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中長期的に上昇が見込まれる人民元

2019年11月26日

1.人民元は米中協議の前進で戻り歩調

2.中長期的には元高要因が多い

3.米中協議の行方に左右されるが、中長期的には緩やかな元高を予想

1.人民元は米中協議の前進で戻り歩調

■人民元の対米ドル相場は25日、1ドル=7.0364元で引けました。人民元は米中通商協議の前進で戻り歩調にありましたが、このところやや弱含んでいます。米中協議に対する先行き不透明感が高まったことや、米議会が「香港人権・民主主義法案」を可決し、米中関係の悪化が懸念されたことが背景です。

■人民元は8月、トランプ大統領が第4弾の制裁関税を示唆したことを契機に、それまで「心理的な防衛ライン」とされていた1ドル=7元を割り込み、約11年ぶりの安値水準に下落しました。市場では当時、米中対立が激化し、習近平指導部が元安容認に動いたとみられていました。米国は中国を為替操作国に指定し、人民元は9月には一時7.17元台まで下落しました。しかし、10月に米中閣僚級会議が行われ、暫定的な部分合意に至ったことで、米中の対立が緩和に向かうとの見方から反発し、元高・ドル安が進みました。11月上旬には米中貿易交渉が前進するとの期待から人民元を買う動きが強まり、約3カ月ぶりに6元台を回復する局面もありました。その後は、米中協議の進展期待がやや後退し、再び7.0元台に押し戻されています。

■以上のように、最近の人民元は、主に米中通商協議の進展への期待や失望により、変動しています。そこで今回は、より中長期的な視点から人民元の動向について考えてみます。

2.中長期的には元高要因が多い

■以下の通り、中長期的には、購買力平価、経常黒字、債券を通じた資本流入の増加、人民元の国際化・外貨準備への組み入れなど、人民元の上昇につながる要因が多いと考えられます。

購買力平価

■2010年6月21日の人民元ペッグ解除時を起点とした購買力平価(PPP)を生産者物価や消費者物価によって試算すると、生産者物価ベースのPPPは、1ドル=6.3~6.4元、消費者物価ベースのPPPは1ドル=7.2~7.3元となりました。

■PPPの試算からは、1ドル=6.3~7.3元が理論値として示唆されます。人民元は生産者物価ベースのPPPに過去比較的トラックしていました。足元はやや乖離していますが、消費者物価ベースのPPPが人民元の下限の目途となる可能性があります。

経常黒字の拡大

■最近の中国の経常収支黒字は2015年をピークに2018年にかけて減少傾向にありましたが、2019年に入り黒字基調が拡大しています。

■米国以外を中心に輸出が底堅いほか、景気減速を反映して輸入が下振れしたことから貿易収支黒字が拡大したことと、景気減速および人民元安を反映して旅行収支赤字の拡大に歯止めがかかったことが、経常収支黒字が拡大している要因です。

資本フローの動向

■中国が人民元建て債券市場の対外開放を進めるなか、中国国債のグローバル国債指数への採用や、ウェイト引き上げの動きがみられます。今後、海外投資家による中国国債の購入が増加し、債券投資はネットで流入が拡大する方向と考えられます。海外からの資金流入により人民元の需要が高まると思われます。

■金融機関を中心とする短期資金の動きを示す「その他投資」を通じた資本移動をみると、米金利先高観が後退したことをうけ、2019年1-3月期は流入となりました。2015~2016年のチャイナショック時とは異なり、中国からの資金流出圧力は限定的になっています。中国当局が管理強化に努めていることから、当時のような資金流出は示現しないとみられます。

外貨準備高

■世界の外貨準備高における人民元の比率は2016年が1.0%でしたが、徐々に上昇してきており、2019年3月は2.0%になっています。今後、中国が人民元決済の推進など段階的に通貨の国際化を進めてゆくとみられる一方、グローバルにドルの比率を下げる傾向がみられはじめていることなどを考えると、外貨準備高における人民元の比率は上昇傾向をたどる可能性が高いと思われます。

3.米中協議の行方に影響を受けるが、中長期的には緩やかな元高を予想

■米中貿易摩擦の激化により一時高まった人民元の先安観は米中協議の進展によって後退し、人民元は落ち着きつつあります。今後も、短期的には米中協議の行方や香港情勢などに左右されるものの、米国の金融政策が緩和に転じたこともあり、現状からの下落余地は限定的と考えられます。

■米連邦準備制度理事会(FRB)は、今年7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で2008年12月以来となる利下げを実施し、金融政策を緩和に転換しました。その後も追加利下げが行われたことで、10月以降米ドル高の流れに歯止めがかかりました。米ドル高がピークアウトしたとの見方に立てば、人民元の対米ドルレートには上昇余地があるといえそうです。

■中長期的には、購買力平価や中国の国際収支改善(輸入減・旅行収支悪化に歯止め)、海外からの中国債券への投資意欲拡大等を背景に、人民元の対米ドルレートは緩やかに上昇すると予想します。

■また、米中双方とも、政策的に一段の人民元安を望むことはなさそうです。米国は中国を為替操作国と認定し、人民元安に警戒感を示しています。一方、中国も人民元安に伴う大規模な資金流出を恐れているとみられるため、過度な元安期待が高まらないように通貨安定重視の姿勢を維持すると考えられます。

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