、不安定な動きが続く市場に配慮する姿勢を示しました。パウエル議長は米経済のモメンタム(勢い)は良好で、インフレは落ち着いているとの見解を示した一方、経済の展開を見極める上では辛抱強くなり、政策を柔軟に調整する用意があると述べました。
また、FRBのバランスシートについても、目標と相いれなければ、縮小方針の変更もためらわないと明言しました。パウエル議長は昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、バランスシートの縮小方針を変更するつもりはないと述べていましたので、今回は相当ハト派的な方向に踏み込んだことになります。そのため、1月4日の米国市場では、株価急騰など、リスクオン(選好)の反応が強くみられました。
パウエル発言は典型的な「FRBプット」、ただ株価急騰の背景に「プログラム取引」を指摘する声も
FRB当局者の発言で市場の動揺がおさまることを「FRBプット」といいます。プットとはプットオプション(売る権利)のことです。プットオプションは、保有していれば株安局面で株式を売る権利を行使し、株価下落の損失を限定することができます。つまり、FRB当局者の発言をプットオプションになぞらえた表現がFRBプットであり、今回の米株急騰につながったパウエル議長の発言は、その典型といえます。
なお、ダウ工業株30種平均について、昨年12月のFOMCから足元までの推移をみると、パウエル議長やトランプ米大統領などの発言に反応し、価格が大きく上下に振れている様子がうかがえます(図表1)。ちょうどクリスマス休暇や年末年始の時期であったため、市場参加者が少なかったこともありますが、背景に「プログラム取引」の存在を指摘する声も聞かれます。
プログラム取引は、長期投資家にとって好ましくない面もあるが、中銀はプット効果の強化が可能に
プログラム取引とは、一定の条件に沿って、株式を自動で売買する取引です。例えば、テキストマイニング型の取引では、パウエル議長からタカ派的なコメントが出れば自動的に株式を売り、逆にハト派的なコメントが出れば買うように条件が設定されます。そのため、いったんプログラム取引が売りで反応すると、特に市場参加者が少ない状況では、すでに価格水準(バリュエーション)が割安であっても、一段と株安が進行することがあります。
プログラム取引は、短期で利ざやを稼ぐ投機筋が主に利用しているとみられますが、価格変動(ボラティリティ)の過度な拡大要因となるため、長期運用の投資家にはあまり好ましいものではありません。しかしながら、中央銀行にとっては、プログラム取引をうまく逆手にとることによって、プットの効果を強めることが期待されます。ただし、これは金融政策の範疇において、市場との対話の一環として行われることが前提となります。