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株式ファンドへ徐々に資金が流入すると予想

2019年12月17日

1.2020年の米長期金利は緩やかな上昇だが低水準での推移を予想

2.米長期金利上昇局面でも、「債券」への資金流入は継続

3.「債券」は「米国」の「中期債」中心、「株式」へも資金が流入すると予想

1.2020年の米長期金利は緩やかな上昇だが低水準での推移を予想

■2020年の世界経済は緩やかな回復が期待される中、米国景気も下げ止まり、持ち直す可能性が高まっています。2019年11月の米供給管理協会(ISM)指数は、製造業が48.1と10月の48.3から小幅に下落しました。これは、GMストの余韻や737マックス(ボーイング)の減産などの要因による可能性もあり、基調として低下に向かう可能性は低いと見られます。今後は、(1)米中懸念が改善方向にある、(2)自動車の減産圧力がグローバル的に縮小してきている、(3)半導体関連に持ち直しの機運が高まっている、(4)米国の在庫調整が一巡しつつある、などを踏まえると、2020年の生産活動の方向性は上向きと予想されます。グローバル的に目立った需要のけん引役が不在であるため力強さには欠ける可能性がありますが、2020年の米国景気は上向きの軌道を描くと考えられます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

■今後の景気回復には、金融環境の安定が継続するかが鍵と言えます。米連邦準備制度理事会(FRB)は3回の利下げを実施し、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では現行の金融政策の維持を決定しました。今後については、低インフレが続くと見られるため、2020年にかけて低金利を維持すると予想されます。

■今後、景気が回復に向かえば、米長期金利のレンジもやや上方に修正されると思われます。ただ、米国をはじめ主要な中銀のバランスシートが再び拡大し始めていること、インフレ期待が低位で安定していること、欧州の実質金利がなお非常に低く、米国などへの資金流入が予想されること、などから、米長期金利の上昇は緩やかで、限定的と考えられ、低水準での推移が続くと予想されます。弊社は、2020年の米国長期金利を1-6月は上限2.2%、下限1.6%、着地1.9%、7-12月は上限2.3%、下限1.7%、着地2.0%と想定しています。

2.米長期金利上昇局面別にみた投信フローの特徴~「債券」への資金流入は継続

■さて、米長期金利の上昇局面での「債券」への投信フローはどうなると考えられるでしょうか。ここでは、リーマン・ショック(*1)を含み、現在までの米長期金利の推移から、持続的に長期金利が上昇した局面を3つに絞り、投信マネーの流れについて整理しようと思います。局面は、(1)リーマン・ショック後の金利上昇局面(2008年12月~2009年12月)、(2)欧州債務危機からの回復とバーナンキ・ショック(*2)(2012年7月~2013年12月)、(3)英国の欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)選択による欧州金利上昇と米大統領選挙、その後の景気拡大を背景とした金融緩和の解除(2016年7月~2017年1月、2017年9月~2018年10月)、です。

(*1)リーマン・ショック:2008年9月15日に、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻。連鎖的に世界規模の金融危機が発生した。

(*2)バーナンキ・ショック:2013年5-6月に、当時のベン・バーナンキFRB議長が量的緩和(QE)の縮小を示唆したことで世界の金融市場で混乱が発生した。

局面(1):「米国」の「短期債」と「新興国株式」に流入

■局面(1)では、リーマン・ショック後に、急激にMMFに資金が流入しました。2008年12月を底に米長期金利が上昇する過程で株式ファンドや債券ファンドに資金が流入しましたが、MMFの流出分を吸収できていません。そうした中、「先進国債券」と「新興国株式」に資金が流入しました。「先進国債券」はそのほとんどが「米国」の「短期債」を中心としたファンドです。なお、金利上昇局面の後期には「中期債」にも資金が流入しました。

■一方、株式ファンドは「先進国株式」にはほとんど資金が流入せず、新興国全般に投資する「GEMファンド」に資金が流入しました。(GEM:Global Emerging Markets)

局面(2):債券ファンドから株式ファンドへのグレート・ローテーション

■局面(2)では、米国景気の回復や量的緩和(QE)第3弾の縮小に対する懸念などから米長期金利が上昇しました。投信フローを見ると、MMFへはほとんど資金が流入しませんでした。2013年6-7月以降は、景気の拡大期待と量的緩和縮小の思惑から、リスク・オンとなり、株式ファンドへの資金流入が債券ファンドを上回る、いわゆるグレート・ローテーションが起こりました。

