【デイリー No.1,921】最近の指標から見る豪州経済(2014年7月)
2014年7月25日
<ポイント>
・雇用環境は、底堅い景気を背景に、緩やかな改善が見込まれます。
・個人消費は、住宅価格や株価の上昇、改善傾向にある雇用環境に支えられ底堅く推移しそうです。
・消費者物価指数は緩やかに加速しました。賃金上昇率の低下などから今後は落ち着いた推移となりそうです。
⇒GDP成長率は+3%前後のやや低い水準での推移が見込まれる一方、足元の物価は中央銀行の目標レンジの上限近くにあることなどから、政策金利は当面据え置かれそうです。
1.雇用環境は緩やかに改善、消費は底堅い推移へ
①雇用統計
6月の雇用者数は前月比+1万6千人となり、ブルームバーグ集計による予想(以下、予想)の同+1万2千人を上回りました。一方、6月の失業率は6.0%と、前月から0.1%ポイント上昇し、予想の5.9%を上回りました。雇用者数の増加にもかかわらず失業率が上昇したのは、労働市場から撤退していた人が求職者として失業者にカウントされたことが要因と見られます。雇用環境は緩やかに改善していると見られますが、正規雇用者数が▲4千人、パートタイムが同+2万人となり、正規雇用が本格的に増加していないことから、内容としてはやや弱いと見受けられます。
雇用環境は、底堅い景気に支えられながらも企業の景況感の回復が緩慢であることから、緩やかな改善が見込まれます。
②小売売上高
5月の小売売上高(季節調整済)は、前年同月比+4.6%となり、前月から伸びが鈍化しました。先行きの参考となる消費者信頼感指数は、7月が94.9(季節調整済)ポイントと、前月の93.2ポイントから上昇しました。同指数は、5月に所得税増税を盛り込む予算案が発表されたことから急落しましたが、緩やかな雇用環境の改善などを受け下げ止まりつつあります。
個人消費は、賃金上昇率の低下や所得税増税の見込みなどを背景として足元でやや減速していますが、引き続き住宅価格や株価の上昇、改善傾向にある雇用環境に支えられ底堅く推移しそうです。

2.住宅市場は底堅さを維持、物価は緩やかに加速
①住宅建設許可件数
5月の住宅建設許可件数は前年同月比+14.3%となり、伸び率は今年2月以降の低下から上昇に転じました。内訳を見ると、集合住宅の建設許可件数が同+14.5%となり、4月の同▲17.0%から持ち直しました。
住宅市場は、政策金利が過去最低水準にあることを受けて住宅ローン申請件数が増勢を維持していることなどから、今後も堅調に推移しそうです。
②消費者物価指数
4-6月期の消費者物価指数(CPI)は、前年同期比+3.0%となり、予想と一致しました。変動の大きい構成項目を除外した平均値(トリム平均)で基調を見ると、同+2.9%と前四半期から0.3%ポイント上昇し、予想の同+2.7%を上回りました。内訳では、医療が同+4.9%、アルコール・タバコが同+7.1%と上昇しました。医療費の上昇は高齢化などの構造的な要因によると見られます。また、アルコール・タバコの上昇は3月からのタバコ税の引き上げが要因です。
将来的な物価上昇率は、賃金上昇率の低下や足元で豪ドルがやや上昇していることなどから、落ち着いた推移となりそうです。

3.今後の市場見通し
2014年後半の実質GDP成長率(以下、成長率)は、前年比+3.0%前後での推移が市場で見込まれています。景気は、低金利による住宅投資や、住宅価格と株価の上昇を背景とした個人消費に支えられそうです。2015年以降の成長率は、底堅さを維持しながらも財政の健全化が成長率の押し下げ要因となりそうです。豪州準備銀行(RBA)は、豪ドル高へのけん制姿勢を維持していることから利上げに動きづらく、一方で物価上昇率が目標である+1%~+3%の上限近くにあることから利下げに踏み切ることも難しいと見られ、政策金利を過去最低水準の2.5%で当面据え置くと思われます。
豪州の株式市場は、中国の景気刺激策が実施されるなか、景気や企業業績の回復期待から緩やかな上昇基調が続きそうです。債券市場では、景気の回復基調を受けて、債券利回りには緩やかな上昇圧力がかかると見られます。ただし、他国と比較して高い金利水準や信用力が豪州債券への需要を支えており、債券価格は今後も一進一退となりそうです。
今年2月以降、豪ドルは、中国の景気刺激策への期待などから、対円、対米ドルともに底を打ち、上昇してきました。当面は、RBAが通貨高をけん制する姿勢を維持していることから、上値は抑えられやすいと思われます。中長期では、相対的に高い金利水準、豪ドル建て債券の高い信用力、主要な貿易相手である中国景気の高めの成長などが下支え要因となり、豪ドルの底堅さは維持されそうです。