米債務上限問題の基礎知識
2017年9月6日
●ここ数年債務上限は政治問題に、2011年はぎりぎりで上限引き上げも米格下げで市場は混乱。
●2013年と2015年は債務上限の適用停止で対処、このほか暫定延長や特例措置という手法も。
●債務上限については引き上げ以外にも複数の対処法があり、米国のデフォルトは行き過ぎた懸念。
ここ数年債務上限は政治問題に、2011年はぎりぎりで上限引き上げも米格下げで市場は混乱
債務上限とは、米連邦政府が国債発行などで借金できる債務残高の枠のことです。債務が法定上限に達すると、政府は議会の承認を得て、上限を引き上げる必要がありますが、引き上げられないと、国債の新規発行ができなくなり、債務不履行(デフォルト)に陥ります。米国では金融危機後に債務が膨れ上がり、財政健全化を求める議会の声も多いことから、ここ数年、債務上限の引き上げは政治問題となっています。
過去、債務上限が市場の材料となったのは、2011年、2013年、2015年でした。2011年は8月2日に債務上限引き上げに関する法案が、ぎりぎりのところで成立しました。しかし、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は8月5日に米国債の格下げを発表し、市場に動揺が広がりました(図表1)。また2013年は、10月16日に暫定予算および債務上限に関する法案が成立し、瀬戸際でデフォルトが回避されました。
2013年と2015年は債務上限の適用停止で対処、このほか暫定延長や特例措置という手法も
なお2013年は、暫定予算の成立が遅れたため、政府機関の一部が10月1日から閉鎖するという事態が発生しました。また債務上限については、「引き上げ」ではなく、2014年2月7日まで「適用停止」となりました。2014年2月以降は、債務上限の「暫定延長」などで資金繰りが行われました。また2015年も、10月30日に債務上限の適用を2017年3月15日まで停止する法案が可決、11月2日に制定され、デフォルトは回避されました。
これら債務上限を巡る一連の経緯をまとめたものが図表2です。つまり、債務上限については、いわゆる「引き上げ」(2011年8月)以外にも、「適用停止」(2013年10月、2015年11月)や「暫定延長」、さらには財務省による「特例措置」という手法があります。「適用停止」や「暫定延長」では、一定期間、通常の国債発行を認め、期間終了時点の債務残高が新たな債務上限として設定されます。
債務上限については引き上げ以外にも複数の対処法があり、米国のデフォルトは行き過ぎた懸念
現時点の債務上限は、2017年3月15日までの適用期間が終了しており、財務省が特例措置で対応しています。ムニューシン米財務長官はこれまで上下両院に対し、9月29日より前の債務上限引き上げを呼びかけてきましたが、9月3日にFOXテレビに出演し、ハリケーン「ハービー」にかかわる緊急支援予算措置と、債務上限引き上げを組み合わせるべきと述べました。
今後は議会の動向に注目が集まりますが、9月までに18年度の暫定予算が成立しなければ、10月1日から政府機関が一部閉鎖するリスクは顕在化します。しかしながら、債務上限については、今回みてきたように、引き上げ以外にも複数の選択肢があります。そのため、少なくとも、議会が債務上限を引き上げないという選択、つまり米国のデフォルトという選択をすることはないと考えます。