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ウィズコロナの新興国市場の動向

2020年6月24日

1.新興国の株式・通貨は大幅下落の後、やや反発

2.世界的な金融緩和環境vs.新興国リスク+コロナリスクの綱引きに

3.変動性高く、先行きの見極めは難しい

1.新興国の株式・通貨は大幅下落の後、やや反発

■2020年1月下旬、中国の武漢市が新型コロナウイルスにより都市封鎖された当初は地域的な流行が予想されていました。しかし、その後感染は欧州各国や米国でも拡大し、世界中に甚大な被害を及ぼしました。6月現在、中国や先進国の多くでは感染拡大のペースが鈍化している一方、中南米やアフリカ、一部のアジア等の新興国では感染拡大が続いています。ブラジルは4月の感染拡大から5月以降、そのペースが早まり、米国に次ぐ世界第2位の感染国となっています。この間、新型コロナウイルスの影響で世界の金融市場は大きく変動しました。新興国市場も同様の動きとなりましたが、以下ではその動向を振り返り、今後の見通しを検討します。

■新興国株式は、2020年の2月までは総じて小動きでしたが、3月は新型コロナウイルスの影響からリスク回避の動きが強まり、世界的にリスク資産が売られる中で大きく下落しました。3月下旬以降は各国の大規模な財政政策や過去に例のない積極的な金融緩和を好感し反発しましたが、感染拡大が収まる気配が見られない国が多く、感染の鈍化が見られる 先進国に比べ反発は弱いものとなっています。

■新興国通貨も同様に年初から4月までは総じて大幅に下落しました。3月は米ドル需要が強まり、いくつかの新興国通貨が対米ドルで最安値を更新しました。株価や原油価格の急落により、リスク回避の姿勢を強めた投資家が、保有資産の現金化を進め、現金通貨として米ドルを選好したことが背景です。ただし、3月半ば以降、米連邦準備制度理事会(FRB)や日銀など主要中銀が米ドルの資金供給策を導入した他、大幅な利下げや大規模な量的緩和、信用供給などを行いました。そのため米ドル需要に起因する米ドル高局面は終息し、新興国通貨の多くが徐々に反発に転じました。

■ただし、感染拡大の新たな震源地となっている中南米諸国や医療体制の脆弱さなどが懸念されているアフリカでは、ブラジルレアルや南アフリカランドなどに代表されるように通貨は足元で弱い動きとなっています。

■新興国債券の利回りはまちまちの動きなっています。2019年末に比べ、トルコ、メキシコ、インドは利回りが低下した一方で南アフリカとブラジルは上昇しました。3月は金融市場の動揺を受けて新興国債券が売られ利回りが上昇したものの、各国中銀の金融政策等を受けて市場は徐々に落ち着きを取り戻し、中国や先進国でのロックダウン解除に向けた経済再開への期待が広がった5月後半以降は、ワクチン開発への期待などもあり、総じて利回りは低下してきています。一部の新興国では新型コロナウイルスの悪影響が決定打となり、国債の格付けが引き下げられました。3月には更なる財政赤字の拡大が予想された南アフリカが、4月にかけては原油急落の影響を受けたメキシコの格付けが引き下げられました。ただしメキシコについては、見通しが安定的であることから投資不適格級となる懸念は小さいとみられます。

■現在の新興国債券のトピックスとしては、新興国も中央銀行が国債を購入するいわゆる量的緩和を幅広く開始したことがあげられます。量的金融緩和は、先進国ではよく見られるものとなっていますが、新興国ではこれまでほとんど実施されていませんでした。これは、財政と金融が連動することによって財政規律が損なわれたと市場が判断した場合、該当国の通貨や資産が大きく売られるリスクがあるためです。今のところ、基軸通貨国の米国の大規模金融緩和もあり、そう言った動きにはなっていませんが、新興国市場は投資家の見方が大きく変動しやすいため、注意が必要とみられます。

2.世界的な金融緩和環境vs.新興国リスク+コロナリスクの綱引きに

■感染拡大防止のため各国は大規模で厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施せざるをえなかったことから、世界の経済活動は過去に例を見ないほど大きく減速しています。また、まだワクチンが開発中であることや、今後も感染の第2波、第3波が予想されることから、経済活動がコロナ禍前の状況に戻る目途は立っていません。各国中銀は、経済活動を支えるため金融緩和政策を実施し、金融市場は歴史的かつ世界的な金融緩和環境となっており、この状況は相応の期間続くとみられています。

■通常、金融緩和環境はよりリスクの高い資産にとって追い風となります。感染拡大の落ち着きが見られた先進国では資金がリスク資産に戻ってきています。一方で、新興国への資金流入は一様ではない模様です。世界の投資信託の資金フローデータを提供しているEPFRグローバル社によると、4月以降、新興国債券投信には資金が流入し始めていますが、新興国株式ファンドからは依然として資金が流出しています。投資家は、世界的な金融緩和と各国の財政状況や中央銀行の介入は評価していると考えられますが、新興国経済が回復過程に入っているとは強く考えていないとみられます。

■世界的な金融緩和環境を背景に利回りを求める動きが徐々に回復してきています。しかし今後も感染再拡大の懸念は払しょくされないまま経済活動が再開されていく中で、先進国に比べリスクが高い新興国の資産には資金が向かいにくいと考えられます。

3.変動性高く、先行きの見極めは難しい

■ウィズコロナの金融市場で低金利が続くとみられる中、新興国の相対的に高い利回りや、過去から見て低水準にある通貨は魅力が高いと言えます。一方で、市場の変動性が高いことが予想され、高いリターンが見込まれながらも通常よりも大きく下落するリスクも高いと考えられます。また、感染動向は予測が難しく、これまでに例のない環境による経済への影響が懸念されるため、投資家の安全志向が高まる場合は新興国資産にとって逆風となる局面もあると思われます。そのため、当面、新興国資産への投資には、各国のリスクの比較選別と「もうはまだなり、まだはもうなり」の慎重な姿勢が肝要とみられます。

■より細かく見ると、新興国の中でもコロナ対策が徹底されて新規感染を大きく抑え込めている国とそうでない国とに分けることができます。コロナの感染拡大が直ちに経済のロックダウン等につながる訳ではありませんが、経済活動の制約になるため、感染拡大が続けば他国よりも経済パフォーマンスが劣る可能性が高いと考えられます。一方、新型コロナの感染を抑制できている代表例としては中国、台湾、ベトナム、タイなどをあげることができます。これらの国々では、他の新興国と比べて相対的に安定性の高い金融市場の動向になることが期待できます。 

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