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コロナ禍により業種・銘柄で明暗、今後は?

2020年8月6日

1.コロナ禍は内需型でディフェンシブ性の高い業種にも深刻な影響

2.コロナ禍で同一業種でも銘柄間で明暗

3.構造改革に取り組む企業に注目、株価への影響は?

新型コロナウイルスの感染は世界各地に拡大し、感染拡大を抑制するため都市のロックダウン、経済活動の自粛、出入国制限などが行われました。その影響により、内外経済は大きな打撃を受けました。コロナ以前の景気後退や金融不安では、外需、景気敏感、金融関連などの株価は大きな影響を受けましたが、今回は外部環境の影響が比較的小さく、業績の安定性が高いとされる内需型でディフェンシブ性の高い業種への影響も甚大で株価の変動も大きくなりました。また同じ外需・内需関連でも業種、業態によって明暗が分かれました。ここではコロナ禍による株価の明暗や、企業が現状を打開するため進める構造改革による今後の株価への影響などをみていきたいと思います。

1.コロナ禍は内需型でディフェンシブ性の高い業種にも深刻な影響

■新型コロナの感染は欧米や新興国など世界各地に拡大し、国内でも営業・外出自粛要請などが行われ、経済活動にも深刻な影響が及びました。これを受け、日経平均株価は3月に16,552.83円まで急落しました。その後、主要国などでの金融緩和・景気対策やコロナワクチンの開発期待などを受けて一時23,000円を上回るなど急速に回復しました。一方業種・銘柄の株価は騰落率の格差が大きく、株価は明暗が分かれる結果となりました。

■今回の特徴として、新型コロナは日常の行動の変容を迫ったため、景気敏感業種などに加えて、景気に左右されにくく業績の安定性が高いとされる内需ディフェンシブと呼ばれる業種も大きな影響を受けたことがあります。ディフェンシブ性が非常に高いとみられたJR東日本が2020年4~6月期の連結決算で最終損益が1,500億円を上回る赤字と四半期で過去最大の赤字になったことなどが典型的な事例です。

■新型コロナの場合、今後の動向があまりにも不透明なため、市場参加者の安全志向が強まりました。業種間の株価に格差のついた背景には、内需関連、外需関連にかかわらず、株価の動きやバリュエーションの高低よりも、新型コロナの悪影響を受けるか否かの観点が重視される動きが加速したことがあります。

■業種別では下落上位業種には空運業、陸運業があります。国内外の人の移動制限や外出自粛などの影響を直接的に受け、売り上げが劇的に減少したことや、航空機、鉄道を抱え、固定費負担が大きいことも影響しました。鉄道各社などは安定した鉄道収入から典型的なディフェンシブ業種で株価の変動も小さい傾向にありますが、大きな下落となりました。

■鉱業、鉄鋼、海運業は典型的な景気敏感株で高ベータ(株価指数と連動性が高い)のため世界の景気悪化や原油価格下落などの影響を受け下落上位業種となりました。不動産株はオフィス市況など現状では影響がほとんど出ていませんが、在宅勤務が定着すれば今後、需要が減少するリスクがあります。また、都市部に集まる農地「生産緑地」の大半で地主に対する税優遇措置が2022年に期限を迎えるため、宅地の供給が増加する可能性があります。こういった懸念から株価は下落しました。

■一方、上昇率上位の情報・通信については、ソフトバンクGが2兆5,000億円の自社株買いを実施する方針を示し、株価が大幅に上昇した特殊要因がありますが、それを差し引いても株価は相対的に堅調でした。コロナ禍の影響からテレワークなどの定着や、通信インフラやそれを支えるクラウドコンピューティングなどの拡大期待などが背景にあります。

■電気機器については自動車向けは低調でしたが5Gやデータセンター向け投資が拡大、東京エレクトロンなど半導体関連がけん引しました。小売業については全体としては上昇率は上位にありますが業態によって大きな差があります。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

2.コロナ禍で同一業種でも銘柄間で明暗

■今回のコロナ禍に伴う株価の動きの中で内需・外需にかかわらず同業種でも業態や企業によって明暗が分かれました。典型的な例として消費関連や電気機器などがあります。

■消費関連では、百貨店、外食などで直接的な影響が出たのに対し、コロナ関連の衛生用品の特需やまとめ買いの効果から郊外型立地の小売りは好調でした。三越伊勢丹HDは2021年3月期の最終損益が600億円の赤字になりそうだと発表しました。新型コロナで4~5月にかけて主要店舗での休業が相次いだ上、再開後も回復が鈍く、ネット販売の割合が低いことも影響しました。

■一方でウエルシアHDはウエイトの高い郊外型店中心にマスクなどを求めて来店者が増え、客層も広がりました。ドラッグストアは粗利益率が4割超にもなる医薬品、3割前後とされる化粧品での利益を原資に、圧倒的な価格競争力で、消費者のひき付けに成功しました。ニトリHDはウエイトの高い郊外型店中心に在宅時間の増加を受けて収納用品や、在宅勤務用の机や椅子の需要を取り込みました。政府の定額給付金効果もあり高価格帯の家具販売などが拡大しました。

■外需関連では、自動車が、中国を除くと需要の回復感に乏しく、半導体・IT関連、設備投資関連、自動車関連の売り上げウエイトによって株価が明暗を分けました。半導体・IT関連の東京エレクトロン、ソニーが株価騰落率の上位となり、設備投資関連のファナック、自動車関連のトヨタ自動車、デンソーが騰落率の下位となりました。キヤノンは2020年4~6月期の連結最終損益は88億円の赤字となりました。四半期の赤字は初めてとなります。キヤノンの主要製品である事務機器はペーパーレス化、デジカメはスマホ普及で市場が縮小傾向にありましたが、新型コロナ禍が両セグメントの需要減少に拍車をかけ、医療機器などで補えませんでした。同社は業績と株価の安定性が高いとみられており、赤字を記録したことは市場参加者に驚きを与えました。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

3.構造改革に取り組む企業に注目、株価への影響は?

■現在2020年4~6月期の決算の発表が続いていますが、創業以来初めて赤字、あるいは大幅な最終赤字となるような企業もあります。新型コロナは競争環境をがらりと変え、例えば多くの顧客を店舗に呼び込むことで利益を上げる仕組みなども通用しなくなります。過去の事例を振り返るとリーマンショックなど企業の存続に影響を与えかねない外部要因の激変があった時には踏み込んだ構造改革が進みました。今回新型コロナの収束が見通せない中、企業はビジネスモデルの転換など抜本的な構造改革に取り組み始めました。例えば日本製鉄でみると資産圧縮と同時に、生産体制の抜本的な見直しに向け、瀬戸内製鉄所呉地区の閉鎖や関西製鉄所和歌山地区の高炉1基の休止を決定しました。またアパレル、外食、造船などでは業界再編の動きが強まりそうです。

■新型コロナは不透明感があまりにも強いため、市場参加者の安全志向が特に強まり、コロナの影響を受けた業種や企業は敬遠され、極めて株価は低水準にあります。日本製鉄でみると株価もQUICKでデータがわかる1974年以降の最安値圏にあり、PBR(株価純資産倍率)も0.35倍程度にすぎません。

■過去にも厳しい外的ショックを受け、構造改善が進み、その後株価が急上昇したことも少なくありません。現在株価が高評価の銘柄以外でもコロナ禍を契機にビジネスモデルの転換など構造改革に成功する企業もあるとみられ、構造改革や業界再編により、収益力を改善していく企業の株価にも注目していく必要があると思われます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

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