【No.606】信任されたメイ首相を待つ2つのハードル
2018年12月13日
●信任が決まったメイ首相だが、現行の離脱協定案を可決するには2つのハードルを越える必要あり。
●1つは強硬離脱派とDUPの支持や、野党の賛同、もう1つはアイルランド国境問題でのEUの譲歩。
●交渉難航でプランBの展開も、ただ労働党の内閣不信任案提示リスクも残り、先行きは読みにくい。
信任が決まったメイ首相だが、現行の離脱協定案を可決するには2つのハードルを越える必要あり
英国の与党保守党は12月12日、党首であるメイ首相の信任を問う投票を実施しました。昨日のレポート「英国のEU離脱問題~混乱する現状を整理する」において、保守党内で党首の不信任投票実施に必要な保守党議員48人の書簡が集まったとの報道があったため、まずはメイ首相の進退が目先の焦点とお伝えしましたが、保守党は早々に投票に動きました。
投票の結果、信任が200票、不信任は117票となり、メイ首相の信任が決まりました。これにより、今後1年間はメイ首相に対する不信任投票は行われないことになります。ただ、不信任の票数は事前の予想よりも多く、保守党内の深刻な分裂状況が露呈されました。メイ首相は全政党に対し、現行の離脱協定案の可決に向けて協力を呼びかけていますが、可決には少なくとも2つのハードルを越えなければなりません(図表1)。
1つは強硬離脱派とDUPの支持や、野党の賛同、もう1つはアイルランド国境問題でのEUの譲歩
1つは、メイ首相が保守党内の強硬離脱派と保守党に閣外協力する英領北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)から協力を取り付けることです。両者は現行の離脱協定案に盛り込まれているアイルランド国境問題の「安全策(バックストップ)」(図表2)を削除・修正するよう求めていますが、これには欧州連合(EU)の承諾が必要です。両者の協力が万全でない場合は、さらに野党の労働党などから賛同者を求めることになります。
もう1つは、メイ首相がバックストップの修正に関し、EUから譲歩を引き出すことです。EUは法的拘束力のない政治宣言案の修正などには応じる見通しですが、法的拘束力のある離脱協定案に再交渉の余地はないとの立場です。強硬離脱派とDUPの協力を得るには、離脱協定案の修正が必要となっており、メイ首相が12月13日から始まるEU首脳会議で成果をあげられるかが注目されます。
交渉難航でプランBの展開も、ただ労働党の内閣不信任案提示リスクも残り、先行きは読みにくい
英国の下院定数は650人ですが、議長、副議長や採決に加わらない議員を除くと、639人になります。そのため、離脱協定案と政治宣言案の可決には、その過半数の320人の賛成が必要です。前述の2つのハードルを越えると、可決の公算が大きくなるため、「合意あり」の離脱が視野に入ってきます。英国とEUが、離脱について合意の有無を決める期限は2019年1月21日ですが、それまで内外での交渉は続く見通しです。
なお、交渉が行き詰まった場合、メイ首相は次の一手として、よりソフトな離脱となるノルウェープラス型と呼ばれるプランBで議会採決に臨むことも予想されます。プランBは関税同盟に残るためアイルランドの国境問題が解消するほか、一部の労働党議員やEUからも一定の理解が得られる可能性があります。ただ、交渉の行き詰まりで労働党が内閣不信任案を提示する恐れもあるため、先行きが読みにくい状況は続きます。