【No.602】米中首脳会談のポイントと市場への影響
2018年12月3日
●米中は知財保護などで協議開始、ただ90日以内に合意しなければ米国は追加関税引き上げへ。
●知財保護など5分野で90日以内の合意はかなり困難、また米国側と中国側の声明に相違もある。
●今後は知財保護など5分野での具体的な協議の進展が焦点に、一定の警戒感は市場に残ろう。
米中は知財保護などで協議開始、ただ90日以内に合意しなければ米国は追加関税引き上げへ
トランプ米大統領と習近平(シー・ジンピン)中国国家主席は12月1日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで夕食形式の首脳会談を開きました。両首脳が直接会って話し合いを行うのは、2017年11月9日に北京で開催された首脳会談以来となります。米ホワイトハウスは会談終了後に声明を発表しましたが、主な内容をまとめると図表1の通りになります。
主なポイントは、①米国は来年に予定していた制裁関税第3弾の追加関税引き上げを見送る、②中国は米国産の農産品やエネルギーなどを購入する、③米中は知的財産権の保護など5分野で協議を開始するが、90日以内で合意できない場合、制裁関税第3弾の追加関税を引き上げる、の3点です。なお、「中国製造2025」については、米中の折り合いがつかなかったとみられ、声明に言及はありませんでした。
知財保護など5分野で90日以内の合意はかなり困難、また米国側と中国側の声明に相違もある
今回の会談により、貿易問題を巡る米中両国の一段の対立激化は、とりあえず回避された格好になりましたが、いくつか懸念が残ります。例えば、中国の米国製品購入については、「相当量」としているだけで、具体的な量で合意している訳ではありません。また、知的財産権の保護など5分野について、協議の枠組みが示されたことはポジティブな材料ですが、90日以内で合意に達することはかなり困難と思われます。
なお、中国外交部が発表した声明には、「あらゆる追加関税を取り消す方向で協議を加速する」との記述があり、米国が触れていない制裁関税第1弾や第2弾の追加関税取り消しも示唆されています。逆に、米国が明示している、知的財産権の保護などの5分野や、90日以内の合意期限については、中国外交部の声明に記載はなく、「米中の経済・貿易に関する問題の緩和を推進する」との表記にとどまっています。
今後は知財保護など5分野での具体的な協議の進展が焦点に、一定の警戒感は市場に残ろう
これまでの貿易問題にかかわる米中協議の経緯をまとめたものが図表2です。これをみると、米国側の対中貿易赤字の削減要求に対し、中国側は従来から米国産の農産品やエネルギーなどの購入拡大策を示してきたことが分かります。また、ハイテク分野に関する両国の溝は深く、協議を継続する方向にとどまっていたことも確認できます。これらの観点からは、今回の首脳会談に特段の目新しさはないように見受けられます。
また、米国が一連の協議のなかで、段階的に対中制裁関税を発動したことは、周知の通りです。以上を踏まえると、今回の会談結果は必ずしも楽観できないように思われます。週明けの12月3日、日経平均株価は上昇して寄り付きましたが、今後90日間は知的財産権の保護など5分野での具体的な協議の進展が焦点になるため、市場に一定の警戒感は残るとみています。