■株式ファンドへの資金流入の中心は「先進国株式」です。「新興国株式」、「先進国債券」、「新興国債券」の各ファンドは緩やかな資金流出となりました。ただ、先進国債券ファンドのうち「米国」を期間別にみると、QE3縮小に対する懸念が強まる中でも、「短期債」を中心とした債券ファンドへの資金流入が確認されました。

局面(3):債券ファンドは「米国」の「中・短期債」中心

■局面(3)は、2016年7月から2017年1月までの金利上昇局面では、株式ファンドが流出、債券ファンド(うち「米国」)が「中期債」を中心に流入しました。その後、2017年2月から8月までは米長期金利が低下する局面で、株式ファンド、債券ファンドに資金が流入しました。

■2017年9月以降2018年10月までの金利上昇局面では、前半、株式ファンド、債券ファンド、MMFへ資金が流入しましたが、後半は概ね資金の流入が鈍化しました。同期間は、米国景気は底堅く推移する中、FRBが利上げする局面でした。こうした中でも「米国」の「中・短期債」への流入が継続しました。

過去の米長期金利上昇局面の整理

■過去の米長期金利上昇局面での投信フローをまとめると以下の点が指摘できます。

■MMFは、米長期金利の上昇初期は流入が確認されますが、時間をおいて流入が減少、あるいは流出が増加する傾向があります。

■株式ファンドは、時間をおいて流入傾向を強めます。ただ、局面(3)のように、景気に対する不透明感の強まりが懸念される局面では、流入は鈍化します。また、「先進国株式」と「新興国株式」別に見ると、リーマン・ショック後の局面(1)では「新興国株式」、欧州債務危機からの回復局面(2)では「先進国株式」、Brexit選択・米国大統選挙後の回復局面(3)では「先進国株式」、「新興国株式」ともに流入となるなど、そのパターンは同様ではありませんでした。

■債券ファンドは、いずれの局面でも総じて流入傾向となりました。また、金利上昇局面の後半になるにつれ、流入ピッチが鈍化する傾向も読み取れます。こうした中、中心となる「米国」を期間別に見ると、「短期債」や「中期債」に投資する債券ファンドへの流入が続いていました。債券ファンドは、長期金利の上昇局面でも、期間の短い債券へとシフトしながら流入傾向が続きました。

3.債券は「米国」の「中期債」中心、「株式」へも資金が徐々に流入すると予想

■足元では、MMFへの大量流入の継続、債券ファンドへの流入継続、株式ファンドへの流入の兆し、といった傾向が確認されます。

■過去、米国の長期金利が上昇する局面では、MMFが時間の経過とともに、次第に流入が減速・縮小しました。今回はまだ長期金利の水準が修正される過程であり、金利上昇局面への転換とは言い切れないものの、世界景気の見通しに明るさが増し始めていること、米中貿易摩擦は第1弾の合意が発表されていることなどから、MMFに滞留した資金はいずれ他の資産へ流れると予想されます。

■資金流入の中心である米国債券ファンドは、「長期債」への流入が相対的に抑えられ、「短期債」と「中期債」に資金が流入しています。特に「中期債」は流入に拍車がかかっています。これは、足元の景気は明るさを増しつつあり、長期金利が低水準で推移する中、緩やかながらも水準が修正される可能性を視野に入れているためと考えられます。米国債券ファンドは、過去の金利上昇局面でも、特に「中期債」や「短期債」など期間の短い債券にシフトしながら流入傾向を続けました。今回の景気回復局面では、米国の利上げが当面想定されないことから、米国債券ファンドは引き続き「中期債」を中心として資金流入が続く可能性が高いと思われます。

■株式ファンドへの資金流入は、世界景気の持続的な回復に対する期待の高まりから、次第に流入額が増加すると考えられます。過去の米長期金利上昇局面では、回復に対する期待が高まる中で、徐々に資金が株式ファンドに流入しました。

■2020年は、米長期金利の上昇も抑制的なものになると見られるほか、景気の回復にしたがって企業業績の改善が進むと期待され、株式ファンドへ資金が流れやすい環境となりそうです。

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