【No.541】米中貿易摩擦問題のアップデート
2018年8月9日
●米国は2,000億ドル分の対中上乗せ関税引き上げを発表、160億ドル分の追加制裁も発動へ。
●中国も報復措置で対抗、景気は財政政策で下支え、投機的な元売りに対し規制の姿勢を示す。
●米国が中国以外と協議を進めれば関税引き上げの拡大は回避、市場もこれを織り込みつつある。
米国は2,000億ドル分の対中上乗せ関税引き上げを発表、160億ドル分の追加制裁も発動へ
今回は、米中貿易摩擦問題の現状を確認し、今後の展開について考えます。まず最近の米国の動きからみていきます。米通商代表部(USTR)は8月1日、トランプ米大統領からの指示を受け、2,000億ドル分の中国製品に上乗せする関税率について、10%から25%に引き上げる案を発表しました。USTRは8月後半に公聴会を開き、9月6日まで意見を受け付ける見通しです。
またUSTRは8月7日、160億ドル分の中国製品に、25%の関税を上乗せする追加制裁を、8月23日に発動すると発表しました。今回対象となるのは、半導体や化学品など279品目です。トランプ米大統領は、3月時点で500億ドル分に対中制裁関税を課す方針を発表していました。このうち340億ドル分は7月6日に発動済みであるため、今回で予定通り500億ドル分の金額に達することになります(図表1)。
中国も報復措置で対抗、景気は財政政策で下支え、投機的な元売りに対し規制の姿勢を示す
一方、中国は8月3日、600億ドル分の米国製品に対し、最大で25%の追加関税をかける報復措置を発表しました。今回対象となるのは5,207品目ですが、上乗せする関税率は、品目によって25%、20%、10%、5%の4段階に分けられます。また、米国が8月7日に発表した160億ドル分の追加関税の発動に対し、中国も8月8日、同額の報復関税を賦課することを明らかにしました。
なお、中国には、貿易摩擦問題の国内景気への影響を警戒している様子がうかがえます。7月31日に開催された中央政治局会議では、2018年下期に積極的な財政政策で景気を下支えする方針が示されました。また、足元では人民元が対米ドルで下落傾向にあり、当局は投機的な元売りの規制に動いています。人民元相場については、7月5日付レポート「最近の人民元の動きについて」で詳細を解説していますが、1ドル=6.8~6.9元辺りが元安の目安と考えています。
米国が中国以外と協議を進めれば関税引き上げの拡大は回避、市場もこれを織り込みつつある
こうしたなか、市場は比較的冷静に米中貿易摩擦問題の行方を見守っているように思われます。ダウ工業株30種平均は、6月27日につけた終値ベースでの直近安値から8月8日まで、約6.1%上昇しており、8月だけでも約0.7%上昇しています。同様に、日経平均株価も7月5日につけた終値ベースでの直近安値から8月8日まで、約5.1%上昇しており、8月は約0.4%上昇しています(図表2)。また、ドル円相場にも過度な円高の動きはみられません。
トランプ米政権は、欧州連合(EU)と自動車を除く工業製品の関税撤廃などに向けた貿易交渉を開始することで7月に合意しており、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の基本合意を8月末までに目指すとしています。このように、トランプ米大統領は今後、中間選挙を念頭に置き、中国を除く他の国や地域との協議を進めて、何らかの成果を挙げることに注力すると思われます。この場合、関税引き上げ合戦が世界的に広がることは少なくとも回避されるため、市場もこの点を織り込みつつあるように思われます。