日米欧為替協奏曲~リスクオンのドル安という旋律
2018年1月29日
●黒田総裁、ムニューシン財務長官、ドラギ総裁、トランプ大統領の発言に、3極通貨が大きく反応。
●足元のドル安は「リスクオンのドル安」、背景にある適温相場では米利上げ局面でもドル安が進行。
●リスクオンのドル安なら日本株への懸念は小さい、ただ107円台をつけた場合の投機の動きに注意。
黒田総裁、ムニューシン財務長官、ドラギ総裁、トランプ大統領の発言に、3極通貨が大きく反応
先週は、為替レートに関する日米欧の要人発言が相次ぎ、為替相場は大きく反応しました。日銀の黒田総裁は1月23日、足元のドル安・円高の動きについて、ドルがユーロに対して非常に弱くなったことを指摘し、円高ではなくドル安との見解を示しました。1月24日には、ムニューシン米財務長官が「弱いドルは貿易などの面で米国の利益になる」と発言すると、市場は「ドル安容認」と受け止め、対主要通貨でのドル安が進行しました。
こうしたなか、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は1月25日、最近のユーロ高は物価の安定に影響を与えかねないと警戒感を示し、トランプ米大統領も同日、「私は強いドルが見たい」と述べ、前日のムニューシン発言を打ち消しました。これにより、ドル円相場も落ち着くかに見えましたが、黒田総裁が1月26日、日本は2%の物価目標にようやく近づいていると述べると、円は早期緩和解除の思惑から、対ドル、対ユーロで上昇しました。
足元のドル安は「リスクオンのドル安」、背景にある適温相場では米利上げ局面でもドル安が進行
結局、先週一週間で、ドル円は2円19銭程度のドル安・円高、ユーロ円は49銭程度のユーロ安・円高、ユーロドルは0.0205ドル程度のユーロ高・ドル安となりました。そのため3通貨を強い順に並べると、円>ユーロ>ドルとなり、一見、円高の地合いに見えます。ただし、比較対象の通貨を広げて先週一週間の動きをみると、図表1の通り、やはりドル安地合いであることが分かります。
なお、世界の主要株価指数は「適温相場」のなか、年初から堅調に推移しており、とりわけ新興国の金融市場は総じて安定しています。したがって、リスクをとりやすい環境下、世界の投資マネーはドルだけでなく、新興国の通貨や資産などに広く投資機会を求めていると推測されます。つまり、足元のドル安は「リスクオンのドル安」であり、適温相場では米国が利上げ局面でも「ドル安」が進むことがあります。
リスクオンのドル安なら日本株への懸念は小さい、ただ107円台をつけた場合の投機の動きに注意
「ドル安容認」と受け止められたムニューシン米財務長官の発言ですが、同時に「長期的には強いドルが米経済の強さを反映する」とも述べています。また、ECBのドラギ総裁も日銀の黒田総裁も、ともに緩和の継続に言及しています。それにもかかわらず、ドルの下落と、ユーロおよび円の上昇が続いているのは、リスクオンのドル安という流れに沿って、投機的なドル売りも加わっている可能性があります。
リスクオンのドル安であれば、ドル円において円が相対で上昇しても、日本株の調整は深刻なものにはなりにくいと考えます。ただし、投機的な動きはやや気掛かりです。図表2をみると、ドル円の日足が下値支持線に接近していることが分かります。下値支持線は今週末、1ドル=107円80銭近辺に位置していますので、日足がこの水準を下抜けて越週すると、来週以降、ドル安・円高の動きが加速する場合もあるため、注意が必要です。