ここ数年、日本の個人投資家による米国株投資が急増しているといわれています。特に、2024年に制度が改正されたNISA(少額投資非課税制度)を活用して、米国株式を投資対象とする投資信託から始める投資初心者も少なくないようです。なぜ今、米国株がここまで注目されているのでしょうか?米国株投信の基本やその魅力についてご紹介します。
米国株式とは、米国の証券取引所に上場している株式を指します。日本には、東京証券取引所(東証)などといった証券取引所があり、大小さまざまな企業が上場し、その株式を投資家が売買しています。同様に、米国にもニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)といった証券取引所があり、世界中の投資家がこれらの市場に上場する企業の株式を日々売買しています。
ニューヨーク証券取引所は時価総額で世界最大の証券取引所で、ウォルマートやビザ、ウォルト・ディズニーなど日本でもおなじみの有名企業がたくさん上場しています。一方、ナスダックはITやハイテク関連のベンチャー企業などが数多く上場している新興企業向けの株式市場で、「マグニフィセント・セブン」(アルファベット、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドットコム、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ)と呼ばれる現在では巨大企業へと成長した企業なども上場しています。
日本では、「日経平均株価」や「TOPIX(東証株価指数)」が代表的な株価指数として日々のニュースなどで取り上げられますが、米国の株価指数には、代表的なものとして「ダウ・ジョーンズ工業株価平均(NYダウ)」、「ナスダック総合指数」、「S&P500」などがあります。
米国株式の代表的な指数
NYダウは主に米国を代表する主要な30銘柄で構成されているのに対し、S&P500はさまざまな業種の中で時価総額が大きい約500銘柄で構成され、米国株式市場全体の時価総額の約8割をカバーしています。ナスダック総合指数は、ハイテク企業などを中心としたナスダック市場に上場するすべての銘柄で構成されています。
ここまでご紹介した米国の株式市場に上場する企業に投資するためには、米国の個別株に直接投資するほかにも投資信託を活用する方法があります。まずは、米国株の魅力をご紹介したうえで、米国株を投資対象とする投資信託(以下、米国株投信)のメリットや魅力を解説していきましょう。
基本的に、株価は企業の成長を反映して動きますが、米国株の魅力はなんといっても成長性にあります。もちろん、成長の度合いは企業によって異なりますが、冒頭で紹介した「マグニフィセント・セブン」をはじめ米国株の中には、驚くような成長と株価の上昇を実現した銘柄がたくさん存在しています。
たくさんの成長企業が存在する米国株市場は、それら企業の成長に合わせて株価も上昇しています。前述した「NYダウ」「ナスダック総合指数」「S&P500」は、2024年に、史上最高値が更新されています。今後も、これまでのような成長と株価の上昇が約束されているわけではありませんが、これまでにも「リーマンショック」や「コロナショック」など、さまざまなショックを乗り越えて企業は成長、米国株は上昇してきました。
また、過去を振り返ってみても革新的な技術やビジネスモデルの多くを生み出してきたのが米国であり、イノベーションが米国経済の成長源と言っても過言ではありません。
下の表は、米国の主要株価指数の過去35年間の上昇率を示したものです。
●主要株価指数の比較
1989年末 | 2024年末 | 上昇率 | |
---|---|---|---|
NYダウ | 2,753.20ドル | 4万2,544.22ドル | 約1,445% |
ナスダック総合指数 | 454.82ポイント | 1万9,310.79ポイント | 約4,146% |
S&P500 | 353.40ポイント | 5,881.63ポイント | 約1,564% |
株式投資の魅力は、株価の値上がり益(キャピタルゲイン)だけではありません。株主であれば受け取ることができる配当金(インカムゲイン)も長期投資家にとっては大きな魅力です。米国では配当を重視する傾向があり、配当金の支払いを年に4回実施している企業も少なくありません(日本の上場企業の多くは年に1回もしくは2回)。さらには、長年に渡って配当を増やし続けている企業も存在します。長期間に渡って配当を受け取り続けることで、株価の上昇と配当のメリット双方を享受できる可能性もあります。
