【デイリー No.1,803】最近の指標から見るメキシコ経済(2014年2月)
2014年2月20日
<ポイント>
●メキシコ銀行は、2014年、2015年のGDP成長率の見通しをそれぞれ前年比+3.0~4.0%、+3.2~4.2%に据え置きました。
●2014年は、政府による財政支出の効果や米国の景気持ち直しなどにより、足元までの低成長から脱する見通しです。
●インフレが落ち着く見通しなどから、メキシコ銀行は史上最低の政策金利を当面据え置き、景気を支える方針です。
⇒投資環境改善には景気回復の顕在化が必要と思われます。一方、構造改革による経済成長への期待はペソとメキシコ国債を下支えする要因です。
1.財政支出拡大と米国の景気回復がけん引
①実質GDP成長率
21日に発表予定の2013年10-12月期の実質GDP成長率の市場予想(ブルームバーグまとめ)は、前年同期比+1.0%と、同年1-3月期以降の低成長が継続する見込みです。ただし、関係の深い米国の景気は、足元で天候要因などから弱含みがみられるものの、基調としては回復が続く見通しです。また、メキシコ政府は財政支出により景気を支える方針です。これらを踏まえ、メキシコ銀行(中央銀行、以下中銀)は2月12日に公表した「インフレ・レポート」で、2014年、2015年の実質GDP成長率の予想をそれぞれ従来の前年比+3.0~4.0%、+3.2~4.2%に据え置きました。
一方、中銀はこの「インフレ・レポート」で、新興国経済や米国の量的金融政策の縮小過程への不透明感を指摘し、引き続き警戒感をにじませています。中銀は、緩和的な金融政策を当面続け、景気支援を続ける見込みです。
②輸出・自動車生産
2013年12月の輸出は前年同月比+6.3%と、同年半ば以降底堅い状況が続いています。米国の自動車販売は、足元で天候要因などから伸び悩んでいますが、1月まで年率換算で1,500万台を維持しています。天候要因が一巡すれば、良好な雇用環境を背景に再び高水準での推移が期待されます。メキシコの自動車生産の伸び(1月、同+2.7%)は底を打ちつつあり、メキシコの輸出は今後回復へ向かう見込み です。
③小売売上高・失業率
2013年11月の小売売上高は前年同月比+1.9%と、3ヶ月連続のマイナスからプラスに転じました。ただし1月の消費者信頼感指数は84.5と、2010年4月以来の水準に低下し、今後の消費の低迷が懸念されます。公共料金の引き上げなどでインフレが加速している影響もあると見られます。
一方、12月の失業率は4.25%と2008年10月以来の低水準にあります。物価が年半ばに向け落ち着く見通しもあり、一段の消費低迷の可能性は限定的 と思われます。
2.政策金利は、史上最低水準に当面据え置き
①消費者物価
1月の消費者物価指数は前年同月比+4.48%と加速し、中銀のインフレ・ターゲット(3%、変動幅±1%)の上限4%を上回りました。中銀は、インフレの加速は公共料金の引き上げや新税制などによる一時的なもので、4-6月期には4%を下回り、2015年末には3%を若干上回る水準に落ち着く と予想しています。
②政策金利
中銀は昨年10月に、政策金利を史上最低の3.50%に引き下げるとともに利下げの打ち止めを示唆し、その後、政策金利を据え置いています。中銀は、景気は回復方向と予想してはいるものの、米国の金融緩和策の縮小や新興国の経済への不透明感もあり、史上最低の政策金利を当面維持し景気を支える姿勢 です。
3.今後の市場見通し
中銀は前述の「インフレ・レポート」で、金融市場をめぐる不透明感が継続することを前提にすれば、内需による成長強化と競争力を高める経済政策が重要とし、政府による一連の構造改革法案の承認を評価しました。特に、エネルギー産業の改革は、メキシコ経済の成長性を高めるものとして市場の期待が高く 、6月末までにまとめられる見込みの細則の内容に注目が集まります。こうした改革の進展を踏まえ、大手格付け会社ムーディーズは5日、同国の外貨建て長期債務格付けをA3(A-格相当)に引き上げました。
一方、エネルギー産業では、実際の投資案件として民間資本が動き出すのは2015年以降との見方が優勢です。また、2014年の財政収支は、構造改革の一環であるインフラ投資などのために財政支出が拡大することから過去最大規模の赤字となる見通しです。政府は2017年に収支均衡を目指しているものの、景気と財政面のリスクは当面ペソや同国国債への投資の抑制要因となる可能性もあります。投資環境の改善には、足元まで低成長が続く景気の持ち直しが必要と思われます。
米国の金融緩和策縮小と金利上昇が早まるリスクについては、金融緩和策を縮小する場合は米国の景気が一定の改善を示していることでもありメキシコ経済やペソにとって好条件 との見方に変わりはありません。市場からそうした好条件が評価されるためにも、景気の持ち直しが待たれます。