ホームマーケット日々のマーケットレポート成長力と多様性が魅力の新興国株式市場 分散投資先として高まる存在感

成長力と多様性が魅力の新興国株式市場
分散投資先として高まる存在感

2026年6月16日

1.地政学リスクが残る中でも、底堅く推移する新興国株式市場
2.テクノロジーの東アジア、資源と政治改革の中南米などに注目
3.米ドル資産からの分散投資先として高まる存在感

1:地政学リスクが残る中でも、底堅く推移する新興国株式市場

■2025年以降の新興国株式市場は、総じて底堅く推移してきました。2025年1月に米国でトランプ政権が発足して以降、主要貿易相手国に対する関税引き上げを中心とした強硬な通商政策に加え、対外政策をめぐる不透明感の高まりなどを背景に、世界の株式市場では、折に触れて変動率が高まる場面がみられました。こうした環境下で、米ドル資産への集中リスクが意識される局面では、新興国株が分散投資先として再評価されやすい環境にあるとみられます。


■新興国株の推移を振り返ると、2025年後半には、米国と主要貿易相手国との関税交渉が進展する中で、先進国株と比べても堅調な推移を示しました。さらに2026年に入ると、AI・半導体関連を中心とするハイテク株が世界的に選好される中、新興国株は中東情勢の緊迫化を受けて一時的に調整する局面がありましたが、4月の米国とイランとの停戦合意以降、韓国や台湾の主力ハイテク企業が大きくけん引する形で、先進国株を上回る上昇を示しています(図表1)。


■新興国株指数(MSCIエマージング・マーケット指数)の構成国・地域(図表2)の動向をみても、AI・半導体関連企業の成長期待が高まった韓国と台湾の存在感が増していることがうかがえます。世界的なAIブームの恩恵は、米国のハイテク企業にとどまらず、サプライチェーンの中核を担う新興国企業にも波及している点は、重要な視点の一つといえるでしょう。



■新興国株式市場では、総じて良好な投資環境が維持されているとみられます。投資信託を通じた資金フロー(図表3)をみると、中国株を除く新興国株への資金流入は、2026年に入って一段と加速しました。3月以降は、中東情勢の緊迫化を受けて流入ペースが鈍化しているものの、現時点では大幅な資金流出には至っていないようです。一方、中国株については資金流出が目立っていますが、市場では、国内系ファンドによる利益確定売りが一因との見方が指摘されています。


■今後の新興国株式市場を見通す上では、中東情勢の行方が注目されます。特に、ホルムズ海峡の航行正常化が実現し、原油高の圧力が和らぐかが焦点となりそうです。また、米国の利上げ観測が浮上する中、当面は新興国の中でも、エネルギーの輸入依存度、経常収支の安定性、中期的な成長余地などを踏まえた選別が意識されやすい局面となりそうです。


■とはいえ、新興国では先進国を上回る経済成長が見込まれる点は、再評価できる材料と考えられます。弊社では、新興国の実質GDP成長率について、2026年は前年比+3.9%、2027年は同+4.3%と予想しており、先進国との成長率格差は拡大する可能性があるとみています(図表4)。


■このように、短期的には地政学リスクや米金利動向などに留意が必要とみられるものの、中長期的な経済成長余地という観点では、新興国株は有力な投資対象の一つといえそうです。




2:テクノロジーの東アジア、資源と政治改革の中南米などに注目

■一口に「新興国」と言っても、各国・地域の経済構造や成長ドライバーは大きく異なります。ここでは、新興国株式指数の構成比上位や、注目される国・地域について、それぞれの市場特性を整理します。主な新興国の代表的な株価指数(図表5)の年初来の推移をみると、データセンターなどAIインフラ向け半導体需要の拡大を受けて、東アジアの新興国、特に韓国(2025年末比+93%)と台湾(同+52%)の上昇が際立っています。


■ハイテク主導で存在感を高める東アジアでは、台湾と韓国への注目度が高まっています。台湾は、半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)を筆頭に、半導体製造やパッケージング技術で世界をリードしています。韓国では、半導体・AI関連需要の拡大を背景に、半導体メモリ(DRAM、NANDなど)を手掛けるサムスン電子やSKハイニックスの業績が急拡大しており、いずれも半導体サイクルの好転とAIインフラへの投資拡大が追い風になっているとみられます。


