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吉川レポート:新型肺炎リスク vs. 流動性・低金利

2020年2月5日

1.新型肺炎が新たなリスクとして浮上

2.流動性・低金利がクッションに

3.注目しておくべき市場変動要因

1.新型肺炎が新たなリスクとして浮上

■2019年末以降、景気循環以外の要因が市場の大きな変動要因になっています。米国とイランの軍事衝突の懸念を受けたリスクオフ局面が短期間で一旦小康状態に転じた後、米中第一段階部分合意署名(1月15日)により、金融市場ではリスクオンの傾向が強まりました。しかし、1月下旬以降、中国湖北省を中心にコロナウイルスによる新型肺炎が拡大し、新たなリスクファクターとして浮上しました。

■新型肺炎については19年12月初(8日)から報じられ、12月31日に世界保健機関(WHO)に報告されました。当初感染は限定的とされましたが、1月下旬以降感染者数が急増しました。中国政府の公表では中国時間1月29日時点で中国国内の累計感染者数が7,711人と2002~2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)時を既に上回っています。中国の旅客移動が2002~2003年と比べはるかに活発化していること、潜伏期でも他者に感染することなどから、感染者数の規模はSARSより明らかに多いと考えられます。

■一方で1カ月前後を要したとはいえ、中国政府が大規模な移動制限(1月23日:武漢の交通の制限、1月27日:団体の海外渡航停止)を実施したこと等から、中国外での感染は初期段階では限定的(172人、ジョンズホプキンス大学集計の日本時間1月30日11時時点での世界の感染総数から7,711人を差し引いた試算)であることが特徴です。

経済への影響評価

■海外での感染が限られているため、経済に与える影響として当面は、(1)中国からの海外旅行客減少と、(2)中国国内の消費の抑制(外出抑制や移動制限・サービス業の営業自粛による)が主になります。

■国連世界観光機関などのデータから試算すると、春節期間中の中国からの海外旅行客がゼロになった場合の直接の影響は、115.8億ドル(1.26兆円)、影響が長引いて1四半期分(1-3月期)中国人旅客が減った場合は789億ドル(8.6兆円)となります。地域・業界によりますが世界のGDP(80兆米ドル強)と比べると限定的で、世界成長率への影響は春節期間中の旅客に絞れば▲0.02%、1四半期分でも▲0.11%となります。これに対し中国国内の消費減の影響は相対的に大きく、中国の消費が5%程度減少すると仮定、国際産業連関表で試算すると、世界GDPを0.25%押し下げます。

■二つを合わせると、世界経済への影響は▲0.2-▲0.3%と推定されます。但し、消費減少に対し中国政府が5.5-6.0%程度の成長を達成するため財政面から一定の措置をとる可能性があります。その場合、世界経済は1-3月期に一旦停滞色を強めた後、4-6月期以降、事態の収束や中国の対策の効果から1-3月期の成長下振れ分をある程度取り戻す動きになるとみられます。

■以上を超えて影響が大きくなるリスクは二つあります。第一は海外の感染が拡大、中国以外でも旅行やサービス消費(外食、娯楽など)を抑制する動きが広がる場合です。当事国である中国ほど厳しい影響とはならないまでも、例えば世界消費が1%減少すると世界経済は▲0.3%程度追加的に悪化します。

■もう一つは流行の終息が遅れ、中国の移動制限・工場休止が長期化、部品供給などが在庫ではカバーできなくなり、サプライチェーンが混乱する場合です。これらが重なれば世界のGDP成長率への悪影響は▲0.5-▲0.6%、ないしそれを上回り、景気が持ち直すタイミングも年央以降にずれるかもしれません。

2.流動性・低金利がクッションに

■但し、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)は共に1月の会合で低インフレを意識し、現行の緩和策の長期継続を示唆しており、世界経済・金融市場は潤沢な流動性と長期金利低下がマイナスのショックを吸収する構図です。

■今後については予断を許しませんが、医療・公衆衛生の改善、移動制限などを考えると、海外の感染拡大やサプライチェーン問題は仮に起こっても規模は限定的に止まる展開をメインケースとしつつ事態を見守ることになります。メインケースの場合、金融市場は一旦0.2-0.3%の世界経済減速を警戒した動き(0.2%程度の米長期金利の低下と2-3%の株価低下で吸収か)となった後、経済持ち直しと低金利を受けて、再度リスク資産の価格が回復に向かうというパターンになるとみられます。

3.注目しておくべき市場変動要因

■2月の金融市場にとって第一の不透明要因は既に述べた点ですが、コロナウイルスによる新型肺炎の感染拡大状況や持続性です。(1)中国以外の二次・三次感染の規模、(2)2月上旬以降(中国政府が移動制限措置をとり始めた1月下旬を起点に潜伏期間とされる2週間が経過する時期)に、新規の感染発生がピークアウトし始めるかが、問題の規模・持続性を考える鍵になります。

■また、経済・金融への具体的な影響として四点が注目されます。第一は企業・消費者心理への影響であり、各国の景況感指標(PMI、消費者心理指数など)がどの程度変化するかです。第二にクレジット市場です。世界的に流動性が潤沢なため大きな混乱は避けられるとみられますが、原油価格の下落などが低格付け企業・国が発効する債券の価格にどの程度影響するか注意を払う必要があります。第三は先にも述べましたが、中国における生産・輸送停止による部品調達難などがどの程度顕在化するかです。第四に米政局が注目されるとみられます。米大統領選挙の民主党予備選も始まります。アイオワ(2月3日)、ニューハンプシャー(同11日)で左派候補、特にサンダース氏が健闘すると、市場の変動要因となる可能性があります。

■この他、1月15日に調印された米中の第一段階部分合意に含まれる中国の輸入増が、米国以外の対中輸出に与える影響(中国が米国から買う代わりに、他国からの輸入を減らす場合など)についての議論は年央にかけて重要です。原油価格は新型肺炎問題で下落していますが、中東地域の政治情勢は依然不安定であり、供給懸念が再燃することはあり得ます。米国と欧州の通商摩擦についてもフォローは継続する必要があります。

■新型肺炎の規模や継続性が予想よりも拡大・延長した場合は、FRBなどの金融緩和とその為替へのインパクトが改めてテーマになる可能性もあるでしょう。

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