たくさんの魅力をもった米国株ですが、投資信託を活用すれば少額から複数の魅力的な銘柄に投資することができます。そもそも投資信託とは、投資家から集めたお金をプロが運用し、その投資成果を投資家に還元する金融商品のことです。投資対象は国内外の株式、債券などさまざまですが、ここでは米国株式を投資対象とした投資信託に絞って話を進めていきましょう。
さて、米国株に投資する投資信託ですが、その種類は迷ってしまうほど数多くあります。まずは、基本的な投資信託の分類として、インデックス型とアクティブ型があることを理解しましょう。
インデックス型とは、株価指数に運用成績が連動することを目指すように設計された投資信託を指します。米国では「NYダウ」「ナスダック総合指数」「S&P500」などの株価指数があります。たとえば、S&P500に連動する投資信託の場合には、S&P500を構成する約500銘柄に分散して投資します。一般的にインデックス型の投資信託はアクティブ型に比べてコストが低く設定されています。
前述した各市場の特徴を参考に、自分の投資スタンスにあったインデックス型を選んでみましょう。米国を代表する大企業に投資したいのであればNYダウ、米国株式市場全体の値動きを目指すのであればS&P500、ハイテクなどの新興市場に期待するならナスダック総合指数といった指数にそれぞれ連動を目指す投資信託が候補となります。
インデックス型が特定の指数に連動する成果を目指すのに対し、アクティブ型は指数を上回るパフォーマンスを目指します。アクティブ型では、運用のプロであるファンドマネージャーが銘柄を選定します。銘柄の調査や分析などといったコストがかかるため、一般的にインデックス型に比べてコストは高く設定されています。
アクティブ型には、成長性を重視するものや高配当を重視するもの、株式市場で注目されるテーマの関連銘柄に投資するものなど、さまざまな種類があります。株価指数への連動を求めるインデックス型を上回るリターンが期待される一方、リスクは高くなる傾向にあります。
米国株投信は、それらを取り扱っている銀行や証券会社などの販売会社で購入することができます。購入するためには、その販売会社に口座を開設する必要があります。販売会社によっては、積立投資も可能です。積立投資は、少額から米国株への投資を始めたい人や、投資のタイミングが難しいと感じる投資初心者にもおすすめの投資手法です。毎月など定期的に指定した金額で購入することができ、ボーナスなどによる増額設定も可能です。
NISAを活用し投資することもできます。ただし、つみたて投資枠と成長投資枠で購入できる商品が違う点や、販売会社によって取り扱う商品が違いますので、事前に確認が必要です。
米国株投信にかかる手数料は、投資信託ごとに異なります。購入時手数料や運用管理費用(信託報酬)などについては、それぞれの投資信託の目論見書などで確認しましょう。また、販売会社によって購入時の手数料が異なるケースもあります。
一般的に、米国株投信に投資している場合には、為替リスクが存在します。円安(米ドル高)になった場合には為替差益が発生しますが、逆に円高(米ドル安)となった場合には為替差損が発生します。ただし、米国株投信の中でも「為替ヘッジあり」の投資信託に投資している場合には、為替相場の変動による影響は限定的です。
世界的な有名企業がたくさん上場している米国株式市場。最近では、NISAを活用して米国株投信から始める投資初心者も増えています。米国株には、高配当銘柄が数多く存在し、驚くような成長を遂げる企業も続々と誕生しています。資産運用の一つとして米国株投信を検討してみてはいかがでしょうか?
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
(執筆)三枝裕介
マネーライター。個人投資家向けマネー雑誌『MONEY JAPAN』(現KADOKAWA)で副編集長、書籍編集長などを経て、独立。2011年には、財務省の広報誌『ファイナンス』で1年間特集記事を担当した。2018年、休刊していた『ネットマネー』(産経新聞出版)を株式会社ZUUにて復刊、編集長を務める。2020年にマネーライターに転身し、現在に至る。『夕刊フジ』では、中小型の材料株に注目するコラム「来週の剛腕株」などを執筆。