【キーワード No.1,324】政治の混迷が続くタイでインラック首相が失職(アジア)
2014年5月9日
1.タイの政治的混迷とは?
タイでは、2013年11月1日に与党・タイ貢献党が、国外逃亡中のタクシン元首相の帰国に向けた「恩赦法案」を下院で強行採決したことをきっかけに政治の混乱が続いています。野党・民主党を中心とした反政府勢力がバンコクで大規模なデモを開始したことから、同法案は事実上の廃案となりました。しかし反政府勢力は政権打倒と政治改革の実施などに目標を切り替え、デモは拡大しました。反政府デモの拡大を受けてインラック首相は下院の解散を発表し、2月2日に選挙が行われましたが、この選挙についても3月に憲法裁判所で無効と判決されました。その後も、政治改革の必要性と選挙による民主主義の尊重をめぐり、反体制派と体制派の対立は続いています。
2.最近の動向
タイの憲法裁判所は7日、2011年8月にインラック首相が実施した閣僚人事が不当であったとして違憲判決を下しました。今回の判決により、首相と9人の閣僚は即時に失職し、政権から退陣することとなりました。首相の失職を受け、首相代行にはニワットタムロン副首相兼商業相の就任が発表されました。ニワットタムロン氏による内閣は、次回の総選挙が実施されるまで存続する見込みです。
3.今後の展開
2月に実施され無効とされた総選挙のやりなおし選挙は、早くて7月20日に実施される予定ですが、反政府デモの活発化により延期される可能性が指摘されています。また最大野党の民主党は、タクシン体制による権力乱用と汚職の防止などの政治改革の実施を目指しており、民主主義に基づく選挙の実施を目指すタイ貢献党との対立の解消には時間がかかりそうです。選挙が実施された場合には、与党・タイ貢献党の農村基盤を中心とした支持基盤が厚く、同党の優勢が見込まれ、政権交代には至らなさそうです。一方、首相代行となったニワットタムロン氏は次回の総選挙まで政権を担うとされていますが、すでに過去の職務に関する違憲性が指摘されており、発足後の新内閣も不安を抱えています。
タイの株式市場は、内需の減速に際しても、今年初めから堅調に推移しています。政治情勢によってはインフラ整備計画などの遅延も考えられます。しかし、政治情勢の混迷をタイの人々は幾度も経験していることなどから、今回の首相失職による企業活動への影響は限定的と見られます。政治情勢の混迷が長期化し経済への影響が懸念されるものの、外需にも改善が見込まれることなどから、首相の失職による市場への影響も限定的と思われます。