【デイリー No.1,808】最近の指標から見る豪州経済(2014年2月)
2014年2月26日
<ポイント>
・雇用情勢の弱含みが続いており、豪中銀(以下、RBA)は失業率がなお上昇することも想定しています。
・一方、過去の利下げなどから消費が伸びていること、貿易動向が改善してきたことなどは景気支援材料です。
・RBAは当面は政策金利を据え置くことが適切とし、豪ドル高へのけん制姿勢も一旦は和らぎました。
⇒市場の新興国懸念がやや収まるなか、緩やかな景気回復期待などから豪ドルの底堅さは維持されそうです。
1.雇用情勢は引き続き弱含み、小売売上高の伸び幅は拡大
①雇用統計
1月の雇用者数は前月比▲4千人となり、市場予想(以下、予想はブルームバーグ集計)の同+1.5万人を大きく下回りました。1月の内訳は正規雇用が同▲7千人、パートタイムが同+3千人となりました。
1月の失業率は6.0%と12月の5.8%から上昇しました。労働参加率も64.5%となり、2006年3月以来の低水準に並びました(12月分も速報の64.6%から64.5%へと下方修正)。
豪州ではなお高めの為替水準や人件費によって製造業が振るわず、緩やかな雇用調整が続いています。2月に日本の大手自動車メーカーが豪州現地生産から2018年前後をメドに撤退すると発表したように、このところ製造業の流出例が増えてきました。こうしたなか、RBAは失業率がしばらく上昇傾向を続けることも想定しています。
一方、2011年半ばから減少傾向が続いた求人数や求人広告は、このところようやく減少に歯止めがかかりつつあります。景気そのものは緩やかな持ち直し局面にあり、まずは雇用全体に先行する求人動向などに好転の兆しが見られるか注目されます。
②小売売上高
12月の小売売上高(季節調整済)は前年同月比+5.7%と、11月の同+4.6%を上回りました。前月比でも+0.5%と堅調さが続いており、住宅価格上昇などが追い風となっているものと思われます。ただし、10-12月期の物価上昇が加速したことなどを踏まえると、最近の堅調さの幾分かは、価格上昇で押し上げられた部分もありそうです。
先行きの参考となる2月の消費者信頼感指数は100.2ポイントと、1月の103.3ポイントから低下しました(中立=100ポイント)。消費者の住宅購入意欲はなお高いものの、景気や雇用への見通しが悪化しました。
2.昨年末にかけ貿易黒字に転換、RBAは政策を据え置き
①貿易統計
12月の貿易収支は、4.7億豪ドル(約400億円)の黒字となりました。 旧正月の休暇を前に中国の鉄鋼業(世界生産量の半分近くを担い、鉄鉱石・石炭の最大の輸出先)向けの輸出が伸びたことなどが好影響を与えたと見られます。ただし、2014年に入ってから中国向け鉄鉱石価格は一旦下落しています。最近は中国鉄鋼業の景況感も慎重なものとなっており、目先では改善の勢いがやや緩やかになりそうです。
②金融政策
RBAは2月会合で政策金利を2.50%の過去最低水準で据え置きました。声明は、2013年10-12月期の消費者物価が想定以上に上昇したことを踏まえ、政策姿勢を利下げバイアスからより中立的なものに近づけました。また、豪ドルについてRBAは従来「不快なほど高い」と、強いけん制姿勢を示していましたが、今回はこの文言を削除しました。
RBAは2月分の見通し(毎四半期更新)で、物価と成長率の見通しを小幅に上方修正しました。2014年末の物価、GDP成長率は、ともに前年比+2.25%~+3.25%と見込まれています。ただし、目先では物価が上昇しやすく、成長率はRBAが近年判断の目安とする年+3%前後を当面下回る見込みです。
3.今後の市場見通し
雇用情勢の悪化が幅広い指標に見られ、回復にはもうしばらく時間がかかりそうです。一方、住宅関連指標は堅調に伸びており、消費活動にも好影響を与えています。住宅着工件数や建設許可件数から見ても、目先では住宅市場が景気の下支え要因となりそうです。また、輸出も新興国の中長期の資源需要が追い風となり、引き続き景気を支えそうです。
豪州の成長ペースはRBAが見込むように当面は年+3%を下回る緩やかなものとなりそうです。ただし、こうしたなかでも物価はRBAが従来想定した以上に上昇しています。RBAは当面の間、現行の金融政策を維持しそうです。
なお、アボット首相への政権交代(2013年9月)から間もなく半年となります。直近のG20で豪州は議長国として各国に積極的なインフラ投資を呼びかけたこともあり、今秋にかけて同政権が政府支出による景気支援を強化するか、注目されます。
豪州の株式市場は、新興国景気への懸念が徐々に収まってきたこともあり、景気、企業業績の回復期待などから緩やかな上昇基調が続きそうです。債券市場では、景気が緩やかな回復基調にあるとの見方を背景に債券価格の上値は抑えられています。ただし、相対的に高い金利や信用力が豪州債券の需要を支え、債券価格は今後も一進一退となりそうです。
為替市場では、経済のけん引役だった資源部門の投資ブームが一服して以降、豪ドルの上値は抑えられやすくなっています。ただし、足元では新興国懸念が一旦収まり、豪ドル円相場も持ち直してきました。また、今後も緩やかな景気回復期待に加え、高めの金利水準、豪ドル建て債券の高い信用力などが下支え材料となり、豪ドルの底堅さは維持されそうです。