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7大投資テーマから考えるポートフォリオ戦略

(その3)「戦火を凌ぐ」ポートフォリオ戦略


2021年7月19日

1.戦火に限れば堅調な株式市場。その後の投資環境の吟味が不可欠

2.主戦場は「サイバースペース」=技術開発

3.現代版「クォンタムリープ」に乗る

■資産形成の要諦は長期・分散・複利です。時間をかけて賢く資産を増やすことが重要ですが、リターンはリスクと表裏の関係にあります。長期間にわたる資産形成においては、遭遇するリスクの種類も多岐にわたります。ポートフォリオ戦略について3回目となる今回は、議論すら避けてしまうテーマ、「戦争」、について検討したいと思います。

<米中を軸に起こり得る「戦争」>

■日本では実感できませんが、「戦争」は世界中で起こっています。その多くは政治的に不安定で貧富の格差が大きい地域で発生しており、地理的に重要な地域では、超大国間の代理戦争的な場合もあります。日本でそうした状況を実感できないのは、超大国同士の直接的な武力衝突が起こっていないことに加え、日本を含むアジア(特に東アジア)は、政治的・経済的・社会的に安定していて、長く紛争が起こっていないため、と考えられます。


■ところが、そういった安定的な状況が変わりつつあります。それが米中対立です。トランプ前米大統領時代には「貿易戦争」が話題になりましたが、中国の目覚ましい経済発展により両国の経済規模は接近してきています。同時に、中国の技術進歩は圧倒的と言われた米国の軍事的な優位性を揺るがす状況となってきています。両国の争いは、最先端ハイテク・軍事技術、環境対応、人権、領海など、あらゆる分野に及び、今後、米中を論ずる際に「戦争」というキーワードは日常的に使われることになると見られます。


■米中は核保有大国であり、壊滅的な軍事衝突は回避すると考えますが、幅広い分野での「戦争」が続くことは避けられません。こうした中、私たちはどのような基本姿勢で資産形成に臨むべきでしょうか。まず、一般論としての「戦火と金融市場への影響」を振り返ってみます。

 


1.戦火に限れば堅調な株式市場。その後の投資環境の吟味が不可欠

<相場格言では「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」と言うが・・・>

■「戦火に巻き込まれ、甚大な被害を受ける国の株式は買いたくない」ことや、「戦争」に勝った場合はその後の経済的なメリットが考えられるため、相場格言では「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」と言われています。


■とは言え、「戦争」によって強烈な超過需要が発生するので、戦場とならない限り、供給基地となり得る近隣の国への株式投資はメリットがありそうです。例えば、1950年6月に勃発した朝鮮戦争で、東証株価指数は1950年6月から1953年7月までで3.5倍となり、米国S&P500種指数(同1.4倍)を大きくアウトパフォームしました。近くの「戦争」でも戦場にならない限りは「慌てない」、といったスタンスでしょうか。

<戦火の影響を受けても下落するとは限らないが・・・>

■第2次世界大戦前後の米国株式市場の動きを見ると、S&P500種指数は1937年5月以降の景気後退局面を経た後も下落局面にありました。株価は開戦後にさらに下落したものの、1942年4月を底に上昇基調となり、その後も上昇が続きました。


■同期間では日本株式市場も比較的堅調に推移しました。当時の政府が公的機関等を通じて株価の買い支えを行ったことが背景です。戦後もそれほど大きく値を崩しませんでしたが、ハイパーインフレが発生したため、株価の実質価値は大幅に棄損しました。


■戦時下だからと言って株式市場が下落する訳ではなさそうです。しかし、ハイパーインフレが発生すると株価の実質価値が大きく下落するため、投資環境、特に物価状況を十分に吟味することが不可欠です。

2.主戦場は「サイバースペース」=技術開発

<増加する「サイバースペース」における脅威>

■これまで「戦争」と言えば戦火を交えた軍事衝突を意味していましたが、技術の進歩とともに、「戦争」の幅は大きく広がってきています。中でも、情報が重要となってきている現代、「サイバースペース」での戦いが「戦争」の中心になるとの見方もあります。ここで優位に立てれば、軍事衝突の際に有利な立場となります。


■近年、企業等を狙うサイバー攻撃が飛躍的に増加している点も大きな変化です。米国では、東海岸沿いの石油パイプラインがサイバー攻撃を受けて止まり、一時ガソリン価格が急騰しました。オーストラリアでは世界最大規模の食肉加工業が操業停止に追い込まれました。また、政府・公共機関や銀行もターゲットになっています。


■サイバー攻撃によって原子力発電を含む電力システムや金融システム、企業のサプライチェーンといったインフラ・産業の基盤や生活基盤を破壊できるとも言われています。防ぎきれない場合は、有事の際に、戦わずして負けることになりかねません。


■そうした状況に陥ることを避けるため、超大国は「サイバースペース」での攻撃力と防御力の強化に力を入れています。

<宇宙空間や電磁波の分野でもしのぎを削る展開>

■インターネットなどの情報通信ネットワークが一段と進化する方向にある中、宇宙空間や電磁波、といった分野でも、超大国間の競争はしのぎを削る展開となっています。宇宙空間には、通信・放送衛星などが打ち上げられており、社会、経済、科学、軍事など幅広い分野で重要なインフラとなっています。電磁波は、携帯電話による通信、GPSの位置情報など日常的に使われています。宇宙空間、電磁波は、実は、安全保障という観点から見ても、非常に重要な分野です。


■例えば、中国は宇宙ステーション「天宮」の建設を進めていますが、宇宙での軍事的優位性を追求する動きとして注目されています。また、電磁波を活用した兵器の開発も米国、ロシア、中国などで進められています。いずれも高度な科学技術の結晶であると同時に、高度な情報通信ネットワークが不可欠です。現在、こうした分野での競争が激化しています。

3.現代版「クォンタムリープ」に乗る

■以上見てきたように、米国と中国は経済規模が接近したことによって「戦争」のリスクが議論されるようになりました。両国は経済面のみならず、軍事面での優位を確保すべく、最先端の技術開発に注力しています。


■足元のコロナ禍を含めて過去を振り返ると、「戦争」あるいはそれに準ずる極限状態・国家存亡の危機、軍事的緊張の高まりなどに際して、その危機を克服するために、通常時では考えられない科学技術面での非連続的な飛躍、「クォンタムリープ」が生じていました。


■足元で、量子コンピュータなど新しいハイテク技術の開発や実用化が加速しているのも、「戦争」の有無にかかわらず、極限の緊張が生み出す、現代版「クォンタムリープ」が始まっているためと考えることもできます。


■過去の「クォンタムリープ」は「戦争」に勝利するために促されました。現在の「クォンタムリープ」は「サイバースペース」を含め「戦争」に勝利するという背景は同じですが、実際に戦火を交える軍事衝突が発生する可能性を抑えるために加速していると考えることができます。さらに、最先端分野での競争がもたらす科学技術の飛躍的な進歩が、世界経済や産業構造に新たな変化をもたらす可能性もあります。


■「戦火を凌ぐ」ポートフォリオを構築するのであれば、世界の最先端技術をリードする産業やセクター、企業の株式をポートフォリオに組み入れることが有望な選択肢になる可能性があります。現代版「クォンタムリープ」に乗る、ということが重要ではないでしょうか。

クォンタムリープ・・・量子的飛躍(quantum leap)。量子力学の言葉で、“非連続の飛躍”を意味します。事業や技術の成長は突然、飛躍的にジャンプすることがあります。

 

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