【No.494】トランプ流の交渉術と市場の反応
2018年4月17日
●米軍事行動は想定の最小限、中間選挙も意識しており長期化リスクは小さく、早期消化の材料。
●米中貿易摩擦問題は、現実的な落としどころを見極める段階に移行、過度な懸念はすでに後退。
●日米首脳会談で強気の姿勢が示されてもトランプ流の交渉術と考えれば行き過ぎた警戒は不要。
米軍事行動は想定の最小限、中間選挙も意識しており長期化リスクは小さく、早期消化の材料
米英仏は日本時間の4月14日午前、シリアへの軍事行動に踏み切りました。今回は、化学兵器関連施設3カ所が攻撃対象となり、巡航ミサイルの発射や空爆が行われました。ただ、攻撃は1回のみで、シリアや同国のアサド政権を支援するロシアからの反撃もありませんでした。軍事行動が想定の最小限にとどまったことで、週明け16日の各国金融市場は総じて落ち着いた反応を示しました。
3カ国の共同軍事行動は、アサド政権の抑止とロシアへのけん制が目的と考えます。また、米国は11月に中間選挙を控えています。そのため、トランプ米大統領には、軍事行動で非人道的な化学兵器使用に対する強い姿勢を有権者に示し、自身とロシアの不透明な関係を巡る「ロシアゲート」疑惑を払拭する考えもあると思われます。したがって、軍事行動は長期化のリスクが小さく、市場の材料としては早期に消化されるものとみています。
米中貿易摩擦問題は、現実的な落としどころを見極める段階に移行、過度な懸念はすでに後退
また、トランプ米政権は通商政策でも強硬姿勢を示しており、関税引き上げを巡って中国と激しく対立しています。しかしながら、水面下では両国の協議は進行していると思われます。現実的な落としどころとしては、(1)互いの経済が損害を受けない程度の関税引き上げ、(2)特定の分野や製品に絞り込んだ市場の開放、(3)知的財産権を保護する枠組み作りに向けた合意、などが考えられます。
トランプ米政権は秋の中間選挙を意識し、夏までに(1)か(2)で何らかの成果をあげるよう急ぐ公算が大きいと思われます。ただ、(3)については、ハイテク分野における中国との覇権争いにも関わるため、合意に幾分時間を要すると考えられます。以上を踏まえると、米中貿易摩擦問題は、現実的な落としどころを見極める段階に移行し、過度な懸念はすでに後退したとみています。
日米首脳会談で強気の姿勢が示されてもトランプ流の交渉術と考えれば行き過ぎた警戒は不要
このように、トランプ米大統領は、通商政策や安全保障政策を進めるにあたり、中間選挙を強く意識している様子がうかがえます。そして、具体的なアプローチとして用いられるのは、「相手に強力な脅しをかけて揺さぶり、有利な条件を引き出す」という交渉術です。市場はこれに対し、脅しをかけて揺さぶる段階ではリスクオフ、有利な条件を引き出す段階では着地が見えてくるためリスクオフの修正、という反応を示す傾向があります。
この先、日米首脳会談(4月17日、18日)、対イラン制裁の再開判断期限(5月12日)、米朝首脳会談(5月か6月初旬の見通し)などが控えていますが(図表1)、いずれもトランプ流の交渉術が用いられると思われます。例えば、日米首脳会談では、米国が対日赤字削減を強く要求することも予想されます(図表2)。ただ、実際に要求があっても、それは「中間選挙対策の意味合いもあり、最終的には極めて現実路線で着地する」可能性が高く、行き過ぎた警戒は不要と考えます。