ホームマーケットエコノミスト・ビュー2018年 5月【世界経済】半導体はスーパーサイクルか?~統計的な分析、ストーリー性は可能性を排除しない~

【世界経済】半導体はスーパーサイクルか?
~統計的な分析、ストーリー性は可能性を排除しない~

2018年5月8日

  • グローバルのITサイクルの先行きについて、警戒論がある一方、スーパーサイクルとの楽観論も根強い。
  • 本稿では、一つの試みとして、足元が短期、中期、長期の半導体サイクル上、どのような位置づけにあるのかについて、周波数分析の手法を用いて計量的に分析した。
  • 今局面は、半導体の短期サイクル、中期サイクルはやや下向きだが、長期サイクルは拡大局面に入っていると見られる。長期サイクルの頑健性、持続性はわからないが、IoTやビッグデータ、AIの活用という底流にあるストーリー性は1990年代後半のITブームに匹敵すると見られ、今回が「スーパーサイクル」となる可能性は十分にあると見られる。

足元、グローバルのITサイクルへのモメンタムは鈍化している。世界の半導体売上の動向を見ると、年明け以降、売上の増加モメンタムは鈍化している。日本の実質輸出を見ても、半導体等電子部品などの電気機器の輸出は、昨年4Qまで大きく増加した後、年明け1Qは若干だが減少に転じている。iPhoneや中国スマホの不振が長期化するとの懸念から、ITサイクルの先行きへの警戒感を強める見方がある一方で、今回はスーパーサイクルであり、調整は一時的との楽観論も根強い。このままITサイクルは失速してしまうのか、それとも軽微な調整にとどまり、再び拡大が続くのか。

本稿では、一つの試みとして、足元のモメンタム鈍化がサイクル上、どのような位置づけにあるのかを計量的に分析した。具体的には、日本銀行のリサーチペーパー『周波数分析からみた近年の耐久財消費の動向』(2017年1月)を参考に、Band-Passフィルター(CFフィルター)という計量的な手法を用い、世界の半導体売上の時系列データから複数の周期のサイクルの抽出を行った。手法の詳細は上述のペーパーに委ねるが、本稿では、半導体のサイクルを20 年までの周期と仮定した上で、季節性やiPhoneサイクルなどの短いサイクル(2年以下)、通常のシリコンサイクル(2~6年=中期サイクル)、長期サイクル(6~20年≒スーパーサイクル?)の3つの周期を任意に設定し、Band-Passフィルターにより、周期成分を抽出した。

以下、周期ごとに結果と解釈を述べる。まず、短期サイクルは、概ね1~2年程度の短いサイクルで、クリスマス商戦に向けて半導体需要が高まりやすいという半導体の短いサイクルの特徴を捉えているように見える。また、iPhoneの発売が開始され、毎年新モデルが出るようになった2000年代後半以降は、周期は1年、秋から冬にピークが来る傾向が強まっているように見える。直近のサイクルは、昨年12月をピークに頭打ち気味であるが、今回は、従来のサイクルより拡大のモメンタムが強いため、調整もやや大きくなる可能性もあるかもしれない。iPhoneだけでなく、ビットコインのマイニング向け需要などが振幅を大きくした可能性がある。

次に、中期サイクルは、3~5年で周期しており、一般的なシリコンサイクルが3~5年程度と考えられていることとも整合的と言える。直近のサイクルについては、昨年9月をピークにやや下向きとなっている。

長期サイクルについては、概ね10年程度の周期で、1990年代以降で見ると1990年代半ば、2000年代半ばが拡大期にあたり、拡大サイクルの力強さ、期間ともに前者が後者を上回った。1993年に就任したクリントン米大統領が情報スーパーハイウェイ構想を打ち出すと、1990年代後半にかけて、米国を中心に、世界は大規模なITブームを迎えた。2000年代半ばは、欧米のクレジットバブル期で、住宅・消費ブームが家電等の需要の高まりを通じ、半導体需要の拡大にもつながったと見られるが、前者ほどの勢い・持続性はなく、そのためか、前者が「スーパーサイクル」と呼ばれるのに対し、後者を「スーパーサイクル」と呼ぶ声は聞かれない。そして直近では、2016年半ばから長期サイクルは拡大局面に入り、足元でも拡大の動きが続いている。

この通り、統計的な手法で抽出したサイクルの動きを見ると、足元、半導体の短期サイクルは頭打ち気味、中期サイクルはやや下向きだが、長期サイクルは拡大局面に入っている可能性が示唆されている。ただし、今回が長期サイクルの拡大局面であったとしても、過去2回の長期サイクルを見る限り、拡大の力強さ、期間は必ずしも同じではなく、今回のサイクルの頑健性、持続性までは本分析からはわからない。とはいえ、テクノロジーの進化が続く中でも、過去10年間はほぼ横ばいで推移していた長期サイクルがここに来て拡大し始めたのは、テクノロジーのはん用性が高まり、普及フェーズに入ったからかもしれない。IoTやビッグデータ、AIの活用という底流にあるストーリー性は1990年代後半のITブームに匹敵すると見られ、ビッグデータやAIの社会実装の動きはまだ緒についたばかりと見られることも考えると、拡大局面が長期化し、今回が「スーパーサイクル」となる可能性は十分にあるというのが筆者の見立てである。世界半導体市場統計(WSTS)は、昨年5月に続いて、11月にも世界の半導体売上の見通しを大幅に上方修正し、2018年についても、2017年ほどではないにせよ、堅調な増加を見込んでいる。

最後に。今回の分析は、当社のアナリストの見解ではなく、マクロ指標から分析したエコノミストによる見解である。また、本稿が参考にした日銀のリサーチペーパーで述べられているのだが、Band-Passフィルター(CFフィルター)は、直近までの推計結果が抽出可能な一方で、その後、新たなデータが蓄積された後に再推計を行うと、過去に遡って結果が変わり得る。このため、一定期間後、データの蓄積がさらに進んだ段階で再度推計を実施し、再検証を行うことが有用と考えられる。

参考文献:東 将人、河田 皓史(2017)、「周波数分析からみた近年の耐久財消費の動向」、日本銀行