■中国・香港についても、中国政府による自国テクノロジー産業の育成策に加え、米中対立の緊張緩和が進めば輸出環境の改善も期待され、ハイテク分野の市場拡大を取り込む余地は大きいと考えられます。

■中期的には、資源高や政治改革の進展が追い風となり得る中南米も注目地域の一つと考えられます。ブラジルは、鉄鉱石、原油、農産物などの資源価格上昇が支援材料になりやすく、世界的なインフレ局面でも相対的に耐性があるとみられます。中銀の利下げ余地が意識される中、2026年10月の大統領選挙の行方も注目されます。


■アルゼンチンでは、ミレイ政権下での財政改革や規制緩和の進展が注目されています。実質GDP成長率は、2023年から2024年にかけて2年連続のマイナス成長となった後、2025年は+4.4%へ急回復しています。代表的な株価指数であるメルバル指数は、6月11日に約5カ月ぶりに史上最高値を更新するなど、投資家の関心が高まりつつあります。


■構造的な成長余地という点では、インドも注目されます。6%を超える実質GDP成長率、14億人を超える世界最大の人口と若い年齢構成、デジタル化の進展などを背景に、内需主導の長期的な成長ストーリーは維持されているとみられます。足元では、中東情勢の悪化を受けたエネルギー供給への懸念や自国通貨のルピー安が株価の重石とみられますが、米国とイランの和平合意が実現に向かえば、中長期的な観点から投資機会として再評価される可能性が高まりそうです。


■新興国市場の株価を支えている要因の一つは、企業業績の拡大とみられます。新興国株の12カ月先予想EPSをみると、2026年に入ってから見通しが大きく改善し、年初来で約40%増加しています。また、新興国株の企業業績見通しが、先進国株を上回るペースで上振れていることがうかがえます(図表6)。AI・半導体関連分野の利益成長が、韓国・台湾を中心に新興国全体のEPS成長を押し上げており、株価上昇を支える原動力になっているとみられます。


■一方、企業業績の急速な拡大が見込まれる中でも、新興国株の12カ月先予想PERは6月12日時点で11.6倍にとどまっており、先進国株の同19.1倍と比べて相対的に割安な水準にあります。「成長力の高さ」と「割安な株価バリュエーション」という投資環境は、中長期的な株価上昇余地の大きさが再認識される材料の一つといえそうです。



  

3:米ドル資産からの分散投資先として高まる存在感

■新興国株の投資魅力は、「成長力の高さ」と「割安な株価バリュエーション」だけではありません。ポートフォリオ全体のリスク・リターンの改善や米ドル資産に対する「分散投資先」としての役割も重要と考えられます。


■過去20年間(2006年6月~2026年5月)の月次リターンでみると、新興国株指数と全世界株指数との相関係数(12カ月移動平均)は、直近(2026年5月)で0.79となり、相関はやや高まっている様子がうかがえます(図表7)。


■ただし、投資対象として注目度が高い全世界株指数の約60%超は米国株が占めており、実態としては米国への依存度が高いポートフォリオになりやすい点には留意が必要でしょう。米国の財政悪化懸念や米ドル離れの動きが意識される局面では、米国一極集中を緩和する分散先として、新興国株が果たす役割への注目度が高まるとみられます。


■2000年以降を振り返ると、米ドル安局面で新興国株の相対リターンが高まりやすい傾向がうかがえます(図表8)。米ドル安は、外貨建て債務負担や資本流出圧力を和らげるほか、輸入インフレの抑制、利下げ余地の拡大、経常収支の改善期待を通じ、新興国株の相対優位を支える要因と考えられます。米ドルの先行きは、米国の金融政策や景気・財政見通しに左右されるとみられますが、当面は中東情勢の緊張緩和が「有事の米ドル買い需要」の後退につながるかが注目されます。



まとめ

■地政学リスクが残る中でも、新興国株式市場はAI・半導体関連株を中心に、総じて底堅く推移しています。先進国を上回る成長力と相対的に割安な株価バリュエーションに加えて、ハイテク需要を取り込む東アジアや、資源高と政治改革の進展に支えられる中南米など、成長ドライバーの多様性も魅力とみられます。過去の米ドル安局面では新興国株が相対的に優位となりやすい傾向もあり、米ドル資産への集中を見直す分散先として、長期的な視点でポートフォリオに組み入れる意義は大きいと考えられます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

シニアマーケットストラテジスト
久髙一也(ひさたか かずや)

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