【キーワード No.1,345】ECBが初の「マイナス金利」を導入(ユーロ圏)
2014年6月9日
1.「マイナス金利」とは?
「マイナス金利」とは、通常プラスであるはずの金利をマイナスに設定する異例の措置です。預金を例にとると、利子を受け取るのではなく、利子分を支払うか、元本から差し引かれることになります。
欧州中銀(ECB)が5日に決定したのは、一般の銀行が各国中央銀行(以下、中銀)に資金を預け入れる際の金利をマイナスにすることです(従来0.0%⇒▲0.1%)。近年、ECBの悩みの種は、大規模な金融緩和策を実施しているにも関わらず、資金需要が低迷し、結局は余剰資金が中銀へ戻ってくることでした。
2.最近の動向
ECBが「マイナス金利」を導入したことで、銀行は中銀に資金をとどめておきにくくなりました。銀行が中銀へと預けていた預金の総額は、約400億ユーロ(5月末残高、6兆円弱)であり、この一部が貸出に回ることが期待されています。
また、今回は民間向け貸出の残高に応じて、低利・長期間の融資を受けられる措置も発表されました。これも銀行が資金繰りに窮することなく、貸出を増やせるようにする配慮です。

3.今後の展開
「マイナス金利」は、銀行貸出の増加に一定の効果を生みそうです。また、それ以外にも、副次的な効果が想定されます。
一つは、日・米もまだ試したことのない異例の措置を実施することでのアナウンス効果(景気押し上げ要因)です。ドラギ総裁は欧州債務危機の際にも、国債の購入方針を決定(2012年9月)することで、高債務国の金利上昇に歯止めをかけた実績があります。その際、国債購入を実際には実施することなく、安心感の醸成のみで金利を低下させた手腕は、「ドラギ・マジック」と評されました。
もう一つは、大量のユーロが市中に流通することによるユーロの余剰感です。これは為替取引におけるユーロ下押し圧力となる可能性があります。特に、米国の金融政策が正常化へと向かう際には、米欧の対比をより際立たせる(ドル高・ユーロ安要因)ことも想定されます。
「マイナス金利」を含む今回の決定内容の効果は未知数ながら、ECBのデフレ懸念払しょくへの強い意思表示と見られ、市場には一定の安心感を与えたようです。目先では、ユーロの貸出額、為替、物価がどのように反応するかに注目です。