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バイデン新政権の経済政策と対中政策

2021年2月3日

1.バイデン大統領は大統領令を矢継ぎ早に発行

2.1.9兆ドルの経済対策は額面通りには実現しない見込み

3.対中政策はトランプ政権同様厳しい態度で臨む方針

1.バイデン大統領は大統領令を矢継ぎ早に発行

■米国の第46代大統領に民主党のジョー・バイデン氏が1月20日、就任しました。バイデン大統領は就任演説で「民主主義が勝利した。米国民、米国を団結させる」と分断の修復を訴えました。


■バイデン大統領は、20日の政権発足初日に、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への復帰や世界保健機関(WHO)脱退の撤回など、トランプ前政権の象徴的な政策を廃止するための大統領令に署名しました。21日以降もさまざまな大統領令に署名し、新たな政策を実行に移しています。


■バイデン大統領は、最優先に取り組むとしていた新型コロナウイルスや経済、雇用、気候変動、人種問題などの分野で、連日で具体的な政策を打ち出しており、トランプ前政権の政策からの転換を強調しました。



ただし、米国の分断の修復は困難で、難しい政策運営が求められている


■ただ、「米国の団結」を訴えながら、一方的に政策を進める手法には共和党から反発が出ているほか、大統領権限による政策転換には人工妊娠中絶など世論を二分する問題も含まれ、一部の市民から抗議の声も上がっています。また、重要な政策の変更は大統領令ではなく議会での議論を経て法律で対応すべきだという指摘もあり、意見の割れる問題で議会での議論を経ずに大統領権限を多用して政策を転換する手法に対し、社会の融和より分断を深めるという批判も出ています。


■米民主党が大統領と上下両院で多数派を確保する「トリプルブルー」となりましたが、バイデン大統領が掲げた米国の分断の修復は容易ではなさそうで、難しい政策運営が求められています。


2.1.9兆ドルの経済対策は額面通りには実現しない見込み

■こうしたなか、市場ではバイデン大統領が就任前に打ち出した1.9兆ドルの追加経済対策に注目が集まっています。この経済対策に対し、共和党は規模縮小と中身の組み替えを求めています。


■バイデン氏は追加経済対策の関連法案を議会で可決するにあたり、まずは、共和党との合意を図るとみられます。この場合、1.9兆ドルの規模が、そのまま実現されることは難しく、バイデン氏は低所得層に支援を絞るなどの修正を行うとみられます。


■共和党との協議が合意に至らない場合は、財政調整措置という特別な方法によって財政支出を増やすことは可能です。ただし、民主党からも大規模な経済対策についての異論があることを踏まえると、この場合でも財政支出の規模は1.9兆ドルに満たず、1兆ドル程度での着地となる可能性があります。しかし、1兆ドル規模の経済対策でも、相当大型であり、2021年の米経済成長率を0.8%ポイント程度押し上げることができるとみています。


■バイデン氏は、今回の追加経済対策を「第1弾」と位置付けており、上下両院合同議会で「第2弾」のより広範な経済回復プランを公表すると述べています。第2弾では、インフラ投資や増税への言及が予想され、2022会計年度(2021年10月1日から2022年9月30日)の実施が見込まれます。市場はこの先、バイデン氏の施策について、期待先行の局面から、時期や規模などを冷静に見極める局面に移行していくと思われます。


■なお、大統領令による権限では実現できない、議会の承認が必要なものとして、税制変更や条約、貿易協定の批准、金融規制やIT規制等があります。


■民主党は下院で多数派を占めているものの、上院では与野党勢力が50対50で拮抗していることに加え、各政策について民主党内も一枚岩とは言い難いことなどから、法人や富裕層への増税や環太平洋経済連携協定(TPP)復帰、大規模な金融規制、IT規制等については、簡単には進まないと思われます。


3.対中政策はトランプ政権同様
  厳しい態度で臨む方針

■バイデン新政権はトランプ前政権からの転換を目指すものの、対中政策については大きな変更はないようです。ポンペオ前国務長官は1月19日、中国政府がウイグル族ら少数民族に対して、強制的な収容を大規模に行っているなどと指摘し、「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定したと発表しました。これについて、ブリンケン国務長官は就任後初めての26日の記者会見で、中国政府は「ジェノサイド」にあたるとの認識を改めて表明し、人権問題には厳しく対応する姿勢を強調しました。


■また、米国務省の報道官は23日、「中国の台湾への軍事圧力が地域の平和と安定を脅かしている」との声明を発表しました。トランプ前政権は台湾との関係強化を進めてきましたが、バイデン新政権もこうした方針を継続する姿勢を示しました。


■さらに、安全保障問題を担当するサリバン大統領補佐官も29日、「ウイグル自治区や香港をめぐる行動、それに台湾への脅威に対して対価を払わせる用意がある」と述べ、中国に強硬な姿勢で臨む考えを示しました。

環境問題などは米中で協力が可能とみられるが、全体的には厳しい対中姿勢が続こう


■一方で、ブリンケン国務長官は、「気候変動は我々が互いの利益のために協力できる分野だ」と述べ、重要課題と位置付ける気候変動問題などでは、中国との協力を模索する考えを示しました。


■バイデン大統領は就任初日以降大統領令などを通じてさまざまな政策を始動させ、政権発足当初からスピード感を持ってトランプ前政権からの大幅な政策転換に取り組んでいます。


■ただし、米国では党派を超えて中国への警戒感が広がるなか、中国に対しては前政権と同様に厳しい態度で臨むとみられます。バイデン新政権の対中政策は、中国と気候変動問題などでは協力を模索するものの、テクノロジーや軍事覇権、人権などの面では、より強硬的なスタンスで中国に対峙する可能性があります。


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