【デイリー No.1,830】最近の指標から見るブラジル経済(2014年3月)
2014年3月25日
<ポイント>
●底堅い消費と積極的な公共投資により、景気は緩やかながら回復に向かう見込みです。
●ブラジル中央銀行(以下、中銀)は、次回の会合(4月1日~2日)でも物価と景気の両方のリスクを検討し、小幅の利上げを継続するかどうかについて慎重に判断すると見られます。
●高金利や米国のQE3縮小など強弱両方の材料が影響し、レアルは当面方向感のない展開が予想されます。
1.消費や公共投資が景気の下支えに
①小売売上高
1月の小売売上高(物価上昇の影響を除いた実質ベース)は前年同月比+6.2%と、前月の同+3.9%(改定値)から加速しました。内訳を見ると、食品・スーパー等が同+5.5%と前月の同+2.4%から上昇し、全体を押し上げる主な要因になりました。1月に政府が最低賃金を前年比+6.8%引き上げており、消費を支える一因になったと見られます。
一方、同時に発表された自動車売上高(小売売上高には含まれない)は同▲1.8%と、マイナスに転じました。政府は自動車や家電製品などの購入に対する減税策を徐々に縮小する方針を続けており、耐久財消費などへの影響が今後も懸念されます。ただし、1月の失業率は4.8%(季節調整前)となり、2009年以降の低下傾向が続いています。良好な雇用情勢や賃金の上昇などを背景に、消費は全体としては底堅い傾向が続くと思われます。
②鉱工業生産指数・輸出
1月の鉱工業生産指数は前年同月比▲2.4%と、2カ月連続でマイナス(前月は同▲2.5%、改定値)になりました。内訳を見ると、耐久消費財が同▲5.4%と最も大きなマイナスとなりました。自動車売上高同様に、減税策の縮小が影響していると思われます。
2月の輸出は前年同月比+2.5%と、2013年9月以降プラスが続いています。主な輸出先を見ると、アジア(全体の約31%)や米国(同約12%)がプラスとなり、輸出全体を支えています。
中国など新興国の景気が減速しており、輸出や生産などへの影響が懸念されます。一方、政府は2月20日に2014年の修正予算案を発表し、歳出の総額を削減しつつも、公共投資を前年比+16.8%拡大する方針を示しました。底堅い消費と積極的な公共投資により、景気は緩やかながら回復に向かう見込みです。

2.中銀は物価と景気の両方を警戒し、利上げ幅を縮小
①消費者物価指数
2月の消費者物価指数は前年同月比+5.68%と、前月の同+5.59%から上昇しました。内訳を見ると、電力料金の値上がりなどから住宅関連が同+7.54%と前月の同+4.18%から上昇しました。また、良好な雇用情勢などから物価上昇圧力が根強く、サービスと教育は8%台と高い上昇率が続いています。
中銀が3月24日に発表した消費者物価指数に関する調査では、エコノミストの予想中央値は2014年末に前年比+6.28%と、物価目標(年+2.5%~+6.5%)の上限に徐々に近づいています。良好な雇用情勢や過去のレアル安などによる物価上昇圧力から、物価は高止まりするとの見通しが大勢です。
②金融政策
中銀は、2月26日に政策金利を0.25%引き上げ、10.75%としました。政策金利は4月以降8会合連続して引き上げられ、利上げ幅は合計で3.50%となりました。この決定では、利上げ幅が前回までの0.50%から縮小されました。中銀は、物価上昇圧力を警戒する一方、これまでの利上げの影響などから景気にも配慮したと見られます。中銀は次回の会合(4月1日~2日)でも物価と景気の両方のリスクを検討し、小幅の利上げを継続するかどうかについて慎重に判断すると見られます。

3.今後の市場見通し
S&Pがブラジル国債をBBB-に格下げ、見通しは「安定的」
大手格付会社S&Pは3月24日、ブラジル国債の格付けをBBB-(外貨建て長期債)に一段階引き下げました。格下げ懸念は修正予算案が発表されて一旦後退していましたが、S&Pは景気の低迷や一部減税策の存続などから計画通りの財政再建は困難と判断しました。今回の格下げで、現行のムーディーズ(Baa2、BBB相当)、フィッチ(BBB)を一段階下回る格付けとなりましたが、格付け見通しはこの2社と同じ「安定的」としたため、当面の格下げ懸念は薄らいだと見られます。
レアルは方向感のない展開となる見込み
S&Pによる格下げは、目先のレアル安要因になる可能性があります。また、米国のQE3縮小や、中国など新興国景気の先行き不透明感はレアルに対する下押し要因になりそうです。一方、他国と比較して高い金利水準や、中銀によるレアル買いの為替介入プログラムなどがレアルを下支えすると見込まれます。これらの強弱両方の材料が影響し、レアルは当面方向感のない展開が予想されます。
