堅調なユーロの持続性

2020年9月2日

1.コロナショック後、上昇するユーロ

2.ユーロ高の3つの要因

3.購買力平価はフェアバリュー、ユーロは底堅い展開が続こう

1.コロナショック後、上昇するユーロ

■新型コロナの感染拡大によるショック後、各国政府の大規模な財政政策や金融緩和が打ち出され、世界経済の底入れが意識される中、外国為替相場でドルや円に対するユーロの強さが目立っています。

■対ドルのユーロ相場は、5月下旬まで節目の1ユーロ=1.10ドルを割り込んでいましたが、6月以降は上昇に転じ、足元まで上昇基調を辿っています。8月31日には、1ユーロ=1.19ドル台まで上昇し、約2年3カ月ぶりのユーロ高・ドル安水準をつけました。対円でも同日、約1年5カ月ぶりの1ユーロ=126円台まで買われました。

■ユーロが堅調な背景には、米国の実質金利が大きくマイナス化したこと、ドル需給の緩和を受けて、ドルが全面安の様相を呈していることがあります。ドル安の裏側で投資資金が流入し、上昇しているのがユーロです。以下で、ユーロ高の要因について深掘りしてみます。

2.ユーロ高の3つの要因

(1)米欧の成長率格差が縮小

■6月以降のユーロ上昇の要因の一つは、成長率格差の解消です。新型コロナで落ち込んだ景気の回復基調を巡り、米国と比べた欧州の出遅れ感が解消しつつあります。8月のドイツIFOの企業景況感指数は4カ月連続で上昇し、市場予想を上回りました。8月のユーロ圏の総合景況感指数も前月から大幅に上昇し、市場予想を上回るなど、欧州の景況感が大きく改善しています。

■欧州連合(EU)各国の首脳が7月に総額7,500億ユーロに上る「欧州復興基金」の創設で合意したことが景況感改善を後押ししたとみられます。EUが新型コロナの感染拡大による欧州経済の下支えに積極的に取り組んでいることで、市場ではユーロ圏の景気が米国よりも堅調に回復するとの期待が広がりました。

■弊社の分析によると、米国と欧州の予想成長率格差はここに来て急縮小し、それまでの大幅なマイナスからほぼ中立に戻しています。

(2)日米欧の政策金利差がほぼなくなり、

    ユーロの経常黒字に市場が着目

■米連邦準備制度理事会(FRB)が新型コロナ対策のためゼロ金利政策に踏み込んだことで、マイナス金利政策を導入済みの日欧との金利差がほとんどなくなった結果、需給要因である経常収支に市場の視点が向いたこともユーロ買いの要因とみられます。

■ユーロ圏は経常黒字の大部分をドイツを中心とする貿易黒字が占めており、恒常的に輸出に伴うユーロ買いが出るため、ユーロ高につながりやすいと考えられます。一方、日本は経常黒字国であるものの、コロナショックを受けて貿易収支が赤字となっていることから輸出企業の円買い需要も大きくなく、積極的な円買いが入りにくいとみられます。

(3)投機筋のユーロ買いが加速

■欧州の景気回復期待や経常収支黒字を材料に、ヘッジファンドなどの投機筋はユーロへの資金流入を拡大しています。米商品先物取引委員会(CFTC)が公表した通貨先物建玉報告をみると、投機筋によるユーロの「ネットポジション」(買いから売りを差し引いた持ち高)は8月25日に21万枚を超え、過去最大を更新しました。米通貨先物市場で、投機筋がドル売りを膨らませ、ユーロの買い持ちを加速させていることがユーロ相場を押し上げたと考えられます。

3.購買力平価はフェアバリュー、ユーロは底堅い展開が続こう

(1)ユーロドルの購買力平価はフェアバリュー

■ユーロの今後を見通す上で、長期的なユーロドルの理論価値を示す購買力平価(PPP)に基づく分析を行いました。

■ユーロ導入(1999年)以来のユーロドルレートの購買力平価(1999年基準)を計算すると、生産者物価ベースで1ユーロ=1.30ドル、消費者物価ベースで1.23ドル、輸出物価ベースで1.19ドルとなりました。購買力平価説が妥当するかどうか(市場レートと購買力平価の間に長期安定的な関係がみられるのか)について、共和分検定という統計的手法の分析結果からみると、少なくとも輸出物価ベースの購買力平価は妥当すると判断されます。つまり、ユーロドルについては輸出物価で測った購買力平価の上下を行ったり来たりし得るメカニズムが働いていることを示唆しています。足元の市場レートは輸出物価ベースの購買力平価に対し、ほぼフェアバリューにあり、過去の動きからすると、ユーロ相場にはまだ上昇余地があるといえそうです。

(2)今後の見通し

■FRBは8月27日、臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、「2%の平均物価目標」への政策指針に変更することを決定しました。ゼロ金利政策が一段と長期化することになり、ドル安地合いの継続が見込まれる中、ユーロが引き続き受け皿として選好されやすい状況は続くとみられます。

■欧州では復興基金が合意されたことで2021年以降の景気見通しが改善していることや、復興基金の合意がEUの長年の懸案だった財政統合へ進むきっかけになるとの期待に加えて、ドイツの貿易黒字を中心に欧州の経常黒字額が大きいこと、購買力平価でみた割高感がないことなど、比較的息の長いテーマがユーロ相場の追い風となりそうです。このためユーロ相場は今後も底堅く推移すると思われます。

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