【デイリー No.1,877】ASEAN4のGDP成長率(2014年1-3月期)
2014年5月30日
<ポイント>
●マレーシアは輸出の回復で成長が加速し、インドネシアは輸出規制の影響などから成長が減速しました。
●フィリピンは在庫の取り崩しなどで成長が減速し、タイは政情不安によりマイナス成長となりました。
●1-3月期のGDP成長率は、各国の事情により好不調が分かれました。2014年のASEAN4の成長率は、政情不安が続くタイ以外の3か国では底堅い内需と輸出の回復により概ね前年並みとなる見込みです。
1.マレーシアの成長が加速、インドネシアは底堅さを維持
①マレーシア
1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.2%と、前期の同+5.1%から加速し、市場予想の+5.7%(ブルームバーグ集計)を上回りました。底堅い内需と輸出の回復により、4期連続で成長率は加速が続いています。
需要項目別では、GDPの5割強を占める民間消費が前年同期比+7.1%(前期同+7.4%)、総固定資本形成が同+6.3%(前期同+6.5%)と鈍化したものの、比較的高い水準を維持しました。民間消費は緩やかな所得水準の上昇により、固定資産投資は住宅など建設活動の拡大により、それぞれ下支えされています。また、政府消費は+11.2%(前期同+5.2%)と加速しました。外需の回復により、輸出は同+7.9%(前期同+5.7%)と加速し、輸入は同+7.1%(同+7.1%)と横ばいとなり、純輸出の寄与度が上昇しました。
②インドネシア
1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.2%と、前期の同+5.7%から減速し、市場予想の+5.6%(ブルームバーグ集計)を下回りました。成長率の減速は、今年1月からの未加工鉱物資源への輸出規制などが影響しました。
需要項目別では、民間消費は、前年同期比+5.6%(前期同+5.3%)と加速しました。賃金上昇と選挙活動が影響したと見られます。また、機械などへの投資が増加したことにより、総固定資本形成も同+5.1%(前期同+4.4%)と加速しました。輸出は同▲0.8%(前期同+7.4%)と減少に転じました。石炭の価格下落や、未加工鉱石などの鉱物資源へ輸出規制が実施されたことなどが影響しました。

2.フィリピンは減速、タイはマイナス成長
①フィリピン
1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.7%と、前期の同+6.3%から減速し、市場予想の+6.4%(ブルームバーグ集計)を下回りました。在庫の取り崩しにより在庫投資の寄与度が前期のプラスからマイナスに転換したことが主な要因です。在庫変動の影響を除くと、これまでの低金利政策の効果などで内需は底堅さを維持していそうです。
需要項目別では、GDPの約半分を占める民間消費が前年同期比+5.8%(前期同+5.9%)と鈍化しました。一方、設備投資などの総固定資本形成は同+11.2%(前期同+8.0%)に加速しました。また、輸出は同+12.6%(前期同+3.2%)と加速しました。
②タイ
1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比▲0.6%(前期同+0.6%)とマイナス成長に転じ、市場予想の+0.4%(ブルームバーグ集計)を下回りました。政情不安の影響により、内需は足元でも後退局面が続いていると見られます。
需要項目別では、GDPの約半分を占める民間消費が前年同期比▲3.0%(前期同▲4.1%)、総固定資本形成が同▲9.8%(前期同▲11.4%)と、いずれも前期よりマイナス幅は縮小しました。一方で、在庫投資のGDP寄与度がマイナスに転じ、財・サービス輸出が同▲0.4%(前期同+2.0%)へ縮小しました。財輸出はプラスの伸びを維持したものの、政情不安による観光収入への打撃などでサービス輸出が減少しました。輸入は同▲8.5%と大きく減少したことから純輸出寄与度のプラスが増加し、成長率の低下を一部カバーしました。
5月22日のクーデター発生後、タイでは10月から始まる来年度予算案の編成を控えています。今後の暫定政権の発足と経済運営が注視されます。

3.今後の見通し
ASEAN4の1-3月期のGDP統計では、マレーシアが加速、インドネシア、フィリピンの内需が底堅さを維持しながらも減速、タイが内需の後退局面となるなど、好不調が分かれました。インドネシアで実施された未加工鉱物の輸出規制、フィリピンの在庫調整、タイの政情不安と、各国で成長率が減速、後退した背景は異なります。一方、インドネシア、マレーシア、フィリピンの消費は、賃金上昇などに下支えされて底堅さが見られ、設備投資などから構成される総固定資本形成は、これまでの低金利政策に下支えされて比較的高い成長率を維持しています。輸出は、インドネシアの資源輸出やタイのサービス輸出など各国事情による不調を除き、全体的には持ち直しの動きが見られます。
2014年のASEAN4の実質GDP成長率は、賃金上昇に下支えされた消費、インフラ投資、輸出の回復により、タイを除き概ね前年並みとなる見込みです。リスク要因として、米国や中国などの金融財政政策の不透明感増大による国際金融市場の変動、外需の下振れ、タイの政情不安、7月のインドネシアでの大統領選などが考えられ、これらの点では引き続き注意が必要と思われます。