新たな均衡点に向かう金融市場(吉川レポート)

2021年3月11日

1.成長期待主導の長期金利上昇

2.インフレと金融政策

3.選別色を伴うリスク選好

1.成長期待主導の長期金利上昇

■米10年国債利回りは3月初旬にかけて一時1.6%を上回り、年初から0.6~0.7%上昇しました。米国の2021-22年の成長見通しが上方修正されたことが主因ですが、これには二つの要因があります。第一に、イスラエルなどの事例でワクチンが実際に感染を抑制することが示唆され、ワクチン接種で先行する米英で4-6月以降、経済が正常化するとの期待が高まりました。第二に、バイデン政権の1.9兆ドル規模となる追加コロナ対策が、ほぼ減額されずに実施されることとなりました。民主党が上下両院で多数を占めていることもあり、バイデン政権の最初の2年間の財政政策が想定よりも拡張的になることを示唆していると思われます。


■米10年国債利回りの上昇をインフレ期待(ブレークイーブンインフレ率)と実質金利(10年国債利回り-インフレ期待)に分けると、2013年5月の「テーパータントラム」時の長期金利上昇は米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和縮小が背景だったため、インフレ期待が低下する中、実質金利が大幅に上昇したことによるものでした。今回は景気上振れ(それに伴う緩やかなインフレ率上昇)が主因のため、実質金利(年初来約0.4%)、インフレ期待(同0.2~0.3%)共に上昇したと考えられます。


■金融市場では景気の堅調さを背景に株価や景気と連動する商品価格(原油、銅など)は年初比で上昇、社債や新興国債のスプレッドも引き続き縮小した状態を維持しています。但し、ドルの小幅反発、金価格反落やグロース株の調整・バリュー株の上昇などの変化が起こっており、米成長軌道と米長期金利レンジの上方シフトを反映した新しい均衡点に動きつつあります。

2.インフレと金融政策

■米長期金利上昇が一層のリスク回避につながるとすれば、インフレ加速とFRBの引き締め前倒しとなりますが、そのリスクは限定的と判断されます。


■商品・素材市況の上昇に加え、今後の経済再開に伴う一時的物価上昇(ホテル料金など)も考えられ、米国のインフレ率(個人消費デフレータ、食品・エネルギー除くコア)は年央にかけ一旦2%超に加速するとみられます。しかし、過去10年程度のデータを分析すると原油など「モノ」の価格上昇が「コア」物価全体に与える影響は小さいことが分かります。また、米国の雇用者数は直近(2月)でもコロナ危機直前の水準をなお6%強下回り、労働市場には大きなスラック(需給ギャップ)が残っています。賃金上昇を通じてサービス物価全般の継続的な上昇につながる可能性は低いと思われます。


■また、パウエルFRB議長の発言から判断すると、所得格差の政治的な重要性が高まる中、FRBは単なる雇用増・失業率低下だけでなく、インフレが大幅に加速しない限り、粘り強く金融緩和を続けることで、低所得者層にも雇用回復効果が得られるように意識していると考えられます。政策金利(FFレート)は相当期間、ゼロ近辺(0.00~0.25%)に保たれる公算が大きくなります。景気上振れに伴う長期金利の上昇は容認する姿勢ですが、金融環境が引き締まること(更なる株安や社債スプレッドの拡大)が起こるようであれば、テーパリング開始の時期などについて市場との対話を工夫し、事態の鎮静化を図ることが考えられます。


■欧州中央銀行(ECB)など他の主要中銀とFRBのずれも注目されます。例えばECBはユーロ圏のインフレ率が低位で推移する中で、長期金利上昇に対して警戒感を示し、必要であれば債券購入額を柔軟に変更して金利上昇を抑える姿勢を示しています。米欧金利差拡大を受けて、米債市場への資金流入が増加すれば、米長期金利の上昇をある程度抑制する可能性も考えられます。

3.選別色を伴うリスク選好

■インフレ期待が2.2%前後で推移しているため、米10年国債利回りが1.5~1.6%でも実質ではマイナス0.6~0.7%と、歴史的にはなお低く、利回りが重要な環境は大枠としては続きます。但し、基軸通貨国である米国の長期金利のレンジが上方シフトしたことから、投資対象についてやや選別色を伴うリスク選好が見込まれます。日欧などハードカレンシーを持っている国の株式などは米金利上昇には抵抗力を示すと思われます。新興国は経常収支などファンダメンタルズで選別化されると思われます。

(吉川チーフマクロストラテジスト)

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